比較的平坦な地形が織り成す柔らかな丘陵や、どこまでも続く田園風景。それが英国の魅力であることは間違いないものの、日照時間の延びるこれからの季節、英国の近隣国にある雄大な自然に触れてみるのはいかがだろう。今回は、神秘的な湖や荒々しい岩山、そして深い森など、ロマンティックな大自然が展開するドイツの秘境と絶景をご紹介。頑丈な靴に履き替えて、ダイナミックな旅に出よう。
(ドイツニュースダイジェスト 高橋 萌)
数字から見るドイツの自然
ドイツには現在、16の国立公園、15の生物圏保護区、104の自然公園、そして8000以上の自然景観保護地区があり、これらを合わせた面積は、国土の約48%に相当する。ドイツの森林は、モミの木に似ているトウヒ(25%)、松(22%)、ブナ(15%)などで構成され、7万7500種類の野生動物が生息している。ドイツには、北海とバルト海という二つの海と、ライン川(865km)、エルベ川(727km)、ドナウ川(647km)など国境を越えて流れるいくつもの河川がある。
電車の種類について
IC、ICE: 特急鉄道 Sバーン: 近郊鉄道
EC: ユーロシティー RE: 都市間急行 RB: 都市間電車
1億年の時が生み出した奇岩地帯 ザクセン・スイス国立公園 Nationalpark Sächsische Schweiz
「エルベのフィレンツェ」の異名を持つザクセン王国の古都ドレスデンから、東南へたったの45分。希少な動植物が生息するエルベ砂岩地帯にあるザクセン・スイス国立公園の玄関口、バート・シャンダウに到着する。ドイツとチェコの国境をまたぐこの一帯の、白亜紀にまで歴史をさかのぼる幽玄な侵食風景は、一度見たら決して忘れられない。この岩山は、登山というほど高くはなく、比較的ゆるやかなハイキング・ルートも整備されているので、観光客も基本的な装備で気軽にチャレンジOK。奇岩の迷宮が織り成す風景に目を奪われながら歩けば、時間はあっという間に過ぎていく。
見所の一つであるバスタイ橋(Bastei)は、19世紀のドイツを代表するロマン主義の巨匠カスパー・ダーヴィト・フリードリヒ(1774-1840)が風景画に描いたことで、一躍有名になった。自然を賛美する絵を描き続けた彼にちなみ、「画家の道(Malerweg)」というハイキング・コースもある。
一方、断崖絶壁の岩山が連なる荒々しさもザクセン・スイスの魅力。道具に頼らずに岩を登る「フリークライミング」発祥の地と言われ、ロック・クライマーのメッカともなっている。エルベ川の遊覧船から岩山の迫力を楽しんだり、エルベ川沿いのサイクリング・ロードを満喫するのもおすすめ。
鉄道駅のあるバート・シャンダウは、「トスカーナ・テルメ」などの温泉施設のある保養地。歩き疲れた身体はここで癒し、19世紀から動いているレトロなキルニッチュ渓谷鉄道でリヒテンハイナー滝まで足を伸ばしてみて。
ロンドンの各空港からフランクフルトやミュンヘンなどで乗り換え、ドレスデン空港まで約4時間弱。そこから電車(S バーン)で約1時間20分(ドレスデン中央駅で乗り換え)、ザクセン・スイス国立公園の入り口、バート・シャンダウ(Bad Schandau)で下車。バスタイ橋へは、Sバーンでクロート・ラーテン(Kurort Rathen)で下車、船で対岸に渡る
Nationalparkverwaltung Sächsische Schweiz
An der Elbe 4, 01814 Bad Schandau
Tel: +49 (0)35022-900600
www.nationalpark-saechsische-schweiz.de
自然と伝統、アルプスの宝を守る ベルヒテスガーデン国立公園 Nationalpark Berchtesgaden
バイエルン州の東南に位置するベルヒテスガーデン国立公園が、ドイツで唯一のアルプスの国立公園に定められたのは1978年のこと。アルプスの魅力を凝縮したようなこの国立公園は、画家たちを魅了するドイツの絶景の中でも、ひときわ風光明媚な場所。切り立つ山を隔てるケーニヒ湖はエメラルド・グリーンに輝き、ドイツに留学していた日本画家の東山魁夷(1908-1999)に「緑深き湖」という作品を生むインスピレーションを与えた。ちなみに、風景画家カスパー・ダーヴィト・フリードリヒを日本に紹介した人物こそが東山であり、彼はドイツの巨匠から少なからぬ影響を受けたとされている。
国立公園内の最高峰は、標高2713メートル、ドイツで3番目に高いヴァッツマン山。登山やハイキングのコースが豊富にあり、ウィンター・シーズンにはスキーも楽しめる。脚力に自信がない人は、イエンナー・ロープウェイで一気に標高1800メートルへ。
