第190回 ジェームズ2世像とワシントン大統領像
以前、トラファルガー広場に面したナショナル・ギャラリーの近くを通ったとき、美術館の正面入り口前にジェームズ2世と米初代大統領ワシントンの銅像が、東西対称の位置に置かれていることに気が付きました。これまで何度もこの美術館を訪れていましたが、誰の銅像なのかまでよく見ていませんでした。それにしても17世紀のイングランド国王と18世紀の米国初代大統領の銅像がなぜ、この美術館の前に置かれているのでしょうか。
ナショナル・ギャラリー
まずジェームズ2世像ですが、この像はもともとジェームズ2世が王に即位した翌年の1686年に、戴冠祝いとしてホワイトホール宮殿に建てられました。ところがその2年後に名誉革命が起きてジェームズ2世はフランスに逃亡してしまいます。さらに1698年、ホワイトホール宮殿は火災でほぼ全焼。幸運にもこの銅像は焼失せずに残り、もともとの設置場所である、現在のバンケティング・ハウスの裏手に1898年まで残されていました。
ジェームズ2世像
その後、ホワイトホ―ルの官庁街を拡大することになり、この銅像も逃亡生活が始まりました。複数の場所を転々とした後、1948年にナショナル・ギャラリー前への移転が決定します。亡命した王様の銅像を設置することに対して賛否両論がありましたが、結局、17世紀に作られた価値ある芸術品ということで全員が納得。それと同時に、当時、美術館裏手に置かれていたワシントン大統領の銅像も建物正面に移されることになりました。
ワシントン大統領像
そもそもジョージ・ワシントンは英国との植民地独立戦争に勝ち、米初代大統領になった人物。18世紀の独立戦争時、英国にとっては不倶戴天の敵でした。しかし20世紀に英米関係がより親密になったことから、米ヴァージニアは州の成立300周年を記念して、同州と所縁の深いワシントンの銅像をロンドンに寄贈してきたのです。しかし、英国政府はその設置場所に困り、衆目を避けて1921年にナショナル・ギャラリーの裏手に設置しました。
ワシントン像の下の土は米ヴァ―ジニア州から輸入されたとも
そして1948年、ジェームズ2世像を美術館前に設置する際、裏手にあったワシントン大統領像も正面前に移されました。建物正面の線対称の位置に銅像を置くことで美術館の威厳が高まり、二つの銅像の台座が高いので厳かな印象になるという狙いです。でもそこには、「この2人の紳士には2度と英国の地を踏ませない」という隠れたメッセージもあったとか。言葉を換えると、二つの像が英国の土地に触れないようにするには、この台座から下ろさないでおくことです。銅像はようやく腰を据える場所を見つけてさぞ安堵したことでしょう。
フランスに亡命したジェームズ2世が、ルイ14 世と再会したときの様子(ニコラ・ラングロワ画)
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