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Tue, 26 November 2024

後世に大きなインパクトを与えた英国生まれのSF作品

SF映画の金字塔、スタンリー・キューブリック監督「2001年宇宙の旅」(1968年)SF映画の金字塔、スタンリー・キューブリック監督「2001年宇宙の旅」(1968年)

英国には、今日のサイエンス・フィクション(SF)というジャンルが整う前から、小説におけるSFの先駆者、またSF映画の鬼才が多数活躍し、文化史を彩ってきた。1960年代から続く英国SF協会賞やSF作品のテレビ・シリーズの放映など、同ジャンルの活動は今も変わらず人気が高い。今回は、英国で生まれた主要なSF作品とその影響を振り返りつつ、人々の心を離さないSFの魅力について調べてみた。(文:英国ニュースダイジェスト編集部)

参考: www.bbc.co.ukwww.britannica.com ほか

サイエンス・フィクションの定義

発展し続けるSF

オックスフォード辞典では「未来における想像上の科学的発見に基づいた本や映画などの一種を指し、そのテーマとして宇宙旅行や他の惑星での生活が扱われることが多い」、参考図書を出版する米メリアム=ウェブスター社のサイトでは「主に実際の科学、または想像上の科学が社会や個人に与える影響について扱ったフィクション、または科学的要素を重要な方向付けの要素として扱うフィクション」と定義されている。

SFというジャンルの確立は、主に文学的、科学的な成長が著しい世界の先進国で生まれたといっても過言ではない。現在のSFは1920年代にその原型が生まれたといわれているが、そこに明確な年はなく、またSF思想の始まり自体を考えると古代神話まで遡ることができる。時代の潮流に合わせて変化してきたジャンルといえる。

「科学」がキーワード

SF作品はファンタジー作品と混在しがちだが、SFは科学や技術的な進歩をもとに描く世界で、未来のどこかの時点で現実になる可能性が大いにある。一方ファンタジーは、魔法や超自然的な生き物が暮らす世界の話であり、架空の概念を扱うことが多い。本記事では現実に存在しない、近未来や科学的・技術的進歩の結果として仮定されるものをSF作品とし、今日のSFジャンルを確立した作品全てを指すこととする。

ブラックなテーマが盛り込まれた英国のSF作品の潮流

まずは英国出身、また英国で活躍した特に著名な人物の作品を紹介し、「これもSF作品なのか」と思えるような具体例を交えながら、曖昧なSF作品について切り込んでいこう。

SFの形をとった風刺作品

初版の「ガリバー旅行記」初版の「ガリバー旅行記」

ガリバー旅行記(1726年)


Gulliver's Travels ジョナサン・スウィフト(Jonathan Swift)

サイエンス・フィクションの要素が散りばめられ、 SF小説の先駆けの一つと考えられている作品。主人公ガリバーは航海中に難破し、小人の国、大人の国、馬の国などに漂着し、そこでの体験をまとめた物語だ。本作を匿名で発表したジョナサン・スウィフトは、もともとアイルランドからイングランドに来てトーリー党で働いていたが、政権がホイッグ党に変わったため、またアイルランドに戻らざるをえなかった過去がある。

同作は一見児童小説の体裁を取っているが、全編を通して読むと英国人や英国の政治に対する風刺作品であることは有名。作中に「卵の殻の正しい剥き方は、大きな方の端から割るか、それとも小さな方から割るか」というどうでもいい理由で、国同士が戦争に発展した一幕が描かれているが、これは英仏間における馬鹿げた戦争を批判したものだとされている。

神に挑戦した禁断の書

1831年版の挿絵1831年版の挿絵

フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス(1818年)


Frankenstein; or, The Modern Prometheus メアリー・シェリー(Mary Shelley)

ゴシック小説の代表作かつ当時の科学的根拠から考えられたSF作品として広く評価されている。科学者のフランケンシュタインは、生命の謎を解き明かそうとして死体を繋ぎ合わせ、怪物を作り上げる。容姿は醜くとも心を持った怪物はフランケンシュタインに対しある要求をするのだが……。神が人間を作ったと信じられていた時代に、科学者が生命を創造し、神に挑む本作は、従来の宗教観が根強く残っていた当時の読者に大きな衝撃を与えた。

