ニュースダイジェストの制作業務
Thu, 28 March 2024

ロンドンから電車で1時15分
大聖堂の街、Ely(イーリー)の歴史を知る

ケンブリッジから北東約25キロメートルに位置するイーリー(Ely)。週末でも静かな雰囲気がただよう街だが、イングランドの長い歴史のなかでは大変重要な意味を持つ場所だ。今回はそんなイーリーの興味深いエピソードや街にまつわるストーリーを紹介し、実際に訪れることのできる観光スポットや食事処を併せて紹介。ロックダウンの規制がほぼ全面的に解除となった今、まるで中世にタイムスリップしたかのような気分が味わえるこの街へ出掛けてみてはいかがだろうか。(文: 英国ニュースダイジェスト編集部)

ロンドンからのアクセス:キングス・クロス駅、リヴァプール・ストリート駅、チャリング・クロス駅などからナショナル・レールで1時間15〜45分

参考:「Interpreting Ely Cathedral」Lynne Mary Broughton Ely Cathedral Publications、「The Stained Glass Museum: Highlights from the Collection」Jasmine Allen Scala Arts & Heritage Publishers Ltd、www.visitely.org.uk、www.elystandard.co.ukwww.britannica.com、www.historic-uk.com、https://univ.swu.ac.jp ほか

大聖堂の街、Ely(イーリー)の歴史を知る街のシンボル的存在のイーリー大聖堂。1342年に完成した高さ52メートルのオクタゴンと呼ばれる8角形の塔(写真)の美しさは必見だ

魅力たっぷりのElyってどんな街?

長い歴史を持つ街だけに、その魅力は計り知れないものがある。ここでは4つのキーワードを元にその一部を紹介する。

 

ここ無くしてイーリーは成り立たない
イーリー大聖堂
Ely Cathedral

数奇な運命をたどった創立者、エセルスリス

創立者のエセルスリス(Æthelthryth、英: Etheldreda、636〜689年)はイースト・アングリア王アンナの娘で、イングランド東部サフォーク州のエクスニングで生まれたアングロ・サクソン人と伝えられている。未亡人となったエセルリスは、655年ごろからイーリー島で隠居生活をスタート。現在は内陸部のイーリーだが、当時は沼地に囲まれた島で、ボートや土手道を使ってのアクセスに限定されていた地域であった。660年、エセルスリスはノーサンブリア王国のエグフリスと二度目の結婚。12年後、エセルスリスはエグフリスの元を去り、修道女として生きることを決め、673年に現在の大聖堂の元となる、男性、女性のどちらもが同じ規則に従う修道院、ダブル・モナステリ(double monastery)をイーリーに設立した。

ノルマン人によって作られたネイヴ(Nave)と呼ばれる身廊。天井はヴィクトリア時代にペイントされたノルマン人によって作られたネイヴ(Nave)と呼ばれる身廊。天井はヴィクトリア時代にペイントされた

エセルスリスは疫病で680年に亡くなったが、死後数多くの伝説が残されている。①亡くなって17年後に石棺を開けたところ、遺体は腐敗しておらず体を包んでいた布もきれいなままだった、②エセルスリスは一般的に聖オードリー(Saint Audrey)と呼ばれており、崇拝者の一人がこの名前で見本市を開いた。シルクとレースのネックレスを販売したが、品質はとても良いものではなかったため、Audreyからtawdry(安っぽい)という言葉の語源になった、③生前、高貴な身分でありながら、温かい湯船に浸かることもなく、修道院での生活は徹底して質素であった。エセルスリスの生涯は中世の作家の研究テーマとして頻繁に取り上げられた、などがある。

イーリー大聖堂の礎を築いたエセルスリスイーリー大聖堂の礎を築いたエセルスリス

何度滅ぼされても復活してきた結果……

673年に建てられ、970年に再建された当初の修道院は、1066年のノルマン征服、ヘリワード・ザ・ウェイクの反乱などで荒廃し、修繕に着手したのが1079年以降。ノルマン人に征服されたことで、再建に対する罰金、材料費用の捻出など、莫大な費用がかかり、当時の修道院長シオメンは頭を悩ませることになる。最終的にシオメンは当時のウィンチェスター大聖堂の司教であった実の兄弟をあたり、設計のスケジュールや資金繰りに奔走した。13世紀末には大聖堂がほぼ完成し、大聖堂の中央にあるオクタゴン・タワーや聖母礼拝堂など数々の建物の再建を進め、14世紀末にはほぼ現在に見られるような壮大な建物が復活。300年にわたる気の遠くなるような事業だった。ところが16世紀、ヘンリー8世の宗教改革によって再び困難な時代に突入する。現在見られる大聖堂はかろうじて残されたものの、「使う目的がない」と判断された聖職者用の食堂や寝泊まりに使っていた場所は再び破壊されてしまった。

