通りの入口では、道化の像がお出迎え。立ち並ぶ店の看板を眺めれば、「The Food of Love」「Mistress Quickly」「As You Like It」と、おなじみの戯曲のタイトルや台詞、登場人物の名がずらり。ここ、ストラトフォード・アポン・エイボンは、言わずと知れた劇作家ウィリアム・シェイクスピア生誕の地だ。今年はシェイクスピア生誕450周年。街の至るところにシェイクスピアの面影が色濃く残るこの街で、シェイクスピアを知り、観て、感じる旅をしてみよう。
ロンドンからのアクセス:
London MaryleboneからStratford-upon-Avonまで列車で2時間強
ストラトフォード・アポン・エイボンとシェイクスピアの関係
ウィリアム・シェイクスピアは1564年4月23日、イングランド中部ウォーリックシャーに位置するストラトフォード・アポン・エイボンでその生を受けた(*1)。父のジョンは皮手袋職人で、羊毛取引などで財を成し、後には町長にまで登り詰めた地元の名士、母のメアリー・アーデンは、ジェントリー(紳士階級)出身。恵まれた環境で育ったものの、父親はシェイクスピアが10代前半のころ、地位も財産も失ってしまう。1582年には18歳で近隣の村ショッタリーにある農家の娘で8歳年上のアン・ハサウェイと結婚。3人の子供に恵まれたが、20歳のときに突如姿を消し、数年後にはロンドンの劇壇で活躍するようになる。
とはいえ、故郷とのつながりを断ったわけではなく、シェイクスピアはロンドンにいながらにして故郷に住む家族のため、地元での地位を確固たるものにしていく。1596年には父が望んで果たせなかった紋章申請が認可されてジェントリーに。その翌年には33歳という若さで地元で2番目に大きな邸宅「ニュー・プレイス」を購入。その後も広大な不動産を購入したかと思えば、440ポンドを投資して10分の1税(*2)の徴収権を得て、定収入を増やすことに成功。高額納税者として一族は死後、そろって地元教会の内陣に埋葬されることになる。
1613年、故郷へと戻ったシェイクスピアは、1616年4月23日、奇しくも誕生日と同じ日に死去した。才能が開花する前の青年期までと晩年を過ごしたこの地では、劇作家としてだけでなく、ビジネスマンや一家の長など、様々なシェイクスピアの横顔を見ることができる。
*1: 正式な生誕記録は残っていないが、洗礼日(26日)から推測されている
*2: 教会に対し収穫物の10分の1を納める税金
参照:「 シェイクスピア ハンドブック」(三省堂)
ストラトフォード・アポン・エイボンの地図(クリックすると拡大します)
シェイクスピアを観る
シェイクスピアの故郷でシェイクスピアの芝居を観る――舞台好きはもちろん、そうでない人にも心に残る体験となることは間違いない。シェイクスピア一族の家々を訪ねたあとには、彼の創造物を観ることでその思考をたどる旅に出るのも面白いのでは。
シェイクスピアを知る
一族の家々や少年時代に学んだとされる学校、冠婚葬祭を司った教会など、この地にはシェイクスピア一家の生きた証が点在している。彼らの気配さえ感じられそうなこれらの場所を訪れれば、生身の人間としてのシェイクスピアを実感できるはず。
*Shakespeare Birthplace Trust
管理施設の営業時間は2014年夏季(11月2日まで)のもの
シェイクスピアを観る
生誕地で観る芝居は格別
Royal Shakespeare Company
& Theatres
ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー&シアターズ
エイボン川を臨み、街を睥睨(へいげい)するレンガ造りの堂々たる建物は、英国が誇る劇団ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーが拠点にしている劇場。大・中・小の劇場を抱え、シェイクスピア作品はもちろん、現在はロンドンで上演中の「マチルダ」など子供向けのミュージカルなども制作している。観客の目と鼻の先で役者が演技を繰り広げ、ときに観客に語り掛けることもある張り出し舞台は迫力満点だ。
(写真)エイボン川に抱かれるように建てられた劇場
あの名公演の裏話まで盛りだくさん
Behind The Scene Tours
劇場ツアー
現在上演中の芝居の大道具もそのままの舞台裏から客席、最高責任者が使用するコントロール・ルームに至るまで、劇場の隅から隅まで見ることのできる人気のツアー。芝居で使う血液や、役者の驚くべき早替えの秘密など、シェイクスピア・ファンでなくても満足できる充実の内容だ。
(写真)劇場内部を隈なく観て回ることができる
知的好奇心と食欲をともに満たす
Rooftop Restaurant & Bar
ルーフトップ・レストラン&バー