シェリーが同作を匿名で執筆したときの情勢は、英国内外で政治的動乱があり、社会不安が募っていた。当時道徳のない科学技術の拡大に対する警告の書とされていたが、主張を持ったが故に悲しい最後を迎えることになった怪物は、当時抑圧されていた女性の立場を表しているのでは、と近年フェミニズムの視点から再評価されている。

科学の発達が幸福とは限らない

H・G・ウェルズH・G・ウェルズ

タイム・マシン(1895年)


The Time Machine H・G・ウェルズ(Herbert George Wells)

19世紀後半の英国では、蒸気機関車や電話、電気などの急速な科学的進歩があった。この時代に、H・G・ウェルズはタイム・マシンに乗って未来を見に行く「タイム・トラベル」というこれまでにない斬新なアイデアを生み出す。当時の最先端の技術とロマンを大胆に融合させ、大衆受けを狙い商業的成功も収めた作品であったが、行った先の明るく楽しい世界は果たして本当にユートピアだったのかという、人類の終焉をうっすらと予感させる物語だ。

本作でウェルズは、未来が必ずしも現在想像している世界であるとは限らないという急進的な考えを表している。ウェルズはほかにも「透明人間」(1897年)「宇宙戦争」(1898年)「解放された世界」(1914年)など、数多くの名作を残しており、後世のSF作家に多大な影響を与えたことから、SFの巨人、SFの父と呼ばれている。

全体主義に対する警告

ジョージ・オーウェルジョージ・オーウェル

1984(1949年)


1984 ジョージ・オーウェル(George Orwell)

東西の冷戦時代に書かれたこの本は、絶対的な全体主義国家が個人の自由を全て制限する近未来の英国を舞台にしている。1950年代に勃発した核戦争の影響で、三つの大国に分類された世界に住むウィンストン・スミスは、過去の歴史の改ざんを担当する小役人として働いていたが、過去のある新聞記事を見つけたことで、絶対の国家に疑問を抱くようになる。個人の全ての活動が監視しされるこの世界観に、現実の世界があまりにも似てきたとして、現在再び世間から注目を浴びている作品だ。

本作が後の英国社会に与えた影響は大きく、独裁者を意味する「ビッグ・ブラザー」や特定の政治犯を精神的に拷問し、洗脳する「ルーム101」など、作中に登場する単語は現代社会でも使用されている。オーウェルが生涯にわたって訴えた、全体主義に反旗を翻す作品として非常に有名。

逃げられない閉塞感

1962年、スティーヴ・セクリーによって 映画化された「トリフィド時代」1962年、スティーヴ・セクリーによって 映画化された「トリフィド時代」

トリフィド時代(1951年)


The Day of the Triffids: A very British disaster ジョン・ウィンダム(John Wyndham)

破滅がテーマのSF作品。地球の軌道上を緑色の大流星群が通過した翌朝、流星を目撃した世界中の人間が突如視力を失ってしまう。食肉性植物「トリフィド」の管理者であったビル・メイスンは、ちょうど目の治療中でその光を見なかったため失明は免れたが、安心したのも束の間、トリフィドが目の見えない人類を無慈悲に襲い始める。突如として破壊された日常を取り戻すため、主人公の無謀な努力と人々の絶望を描いている。

作者のウィンダムは第二次世界大戦で情報省の検閲官として働き、広島と長崎の原爆投下後に同作を執筆した。人工的に作られた食肉性植物の危険性を知りながら、有用な植物油の摂取に依存する作品上の社会に、核保有の恐怖を知った当時の世相が投影されている。ここまで紹介した作品の中で最もフィクション要素が強く、大衆向けの脚色が多い作品だ。

極端な暴力描写で放映禁止に

スタンリー・キューブリックスタンリー・キューブリック

時計じかけのオレンジ(1971年)


A Clockwork Orange スタンリー・キューブリック(Stanley Kubrick)

