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Tue, 08 October 2024

大混乱した450年前のロッタリー知られざる
英国宝くじの歴史

英国では1994年にナショナル・ロッタリー(国営宝くじ)が始まり、以来多くのミリオネアを生んできた。今でこそオンラインなどで誰もが気軽に楽しめる宝くじだが、450年前に初めて英国で抽選が行われた当時はどんな様子だったのだろうか? 1569年1月11日、ロンドンの旧セント・ポール大聖堂横で抽選が行われるまで、一筋縄ではいかない状況が待ち受けていた。それはあたかも、英国の欧州からの離脱のように……。

文:英国ニュースダイジェスト編集部
資料文献:Fate’s Bookie:How the Lottery Shaped the World by Gary Hicksなど

宝くじのチケット1814年にイングランドで行われた宝くじのチケット

海外進出のための港づくり

時は大航海時代、当時イングランドを統治していたエリザベス1世(1533年~1603年)と政府は貿易をめぐり強国スペインとの戦争を意識していた。しかしイングランド海軍の装備や港はあまりに貧弱であり、軍事費の調達が必要だった。女王の重臣ウィリアム・セシルは欧州西部のユトレヒトやアントワープといった地域で要塞の建設費に宝くじが当てられていることを知り、イングランドでもこれを採用しようと思いたった。ちなみに世界で最初の宝くじは紀元前の中国と言われているが、それは万里の長城の建設資金を作るためだったといい、また、古代ギリシャの宝くじは戦費の調達に活用されている。

1等はお金と豪華賞品!

セシルのアドバイスを受けたエリザベス1世は、1567年8月23日、「ハズレなしの超豪華な宝くじ(A very rich Lotterie generall without any Blankes)」の販売を布告。ロンドンのシティには、賞金や景品の詳細を示した縦150センチ横50センチの大きなポスター(下図)が至る所に貼られた。そのポスターによると、チケットは1枚10シリング(現在の約119ポンド=約1万8000円)と、一般市民にはなかなか手の届きにくい額ではあるものの、1等は当時にしては考えられないほど豪華な5000ポンド(現在の価値で約10万ポンド)相当の賞品で、内訳は現金で3000ポンド、銀のプレートで700ポンド、残りは良質のタペストリーと最高級のリネンだった。

また、なるべく多くの市民がチケットを購入するように、宝くじの購入者は全ての犯罪における逮捕を7日間免れることができる(ただし、殺人などの重犯罪や海賊行為、国家への反逆は除く)という特典を付けた。チケットはロンドンだけでなく、ヨーク、コヴェントリー、オックスフォード、ケンブリッジ、さらにはダブリンなど計18カ所で一斉に発売された。販売期間は翌1568年の4月15日まで(ロンドンは5月1日)と、現代の感覚からすれば随分長い。

ポスター1567年に告知された、英国初の宝くじを宣伝したポスター(部分)。「A very rich Lot terie gener all without any Blankes(ハズレのない豪華な宝くじ)」とある。並んでいる食器の絵は、当選商品を表している

全然売れない理由とは

ところが宝くじ販売の意図を知らないであろう市民たちは、自分が払う宝くじの代金がエリザベス1世の懐を潤わせるだけなのではないかと疑い、なかなか手を出さなかった。当初、港の修理費として10万ポンドを得るために、女王と政府は40万枚のチケットを販売しようと考えていた。総額約5万5000ポンドの賞金を3万枚の当選チケットに分散し、37万人の不運な人々にはチケット代の25%を還元するという計算だ。しかし、すぐにこれが楽観的な考えであることが明らかになった。ギャンブル好きの住民が多いとされるアイルランドですら500枚も売れず、エリザベス1世は「宝くじが女王の小遣いになる」というデマを広めた人間は処罰すると発表したほどだった。女王とウィリアム・セシルは徹底的な宝くじ販売キャンペーンを展開し、世界に先駆けた「ダイレクトメール」方式を使い、盛んに宝くじを宣伝した。

度重なる抽選日の延期に市民はプンプン

集客に苦労しただけでなく、当選番号の発表もまた混乱を極めた。なるべく多くのチケットを売りたい女王と政府は何度も抽選日を延期。ロンドン市長は、混乱し不満を抱く市民をなだめるために「1568年6月よりも抽選日が遅れることはない」と告知を出さなければならなかった。しかし政府はその後も延期を繰り返し、最終的にようやく抽選が始まったのは1569年1月11日。旧セント・ポール大聖堂の西口ドア横に簡易の抽選小屋が設置され、付近ではパイや果物、酒類を売る市が立ち、酔っ払いが徘徊する、カーニバルのような、騒がしくも祝祭的な雰囲気に包まれたという。米歴史家のロレーン・ダストン氏によれば、当選チケットは目隠しなどをした子供によって1枚ずつ選ばれ、ずいぶん手間と時間がかかった。そのため抽選は同年の5月6日まで毎日続いたという。それでも当選番号が発表されるたび、見物人からはヤジや歓声が上がった。