劇場上部に位置し、界隈を一望できるブリティッシュ料理レストラン。美しい盛り付けの料理の数々に舌鼓を打った後に芝居を観れば、身も心も満足できるはず。なお、壁の上部に3脚の椅子が貼り付けられているのが目につくが、これは改築前の劇場の客席をそのままの位置で残しているのだとか。
写真)景色も料理も堪能
Waterside, Stratford-upon-Avon CV37 6BB
Tel: 0844 800 1110(Box Office)
Tel: 01789 403449(Rooftop Restaurant & Bar)
www.rsc.org.uk
シェイクスピアが眺めた景色を歩く
シェイクスピアは、慣れ親しんだ地の景色を作品に投影することもあったという。柳が揺れるエイボン川のほとりを歩き、木々がうっそうと茂る小川を眺めれば、シェイクスピアの思考をほんの少し、たどれるかもしれない。
シェイクスピアを知る
生まれ育った家で即興劇を
Shakespeare's Birthplace シェイクスピアの生家
街のシンボル的存在であるこの建物内でシェイクスピアは生まれ、結婚後数年して引っ越しをするまでの年月を過ごした。隣接するシェイクスピア・センターで世界各国のシェイクスピア関連書物やアートを観てから家の内部へ。庭では当時の衣装に身を包んだ役者たちが即興劇を繰り広げている。ときには観客も参加して、家の2階と庭で「ロミオとジュリエット」の一場面を演じることも。
(写真上)当時の裕福な暮らしぶりがうかがえる家
(写真下)役者たちはシェイクスピアの全戯曲の一場面を演じられるそう
Henley Street, Stratford-upon-Avon CV37 6QW
Tel: 01789 204016
月~日 9:00-17:00(6月30日~8月31日は17:30まで)
£15.90(子供£9.50、Hall's Croft、New Place & Nash's House、Shakespeare's Graveとの共通パス)
www.shakespeare.org.uk
母親の生家は現役農家
Mary Arden's Farm
メアリー・アーデンの農場
郊外の村ウィルムコートに位置する、シェイクスピアの母親メアリー・アーデンの家は、現在も農場として機能しており、牛や羊、豚などが出迎えてくれる。あちらこちらで当時の衣装を身に着けた人々が会話しながらパンを焼いたり、洗濯をしているのが面白い。愛らしいフクロウのショーは子供たちに人気。
(写真上)何羽もいるフクロウはとってもキュート
(写真右)当時の手法でパンを焼く人たち
Wilmcote駅から徒歩10分
Station Road, Stratford-upon-Avon CV37 9UN
Tel: 01789 204016
月~日 10:00-17:00
£12.50(子供£8)
www.shakespeare.org.uk
結婚前に何度も通った妻の生家
Anne Hathaway's Cottage & Gardens
アン・ハサウェイの家
シェイクスピアの妻であったアン・ハサウェイの生家。こんもりと曲線を描いた茅葺屋根にハーフティンバーの壁面がチャーミングな家と広々としたガーデンが、牧歌的な風景をつくり上げている。花々が咲き誇るガーデンには、柳の小屋や、現代的な彫刻の数々も。シェイクスピアにヒントを得て作曲されたという音楽を聴きながら*、遊歩道をゆっくり散策してみよう。
*春夏の期間のみ、チケット・オフィスでヘッドフォンを貸し出している
写真)春から夏にかけては美しい花が咲き誇る
Bridge Streetのバス停から19番のステージコーチに乗り、Cottage Lane下車
Cottage Lane, Stratford-upon-Avon CV37 9HH
Tel: 01789 204016
月~日 9:00-17:00
£9.50(子供£5.50)
www.shakespeare.org.uk
娘とその婿が住んだ知的な家
Hall's Croft ホールズ・クロフト
シェイクスピアの長女スザンナは1607年、地元在住の医師ジョン・ホールと結婚した。医者の家だけあって、内部には診察室があるのに加え、調薬器具、医療書などのユニークな展示物も。静けさに満ち、整然としたガーデンには、当時は治療にも利用されていたというハーブなどが植えられている。
写真)端正な外観が知的な雰囲気を醸し出す 写真)当時の診察室の様子を再現
Old Town, Stratford-upon-Avon CV37 6BG
Tel: 01789 204016
月~日 10:00-17:00
£15.90(子供£9.50、Shakespeare's Birthplace、New Place & Nash's House、
Shakespeare's Graveとの共通パス)
www.shakespeare.org.uk
シェイクスピアはここで学んだ?