SF映画界に名を刻んだこの人物を忘れてはならない。英国を拠点に活躍した米映画監督兼脚本家のスタンリー・キューブリックは、英作家アンソニー・バージェスの同名小説を元に後世に語り継がれるディストピア映画を作った。舞台は全体主義国家が君臨し、世界が金持ちと貧乏人に分けられ、少年の非行など理不尽な暴力がはびこる近未来のロンドン。

キューブリックは徹底した作品作りで有名で、納得いくまで撮り続ける姿勢を貫いてできた本作品は、細かなカット割りなど凝った演出が見られるも、目を覆いたくなるような暴力シーンや露骨な性行為シーンが多い。後に作品に影響を受けたと思われる暴力事件が相次いで発生したことから、英国では1973年にキューブリックの要請によって非公開となる。VHSとDVDで同作が見られるようになったのは1999年のこと。

後のカルチャーに影響を与えた「SF作品の描写」

作品が成功した結果、その細かい演出や思想が後のSF作品やカルチャーに大きな影響を与えた。ここでは今でこそ当たり前になった作中の特徴的な描写を紹介する。

エイリアンfrom「エイリアン」

エイリアン

1979年、リドリー・スコット英監督が手がけたSFホラー映画「エイリアン」(Alien)は、米映画「スターウォーズ」など、これまで明るい冒険物語風の作品しかなかったSF映画に「恐怖」というイメージを植え付けた作品。宇宙貨物船内に現れるぬらぬらとした不気味なエイリアンは、SF映画における地球外生命体のイメージを覆した上、エイリアン(Alien)という単語を、従来の外国人という意味から「(攻撃的な)異星人」に変えてしまったほど。

デザインを担当したのはスコット監督自らが説得に赴いたスイス出身のH・R・ギーガー。幼い頃から死という概念に異常に取り憑かれていたギーガーが産んだグロテスクな形態のそれは、1980年に第52回アカデミー賞で視覚効果賞を受賞した。

暴走する人工知能from「2001年宇宙の旅」

暴走する人工知能

映画における初期の人工知能は、人間と友好関係を築くなど科学技術の良い発展の例が多かった。脅威の存在となったのは「2001年宇宙の旅」(1968年)。宇宙船ディスカバリー号に搭載された人工知能HAL9000が乗組員に対し反乱を企て乗組員を排除しようとしたのは、キューブリックと共同で脚本を担当したアーサー・C・クラーク著の小説によると、航行の目的である探査任務については乗組員に秘密にするように組み込まれており、乗組員との協力の間で生まれた矛盾によって引き起こされたとされている。

現在、人工知能と今後どう付き合っていくべきなのかについてしばしば話題に上がるが、本作はそれをはるか前に先取りした映画だ。

ガイ・フォークス・マスクfrom「V フォー・ヴェンデッタ」

ガイ・フォークス・マスク

時の権力者に抗うため、1605年にロンドンの国会議事堂を爆破しようと計画した火薬陰謀事件の実行犯、ガイ・フォークスの顔を模したガイ・フォークス・マスク。もともとは「V フォー・ヴェンデッタ」(V for Vendetta)という英出身の作家アラン・ムーアとイラスト担当のデヴィッド・ロイドによるグラフィック・ノベルから来たものだ。

同作の舞台はファシズム国家に近い体制の英国。アナーキストである謎の人物「V」がガイ・フォークスの仮面をかぶって登場し、その非凡な技能を駆使して、既存の体制を崩壊させようとするという物語。ここから同マスクに反政府主義のイメージが付き、近年ではハッカー集団のアノニマスが使ったことで世界中に知られるようになった。

足が速いゾンビfrom「28日後...」

足が速いゾンビ

従来のゾンビに対するイメージは、足を引きずって歩き動きが遅く、走ればなんとか逃げられて……というものだったろう。しかし、1980年代ごろから動けるゾンビや人間を捕まえるために頭を使うゾンビが登場してきた。「スラムドッグ$ ミリオネア」で知られるダニー・ボイル英監督が2002年にメガホンを取った映画「28日後...」では、陸上選手さながらに全力疾走し、人間たちを追い詰めていくゾンビが描かれている。