ベルヒテスガーデンは、もてなしの文化が根付く家族連れにも優しい保養地。そして、環境に配慮したツーリズムの先駆けとしても知られている。ヴァッツマン山は、淡水の貯蔵量で世界最大、ケーニヒ湖は飲料水としても高いクオリティーを誇る。豊かな牧草地は高原酪農の伝統を受け継ぎ、野生の動植物の多様性は同地が自然の楽園であることを示している。
絵本の世界に迷い込んだようなラムザウ村を散策したり、ベルヒテスガーデン岩塩坑でトロッコ地底探検を楽しんだり、雄大なアルプスの山々を背景にした、ロマンティックかつエキサイティングな体験が旅人を待っている。
ロンドン各空港からミュンヘン空港までは直行便で約1時間45分。ミュンヘン中央駅までは電車(S バーン)で約40分。同駅から電車(Meridian、EC)で2時間半。1度、フライラッシング(Freilassing)で乗り換えて、ベルヒテスガーデン中央駅へ
Nationalparkverwaltung Berchtesgaden
Doktorberg 6, 83471 Berchtesgaden
Tel: +49 (0)8652-96860
www.nationalpark-berchtesgaden.de
自然の力に野生が目覚めるヤマネコの故郷 アイフェル国立公園 Nationalpark Eifel
「アイフェルの真珠」と呼ばれるモンシャウを始め、深い森の中に小さくも愛らしい町が点在することで知られるアイフェル地方。ここに、ドイツ西部で最初の国立公園がある。ケルンから車で約1時間、ベルギー国境近くのアイフェル国立公園は、2004年から2034年までの30年間、敷地面積の4分の3に当たる範囲について、人間の手を加えずに自然に返す活動をしている。
かつて木々が伐採されていた場所には現在、天然のブナや樫が生い茂り、森林には19世紀に絶滅しかけたヤマネコが1000匹以上確認され、2000種類以上の絶滅危惧種が生息している。
自然保護と、環境教育に力を入れているアイフェル国立公園の魅力は、多彩なプログラム。子供向け、家族向け、車椅子でも参加可能なバリア・フリーなハイキング・ツアーなど、参加者のコンディションや需要に合わせたイベントが盛りだくさん。自然公園ツアーのスタートは、ニデッゲン(Nideggen)やハイムバッハ (Heimbach)、モンシャウ・ヘーフェ(Monschau-Höfen)、シュライデン・ゲミュント(Schleiden-Gmünd)、ジメラート・ルアベルク(Simmerath-Rurberg)から。それぞれの場所に案内所が設置されている。3つの小島が浮かぶルア・シュタウ湖を始め、水辺の景色も美しく、ボートやカヌーを楽しむ人でにぎわう。
人里離れた国立公園から見上げる夜空は、ロマンティックな満天の星空。アイフェル国立公園は、2014年にドイツ国内では初めて、「インターナショナル・ダークスカイ・パーク」に選ばれている。
ロンドン各空港からケルン空港までは直行便で約1時間20分。そこからケルン中央駅まで電車(Sバーン)で約15分。電車(RE)でデューレン(Düren)へ。ルアタール鉄道(Rurtalbahn)に乗り換えてハイムバッハ駅へ。所要時間は、片道1時間20分ほど。ニデッゲンへは、デューレンからバスで
Nationalparkforstamt Eifel
Urftseestr.34, 53937 Schleiden-Gemünd
Tel: +49 (0)2444-95100
www.nationalpark-eifel.de
バルト海を一望する白亜の海岸 ヤスムント国立公園 Nationalpark Jasmund
ドイツの北東の端にあるバルト海最大の島、リューゲン島にあるヤスムント国立公園にも、風景画家カスパー・ダーヴィト・フリードリヒら、ロマン主義の画家たちが好んで描いた絶景がある。前長10キロ、最大約117メートルの高さの白亜の崖「王の玉座(Königsstuhl)」がそれだ。荒涼としたバルト海と豊かなブナ林、白い山肌のコントラストが美しく、2011年にはカルパティア山脈の「ドイツの古代ブナ林群」の一画としてユネスコの世界遺産に登録されている。高級リゾート地ならではの美しい街並みもリューゲン島の魅力。その街並みを縫うように走る機関車「リューゲン軽便鉄道」は、鉄道ファン必見。
ロンドン各空港からベルリン・テーゲル空港まで約1時間45分。その後ベルリン中央駅から電車(RE)で約2時間45分でシュトラールズント(Stralsund)着。電車(RE)で50分、ザスニッツ(Sassnitz)で下車。そこからバスに乗り換え20分で「王の玉座(ケーニヒスシュトゥール)」に到着