復興の道すじが見えたのは、チャールズ2世が在位した17世紀。しかし過去の破壊行為で、建設にまつわる重要な記録が残っておらず、修繕には再び莫大な時間を費やすことになり、19世紀中ごろにようやく大方の修繕が終わった。何世紀にもわたって破壊と修繕が繰り返された一連の建物は、イングランド・ゴシック様式、ロマネスク様式など、さまざまな時代の様式が詰まった見ごたえのある建物群となった。

近付いてみるとその大きさに圧倒される近付いてみるとその大きさに圧倒される

Ely Cathedral

Chapter House, The College, Ely CB7 4DL 
Tel: 01353 667735
月〜土 10:00-16:00 
日 12:30-15:30 
£8(+ステンドグラス博物館 £12.50)
www.elycathedral.org

大聖堂内でインスタレーション「ガイア」が開催中(7月31日まで)

イーリー大聖堂にて、英国を代表するアーティストの一人、ルーク・ジェラム氏のインスタレーション「ガイア」が期間限定で展示されている。空中に浮かぶ地球を模した直径7メートルの球体は圧巻。チケットは大聖堂の入場料に含まれるので、機会があればぜひ訪れてみてほしい。2021年7月31日(土)まで。

Luke Jerram

大聖堂に併設する隠れた名所
ステンドグラス博物館
The Stained Glass Museum

大聖堂に入って右手に、中世から現代にかけてステンドグラスがたどってきた歴史やその技術を伝えるステンドグラス博物館がある。同大聖堂にかつてはめ込まれていたステンドグラス、ウィンチェスター大聖堂のものなど、約800年以上に渡るコレクションが並び、技術の発展や最新アーティストの作品紹介など、ステンドグラスにまつわるエトセトラを知ることができる。ステンドグラス=宗教建築のデコレーションの一つ、というイメージが一般的だが、材料や光の引き込み方などは今もなお研究されており、実は発展途上のアートなのだ。小さな博物館ながら国内外でも非常に有名で、訪れる価値がある。

フレデリック・アシュウィン作「最終日の夜明け」フレデリック・アシュウィン作「最終日の夜明け」

The Stained Glass Museum

Ely Cathedral, Ely CB7 4DL 
Tel: 01353 660347 
火〜土 10:00-15:30
£4.50(+イーリー大聖堂 £12.50) 
https://stainedglassmuseum.com

 

実は「良い人」? イーリーに住んでいた
オリヴァー・クロムウェル
Oliver Cromwell

イングランドの政治家、軍事指導者のオリヴァー・クロムウェルはイーリーに住んでいた時期があった。現在観光案内所となっている場所がそこで、1636年から約10年間、自身の母親、妻のエリザベスと子どもたちと暮らしていた。クロムウェルはイングランドの歴史において重要な人物だが、その評価は賛否両論で評価が分かれる。イーリーに住む住民にとっては概ね「良い人」だという。

オリヴァー・クロムウェルの家。チケットは1階の観光案内所で購入しようオリヴァー・クロムウェルの家。チケットは1階の観光案内所で購入しよう

イングランド内戦が起こった17世紀半ば、クロムウェル率いるコモンウェルスは当時、教会を破壊し、その資源を売却して病人や飢餓に苦しむ子どもたちを助ける資金に充てていた。当然大聖堂もその運命をたどるはずだったが、約100年前の宗教革命の折にすでに破壊されていたため、それ以上の制裁は加えず放置した。この決定はクロムウェル自身の宗教建築に対するある程度の無関心さが要因とされているが、いずれにせよ大聖堂は致命的な損傷を受けることなく、ほかの地域で重要文化財が多く取り壊されていたこの残酷な時期を乗り切ることができた。

クロムウェル家のキッチンの様子クロムウェル家のキッチンの様子

現在この建物はオリヴァー・クロムウェルの家として一般公開されている。クロムウェル夫人が使ったキッチンや家庭生活の様子が再現され、政治家としてではなく父親であり夫である一人の男性としての側面を強調した展示となっている。展示の最後の部屋は不気味なほど真っ暗で、幽霊が出るという噂もあるらしい。