旧セント・ポール大聖堂1569年にロンドンの宝くじ販売場所となった旧セント・ポール大聖堂。西口ドア横に宝くじの抽選小屋ができ、隣接する庭には市が立った。1666年のロンドン大火以前の大聖堂は、ドームではなく尖塔だった

最高額がまさかの12分の1に

しかし、いくら延期をして宝くじの購入を市民に奨励しても、エリザベス1世と政府は元の計画だった40万ポンドのうちの12分の1の収益金しか集められず、賞金総額を9000ポンドに減らさなければならなかった。従って、このシステムの下では、最高額も当初の5000ポンドからその12分の1の416ポンドに減額。一方で、1等当選のチャンスは増加した。

宝くじの歴史を著したギャリー・ヒックス氏の「フェイツ・ブッキー(Fate’s Bookie)」によると、この時の1等当選確率は1万6000分の1だったという。ただし賞金額が減ったことで損をする当選者も現れ、宝くじのシステムが破たんしていることが明らかになった。例えば、シティでも特に力のある組合組織の一つである毛織物ギルド(The Drapers)は、54ポンド分のチケットを購入したにもかかわらず、取り立てて価値も特徴もない兜(かぶと)など、武具をいくつか引き当てただけだった。兵士でもない組合には何の役にも立たず、同ギルドは仕方なく、抽選小屋の係員に2シリング、使い道のない甲冑(かっちゅう)をホールに運び込んだ使用人に6シリングのチップを与えたという。

やっぱり女王が怪しい?

こうして英国初めての宝くじは失敗のうちに終わった。結局、女王と政府は港の整備費用を捻出するために、ロンドンの商人たちから枢密院を通していくらか借金する羽目になり、残りは今後新しく建設されるパブからライセンスと称して1軒に付き2シリング6ペンスずつ徴収することにして賄った。しかし、当時のフランス大使ド・ラ・モット・フェヌロン氏は「この宝くじで一番得をしたのはエリザベス1世であると思われる」と報告書に記している。女王が集まった多額の掛け金を自分用に下ろしてしまったのだと大使はいう。女王は与えられた財源内でやりくりするのが苦手だからと。実際のところは分からないが、多くの人々はこの中傷を信じたという。エリザベス1世はその後、このような形で資金を集めようとはしなかったので、宝くじは以後「流行遅れ」のレッテルを貼られ、しばらくひっそりと英国の歴史の中に沈むことになる。

エリザベス1世エリザベス1世。ヘンリー8世とアン・ブーリンの間に生まれ、1558年に25歳で王位に就いた。一生結婚しなかったことから「処女王」と呼ばれる。44年間の在位期間に治世を敷き、イングランドには演劇や文学が花開いた

ナショナル・ロッタリーにまつわるトリビア

ナショナル・ロッタリー

英国の国営宝くじ(ナショナル・ロッタリー)は、英国が慢性的な経済低迷からやや立ち直りつつあった1994年、ジョン・メージャー首相が率いる保守党政権下に誕生した。運営は民間会社のキャメロット社に委託されており、宝くじの収益金の一部はさまざまな団体への補助金交付といった形で社会貢献のために使われている。

収益金の内訳は?

収益金の内訳は?

これまで英国で出た最高当選額は?

1億6165万3000ポンド(約234億円)

2011年にユーロミリオンズの特賞(ジャックポット)に当選した、スコットランドのコリン・ウィアーさんと妻のクリスさんの記録は今も破られていない。当選後2人は「サンデー・タイムズ」紙が毎年発表する英国の資産家リストに名を連ね、その順位は元ビートルズのリンゴ・スターや大御所シンガーのトム・ジョーンズよりも上位になった。

当選者は賞金をどうしている?

高額当選者は車を平均4~5台購入し、親せきや友人にプレゼントすることが多い。新しい家を購入する人も多く、その65%近くが現在住んでいる家の近くを選ぶという結果が出ている他、隣家を購入しパブにするという強者も。また、ひいきのスポーツ・チームや政党などに寄付するなど、使い方はさまざまだ。ドラッグや酒類で身を滅ぼす当選者もいるそう。

実はよく出る数字がある

数字選択式の宝くじを購入する人は、誕生日や記念日など自分に関わる数字を選ぶ傾向があると言われている。しかし頻繁に当選番号として出てくる数字というのがあるようで、これまでの統計によると、ナショナル・ロッタリーが1994年に始まってから2015年までの間に最も頻繁に当選番号として出た数字は、多い順に23、38、31、25、33、11だそう。

1等の当選確率は?

ナショナル・ロッタリーで1等のジャックポットを獲得する確率は、同サイトによると4505万7474分の1(2018年12月時点)。また、現在欧州9カ国で販売されているユーロミリオンズの1等当選確率は、1億3983万8160分の1だとか。それでも宝くじは「買わないと当たらない」。希望を持つことは健康を保つのに良いと医学的にも証明されている。

 

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