ウィグモア・ホールにて開催
ピアニスト 辻井伸行さんのロンドン公演
2013年、ロンドンで毎年開催される世界最大級の音楽祭プロムスにデビューし、好評を博した日本人ピアニストの辻井伸行さん。演奏を生で聴き、感動のあまり泣きすぎてマスカラが落ちて凄まじい顔になってしまったという同僚の話を聞き、逃して悔しい思いをしていたのですが、そんな辻井さんがソロ・コンサートを開くと知り、16日にウィグモア・ホールに向かいました。
ロンドン有数の繁華街オックスフォード・ストリートのそばにありつつ、閑静なストリート沿いにひっそりと佇むウィグモア・ホールは、小規模ながら音響に優れ、世界中から著名演奏家が集う音楽ベニューとして知られています。日本で大人気、英国でもプロムスでの好演奏が記憶に新しい辻井さんのコンサートとあって、チケットは早々に完売。当日も辻井さんの大ファンと思しき方々から、せっかくの機会だからと足を運んだ在英邦人の皆さん、そして定期的に同ホールに来るという筋金入りの音楽ファンまで、様々な人たちが小さな空間に集まりました。
全盲である辻井さんは、マネージャーに伴われ舞台上へ。そっと確かめるように鍵盤に触れた後、演奏が始まりました。この日のプログラムは「12の練習曲 作品10」及び「バラード」第1番~4番というショパン尽くし。斜め下に顔を向け、表情は変えず時折頭をくっと振りながら鍵盤を叩く様にはストイックさが感じられました。曲調により緩急を自在に操る辻井さんでしたが、個人的に印象に残ったのは、演奏する音、そして姿勢から発散される「ゆるぎない強さ」。音楽は全くの素人ではありますが、特に高音の硬質な美しさが際立っていたように思いました。
そしてプログラムが無事終了。演奏中は若武者のように凛々しい表情で演奏していた辻井さんが、顔をほのかに紅潮させ、笑みを浮かべながら何度も深くお辞儀する姿に、満場の観客からは大きな拍手と「ブラボー」の声が。アンコールは3曲。2番目に弾いたリストの「ラ・カンパネラ」は、澄み切った音の粒が鍵盤から次々と零れ落ちるようで、観客の盛り上がりも最高潮。続く「それでも、生きてゆく」は、辻井さんが東日本大震災の被災者への思いを込めて作曲したという曲で、最後、鍵盤に向かって祈るように頭を垂れていていた姿が心に残りました。
コンサート終了後に行われたレセプションに出席した辻井さんは、「お客さんが集中してくださったので、楽しく演奏することができました」と満足そうににっこり。握手や写真撮影を求める人たちと気さくに語らっていらっしゃいました。また、私が何も知らず話し掛けた英国人の男性は、何とクラシック音楽の批評家だったのですが、「実に素晴らしい演奏だった!」と興奮気味。「実に正確な演奏で、それでいてエンターテインメント性もある。立派なショパン・プレイヤーだ」と熱くお話くださいました。
最後に、今回のコンサートに来られなかった皆さんに朗報。辻井さんは21日(木)、22日(金)にリバプールにてロイヤル・リバプール・フィルハーモニー管弦楽団と共演予定。ちょっと遠いですが、英国の歴史あるオケとの共演、しかも演奏されるのはベートーベンの「ピアノ協奏曲第5番『皇帝』」ということで、ご興味のある方はぜひ足をお運びください!
駐英国特命全権大使林御夫妻と辻井伸行さん
Royal Liverpool Philharmonic Orchestra: Emperor
4月21日(木)&22日(金)19:30
Liverpool Philharmonic Hall
Hope Street, Liverpool L1 9BP
Tel: 0151 709 3789
www.liverpoolphil.com