Oliver Cromwell's House

29 St Mary's Street, Ely CB7 4HF
Tel: 01353 662062
10:00-17:00(11〜3月 11:00-16:00) 
£5.20
www.olivercromwellshouse.co.uk

 

貨幣にもなった重要な特産品
ウナギ
Eel

棒の先頭にこの道具を付け、水中のウナギを地上から狙った(イーリー博物館蔵)棒の先頭にこの道具を付け、水中のウナギを地上から狙った(イーリー博物館蔵)

かつて沼地に浮かぶ島であったイーリーは、17世紀に排水事業が行われるまでウナギがよく獲れる場所としても有名で、ウナギを捕獲するイール・キャッチャーという職業が存在し、各々の仕掛けでウナギを取っていた。捕まえたウナギは食用のほか、通貨、税の支払いなどさまざまな目的に使われ、イーリー大聖堂の修繕に必要だった大量の石材も、1年で8000匹というウナギ取引で賄ったという。また、オリヴァー・クロムウェルの妻エリザベスもウナギを捌き、シチューの具材やイールとオイスターのパイなどを作っていたそうだ。Ely Museumちなみに、街名のイーリー(Ely)とウナギ(Eel)の発音が似ているため、ウナギが命名に絡んでいるという説もあるが、定かではない。

毎年5月には「イーリー・イール・デイ」(Ely Eel Day)と呼ばれるイベントが開催されており、ウナギ投げ大会やウナギ料理が食べられる1日になっている。ウナギが常時楽しめるレストランは少ないが、ザ・オールド・ファイアー・エンジン・ハウスでは燻製のウナギを提供。また、観光案内所ではイーリーズ・イール・ブリュー(2.99ポンド)というエール・ビールを販売している。

Ely Museum Ely Museum

The Old Gaol, Market Street, Ely CB7 4LS
Tel: 01353 666655
火〜土 10:30-17:00 日 12:00-17:00 
£5.50
www.elymuseum.org.uk

The Old Fire Engine House The Old Fire Engine House

25 St Mary's Street, Ely CB7 4ER
Tel: 01353 662582
営業時間はサイトを参照
www.theoldfireenginehouse.co.uk

 

伝統の一戦、ケンブリッジ大学の練習場
ボート
Boat

毎年ロンドンのテムズ川で開催される、名門校オックスフォード大学とケンブリッジ大学のボート・レース。ケンブリッジの学生が、本格的にボートの練習ができる場所として活動拠点を置いているのがイーリーだ。

2021年4月4日に開催された第166回男子ボート・レースと第75回女子ボート・レースは、新型コロナウイルスによるアマチュア・イベント開催の制限と、現在工事中のハマースミス橋の安全性を考慮し、イーリーのグレート・ウーズ川で開催されることに。これは1944年にイーリーで同レースが開催されて以来のことで、当日はテレビ中継でファンたちを楽しませ、男女ともにケンブリッジ大学が勝利した。

4月にイーリーで行われた伝統の一戦4月にイーリーで行われた伝統の一戦

グレート・ウーズ川は昔から人や荷物の移動に使われ、周辺地域の排水を引き込む主要な川としても重要な河川だった。先史時代は海までまっすぐに流れていたものの、人間が生活するようになってからは洪水が起こるたびに流水量が変動し、定期的にルートを変更する動的な河川だったという。また、この川はカム川の一部が合流しており、イーリーとケンブリッジ間の荷物や人の移動に使われていた。今でこそ電車で20分程度だが、ボートでの移動は約6時間と長旅だった。

建物がかわいすぎる!
歴史的な雰囲気たっぷりのイーリーを散策

駅から歩いて数分で街の中心部に到着する。イーリー大聖堂のそばには緑豊かな公園が広がり、草を食む牛ののんびりした姿が見える。こぢんまりとした街の朝はとてもスロー。都会の喧騒から離れるためにこの地を訪れ、夜には恋しくなって戻る、そんな週末旅にぴったりの場所だ。

ローカルの気分を味わうならココ
The Prince Albert

小径にひっそりとたたずむ、白と緑のレトロな外観が印象的なパブ。室内は昔ながらのパブの雰囲気がただよう。屋外にはテントのような屋根つきの庭があり、風を感じながらビールのジョッキを傾けるのは、さながらビア・ガーデンのよう。定期的に入れ替わるカスク・エールを味わいに、地元の家族連れや熟年夫婦などがひっきりなしに訪れる。