King Edward VI School エドワード6世校
シェイクスピアが通ったとされるこの学校は、1295年創立の教育施設をエドワード6世が16世紀に再設立したものなのだそう。ブレザー服姿の生徒たちが闊歩し、バンドの音楽が鳴り響く校舎は、外から見る限りほかの学校と何ら変わりないが、シェイクスピアが学んだという教室(ビッグ・スクール)は、当時の面影そのまま。ごく限られた期間のみ一般公開され、現役の生徒のガイドで見学することが可能。
写真)シェイクスピアが座ったとされる席もある
Church Street, Stratford-Upon-Avon CV37 6HB
Tel: 01789 293351
www.kes.net
*一般公開日は学校の公式ツイッターなどで直前に発表されるので要確認
晩年住んだ家は孫の家と隣同士
New Place & Nash's House
ニュー・プレイスとナッシュの家
ナッシュの家は、シェイクスピアの孫、エリザベスが最初の夫、 トマス・ナッシュとともに住んだ家。ニュー・プレイスはシェイクスピアが晩年を過ごした家だが、18世紀に当時の持ち主が観光客の多さに辟易して取り壊してしまったため、現在見学できるのは低木を結び目のように交錯させたノット・ガーデンと、戯曲をモチーフにした彫刻が置かれたガーデンのみ。彫刻の裏側には台詞の一部が彫られているのが興味深い。
写真)まるで絵画のようなノット・ガーデン
22 Chapel Street, Stratford-upon-Avon CV37 6EP
Tel: 01789 204016
月~日 10:00-17:00
£15.90(子供£9.50、Shakespeare's Birthplace、Hall's Croft、Shakespeare's Graveとの共通パス)
www.shakespeare.org.uk
生と死を見守った教会
Holy Trinity Church ホーリー・トリニティー教会
エイボン川のほとりに佇むホーリー・トリニティー教会は、シェイクスピアとその一族の誕生から結婚、死去に至るまでを見守り続けてきた。内陣の祭壇の前に並ぶのは、一族の墓。左から2番目に位置するシェイクスピア本人の墓の上には、「我が骨を動かす者に呪いあれ」という呪詛が刻まれている。向かって左側の壁には、シェイクスピアの胸像が。その右手に握る羽根ペンは、毎年彼の誕生日に新調されるのだとか。
(写真左)シェイクスピア一族皆が埋葬されている
(写真右)呪詛が刻まれたシェイクスピアの墓
Old Town, Stratford-upon-Avon CV37 6BG
Tel: 01789 266316
月~土 8:30-18:00(3、10月は9:00-17:00、11~2月は9:00-16:00)、日 12:30-17:00
www.stratford-upon-avon.org
Lambs
16世紀に建造された建物を利用した、地元民にも人気の高い落ち着いた雰囲気のレストラン。観劇前にはセット・メニューがお勧め。味もプレゼンテーションも抜群の料理をお手頃価格でいただける。
12 Sheep Street, Stratford-upon-Avon
CV37 6EF
Tel: 01789 292554
月・火 17:00-21:00、水~土 12:00-14:00、17:00-21:00、日 12:00-14:00、18:00-21:00
www.lambsrestaurant.co.uk
Othello's Bar & Bistro
老舗ホテルであるシェイクスピア・ホテルの一角にある、モダン・ヨーロピアン・レストラン。16世紀の香りが漂う重厚な雰囲気を味わえる一方で、サービスはとてもフレンドリーなのがうれしい。夏季にはオープン・エリアでの食事も楽しめる。
Chapel Street, Stratford-upon-Avon CV37 6ER