Nationalpark Jasmund
Stubbenkammer 2a, 18546 Sassnitz
Tel: +49 (0)38392-3501122
www.nationalpark-jasmund.de
数奇な歴史に守られた美しい自然 ハイニッヒ国立公園 Nationalpark Hainich
ドイツが東西に分断されていた時代、東ドイツ(DDR)が軍事上の理由で立ち入りを禁止していた深い森が、ハイニッヒ国立公園のある場所。この歴史が、「ドイツ中央部の原生林」と呼ばれる同公園の自然を守り、今なお巨木が生い茂り、絶滅危惧種を含め7000種の動植物が生息する自然の宝庫を生んだ。ユネスコ世界遺産「ドイツの古代ブナ林群」の一部で、ジャングルのような森を散策するのに、遊歩道「バウムクローネンプファート」の存在が心強い。全長306メートルの遊歩道は研究目的で建設されたものとあって、途中にある塔から森を一望できる。ハイキング・ルートも整備されていて、初心者向け散策ルートも豊富。
ロンドン各空港からフランクフルト空港までは直行便で約1時間20分。そこからフランクフルト駅まで電車(Sバーン)で約15分。電車(ICE)で約2時間でアイゼナッハ(Eisenach)に到着。電車(RE かRB)で約40分、ゴータ(Gotha)で乗り換え、バート・ランゲンザルツァ(Bad Langensalza)へ。そこから、バウムクローネンプファート(Baumkronenpfad)行きのバスが出ている
Nationalpark Verwaltung Hainich
Bei der Marktkirche 9,
99947 Bad Langensalza
Tel: +49 (0)361-573914000
www.nationalpark-hainich.de
ドイツで一番新しい国立公園 フンスリュック・ホッホヴァルト国立公園 Hunsrück-Hochwald National Park
ラインラント=プファルツ州とザールラント州にまたがるフンスリュック・ホッホヴァルト国立公園は、2015年春にオープンした国立公園。ここに広がるブナ林は、ヤマネコなどの希少動物にとっての緑のオアシス。そして人は、霧がかった湿原と奇岩が織り 成す神秘的な風景の中で、大自然の静寂に包まれる。全長410キロもある登山道ザール・フンスリュック(Saar-Hunsrück-Steig)は、人気のトレッキング・ルート。美しい渓谷や、山間の石垣などにケルト民族の足跡を発見し、牧歌的な村々を満喫しよう。近郊のヘレンベルクやフィッシュバッハにある鉱山跡の見学スポットは、子供にも人気。
ロンドン各空港からフランクフルト空港までは直行便で約1時間20分。フランクフルトから電車(RE)で約1時間40分、イーダー・オーバーシュタイン(Idar-Oberstein)下車。そこから、国立公園の各ルートへバスが出ている
Nationalparkamt Hunsrück-Hochwald
Brückener Str.24, 55765 Birkenfeld
Tel: +49 (0)6131-8841520
www.nationalpark-hunsrueckhochwald.de
地球上で最大規模の干潟 ワッデン海国立公園 Nationalpark Wattenmeer Schleswig-Holstein
ドイツ国内では、シュレースヴィヒ=ホルシュタイン州、ニーダーザクセン州とハンブルク市にまたがり、オランダとデンマークにまで及ぶのワッデン海。連続しているものとしては、地球上で最も大きな北海沿岸の干潟地帯に、国立公園はある。ここでは、1日4回の潮の満ち引きにより、6時間ごとに数キロ四方の陸地が海になるというダイナミックな景観の変化を見ることができる。ほかでは見られない生態系、塩性草原や沿岸の生物や野鳥に出会え、運が良ければアザラシが砂の上で日光浴をしている姿も眺めることができる。周辺の漁村に滞在し、ザンクト・ペーター=オルディングの水族館や干潟クルーズを楽しんで。
ロンドン各空港からハンブルク空港までは直行便で約1時間30分。ハンブルク駅まで電車(S バーン)で20分。電車(IC)で約1時間半のハイデ(Heide)へ向かい、北鉄道(NBE)に乗り換えて約30分で干潟の町ビュズム(Büsum)に到着
Landesbetrieb für Küstenschutz,
Nationalpark und Meeresschutz
Schlossgarten 1, 25832 Tönning
Tel: +49 (0)4861-6160
www.nationalpark-wattenmeer.de