62 Silver Street, Ely CB7 4JF 
Tel: 01353 663494 
月~土 11:00-23:00 日 12:00-22:30 
www.facebook.com/PrinceAlbertEly

The Prince Albert

ロマンティックなティー・ルーム
Peacocks Tearoom and A Fine B&B

おとぎ話から飛び出してきたかのようにかわいらしいティー・ルーム。紅茶の品ぞろえは豊富で、ブラック・ティーだけでも50種を超える。軽食やアフタヌーン・ティーが楽しめる。室内は外観から想像できないほど入り組んだ構造になっており、カントリー風の装飾が施されている。中庭もあり、つい長居したくなってしまうほど居心地の良い場所だ。2階にはB&Bもある。

65 Waterside, Ely CB7 4AU 
Tel: 01353 661100 
火~日 10:30-17:00(9~6月は火定休) 
www.peacockstearoom.co.uk

The Prince Albert

The Prince Albert

パン好きは早朝に訪れて!
Grain Culture

焼きたてのパンやコーヒー、地元で採れた野菜や卵、世界各国の選りすぐりの輸入食品を扱うショップのあるパン屋で、健康意識の高い若い世代御用達の人気店。自慢はイースト発酵させた自家製ヴィエノワズリーで、昼前には売り切れになってしまうほど人気なのだとか。店内は2名ほどが利用できる飲食スペースがあるが、目の前に公園があるのでテイクアウェイでピクニック気分を味わうのもいい。

30 St Mary's Street, Ely CB7 4ES 
火~土 8:00-17:00
www.grainculture.co.uk

Grain Culture

川のそばで夕涼みを楽しめるパブ
The Cutter Inn

街の南側を流れるグレート・ウーズ川のほとりにたたずむパブ。フィッシュ&チップス、ソーセージ&マッシュなどのメインから、デザートのホームメイドのレモン・ポセットまで、英国らしい定番のメニューがそろう。日曜のサンデー・ローストも人気。テラス席が豊富にあるので、短い夏の夕暮れどきにぜひ利用してみたい。

42 Annesdale, Ely CB7 4BN
Tel: 01353 662713
月~木 12:00-22:00 金・土 12:00-23:00 
日 12:00-20:00
www.thecutterinn.co.uk/coming-soon

The Cutter Inn

出会って心がときめいたら迷わず購入!
Ely Markets

11世紀に始まった由緒正しき屋外マーケット。新鮮な野菜やペストリーなどフード・ストールもあるが、1番の魅力はヴィンテージ品やここでしか購入できない手作りのアイテム。特にヴィンテージはレコード、家具、装飾品、食器などさまざまなものがあり、時間を忘れてつい物色してしまう。朝から活気にあふれ、見ているだけで元気がもらえる場所だ。

Market Place, Ely CB7 4NT
木~土 8:30-15:30
(ファーマーズ・マーケット 第2・4の土曜)
日 10:00-16:00
www.elymarkets.co.uk

Ely Markets

優しいスタッフがお出迎え
観光案内所

オリヴァー・クロムウェル博物館併設の観光案内所の一角でお土産が購入できる。ウナギの項目で紹介した観光案内所限定のビール、地元で作られたお菓子やジャム、オリヴァー・クロムウェルにちなんだグッズなど、一風変わったイーリー限定の商品が見つかる。

Oliver Cromwell's House,
29 St Mary's Street, Ely CB7 4HF
Tel: 01353 662062
10:00-17:00(11~3月 11:00-16:00)
www.olivercromwellshouse.co.uk

Ely Markets

秘密の倉庫感で大人もワクワク
Waterside Antiques

1760年代後半の建物を利用した巨大なアンティーク・センター。65を超えるブースがあり、フィギュアや食器、ジュエリー、家具などさまざまなものが販売されている。各店のオーナーたちがセンター内を徘徊しているので、気になる商品があれば気軽に声をかけてみよう。雑多に置かれた商品の中から掘り出し物が見つかるかもしれない。

55a - 55b Waterside, Ely, CB7 4AU
Tel: 01353 667066
月〜土 9:30-17:30 日 11:00-17:00
www.watersideantiques.co.uk

Waterside Antiques

 

この記事を気に入っていただけたら、ぜひ任意の金額でサポートをお願いします。

  • Facebook

*本文および情報欄の情報は、掲載当時の情報です。

Sakura Dental お引越しはコヤナギワールドワイド 不動産を購入してみませんか LONDON-TOKYO 24時間365日、安心のサービス ロンドン医療センター

Embassy 202403 JRpass

英国ニュースダイジェストを応援する

定期購読 寄付
ロンドン・レストランガイド
ブログ