Tel: 01789 269427
月~金 12:00-22:00、土 12:30-22:00
www.othellosbrasserie.co.uk
Loxleys Restaurant & Wine Bar
真紅の壁とシャンデリア、アンティーク家具が絶妙に溶け合ったこの店は、近年オープンしたばかりだが、既に地元では味の良いレストランとして名を馳せている。鮮やかな赤がまぶしいビートルートのリゾットなど、料理にもセンスの良さが感じられる。
3 Sheep Street, Stratford-upon-Avon
CV37 6EF
Tel: 01789 292128
月~土 9:30-23:00、日9:30-22:30
www.loxleysrestaurant.co.uk
The Garrick Inn
ちょっと歪んだチューダー朝の建物に柱の彫物が何とも言えない趣を醸し出すThe Garrick Innは、ストラトフォード・アポン・エイボン最古のパブといわれている。1594年からサーブしているというリアル・エールをぐびりと飲めば、タイムトリップした気分になれるかも。
25 High Street, Stratford-upon-Avon CV37 6AU
Tel: 01789 292186
月~日 11:00-23:00
Shakespeare Birthplace Trust
シェイクスピア一族の家々やガーデン*を管理するチャリティー団体。管理下の5カ所をすべて回れる共通割引パスなどを販売しているので、ウェブサイトを参照してみよう。
*Shakespeare's Birthplace、Mary Arden's Farm、
Anne Hathaway's Cottage & Gardens、Hall's
Croft、New Place & Nash's House
www.shakespeare.org.uk
City Sightseeing Stratford Upon Avon
中心部は歩いて回れるものの、郊外にあるアン・ハサウェイの家やメアリー・アーデンの農場は徒歩だと20~40分はかかる。時間に余裕がある人ならば散歩がてら歩くのも良いが、効率良く回りたいならば周遊バスを使うのがお勧め。バースプレイス・トラストが管理する5カ所を20~30分毎(季節によって異なる)に回っていて、自分の都合に合わせて乗り降りできる。
£13(子供£6.50。24時間乗り放題)
ストラトフォード・アポン・エイボンにお泊まりの際は
ムーンレイカー・ハウス Moonraker House
純英国スタイルに日本人ならではの心配り
駅から徒歩約5分という便利な立地が人気の4ツ星のゲスト・ハウス。
シェイクスピアの戯曲に出てくる登場人物の名が付けられたゲスト・ルームは、部屋ごとに雰囲気の異なるインテリアが特徴。青色で統一された「オーベロン」や、天蓋付きベッドがロマンティックな「ティタニア」など、ウェブサイトで写真を見ながら自分のイメージに合う部屋を選んでみよう。
地元産の食材にこだわった朝食は、ボリュームたっぷりなのに油控えめでさっぱりいただける。オーナーの大畑さんは、観光地はもちろん、景色の美しい散歩道や食情報にも通じているストラトフォード・アポン・エイボンの達人。大畑さんのアドバイスを基に街散策をすれば、より一層充実した旅を楽しめること間違いなしだ。
INFORMATION
宿泊料金
シングル:50ポンド〜、ツイン / ダブル:72〜88ポンド
ファミリー:95ポンド〜
*朝食込み、長期滞在割引あり
40 Alcester Road, Stratford-upon-Avon CV37 9DB
Tel: 01789 268774
Email:
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www.moonrakerhouse.com