もっぱらこの作品におけるゾンビは、人間を凶暴化させるウイルスに感染した「感染者」であり、何日も走り回ると疲れてしまうという演出があるため、果たしてこれはゾンビなのかどうかについては、いまだに意見が割れているところ。

英国の人々はSF好き?身近に浸透するSFの世界

長寿ドラマや書籍で知る

英国には、昔からカルト的な人気を持つ作品が多数あるが、現在進行形で一般家庭に親しまれているSF作品もある。例えばBBCのSFドラマ「ドクター・フー」(Doctor Who)は、1963年から放映されている長寿ドラマ。主人公のドクターが仲間と共に時空を行き来し、外敵からの侵略を防ぐために奔走する物語だ。ドクターは命の危機に瀕すると記憶を引き継いだまま別の容姿や人格に再生ができ、このときにドクターの代替わりを行っている。現在のドクターはシリーズ初の女性となるジョディ・ウィテカーが務めており、2023年からは初の黒人俳優、チュティ・ガトゥが起用される。

続いて2011年から始まった「ブラック・ミラー」(Black Mirror)はディストピア系のSFドラマ。初期はChannel 4で、現在はNetflixで放映されている。テクノロジーが発展しすぎたことで、予期せぬ社会問題が生まれていく様子を描いたダークな風刺ドラマだ。2018年には観客がスクリーン越しにストーリーを選んでいくインタラクティブな映画「Black Mirror:Bandersnatch」が発表され、この独特な世界観を背景にファンを増やし続けている。

映像作品とは別に、SF小説の方も変わらず活気がある。英国SF協会賞(BSFA Award)は、1970年から毎年開催されているSF作品を称えるアワードで、小説のカテゴリからスタートし、現在は短編小説、アートワーク、フィクション作品など、幅広いジャンルの賞を設けている。

視聴者が物語を選択できるインタラクティブ映画「Black Mirror: Bandersnatch」視聴者が物語を選択できるインタラクティブ映画「Black Mirror: Bandersnatch」

英国人はディストピア好きなのか?

英国では小説、映画などジャンルは問わず、ディストピア系の作品が好まれる傾向にある。ディストピアとは反理想郷や暗黒世界のことで、ユートピアとは逆の世界。ちなみにユートピアという言葉は英作家トマス・モアによる造語で、モアが16世紀に書いた「ユートピア」は、理想社会を描くことを通じて当時の社会への批判を展開した。先に紹介した「タイム・マシン」「トリフィド時代」「1984」など、どれも暗く時に気の滅入るような世界観となっており、近未来のロンドンを舞台にしている近年の映画作品では、たいていの場合ロンドンは悲惨な世界として登場する。

このようなディストピア作品が完全なフィクションの世界かというと、そうではない。短編映画「Airship Destroyer」(1909年)と「Aerial Anarchists」(1911年)では、第一次世界大戦前にもかかわらずロンドンへの空襲シーンがあり、「The Day the Earth CaughtFire」(1961年)では核実験の影響で極端な温暖化が進む描写がある。また、サッチャー政権時の1974年に書かれたドリス・レッシング著「The Memoirs of a Survivor」(「生存者の回想」映画化もされた)では、貧富の差が著しく広がった近未来の世界がさらに悪化し、人々は街を出ていくこと願うようになるなど、その内容が当時の現実世界を示唆していたり、現在私たちが暮らす世界の状況に酷似していたりする。

また、音楽の世界でもディストピアの世界は描かれる。英パンク・ロックバンドのキング・ブルース(The King Blues)の2008年の曲「What If Punk Never Happened」は、パンクのない世界は無難すぎて何の面白みもなく、無関心な人であふれているというディストピアの世界について歌っている。この中にIDカードを携帯している人々の描写があるが、これは実際2010年に英国で廃止されたIDカードの携帯についての法律のことを指しており、もしこれが現実に起こったらどうだったのかを歌にしている。ディストピア作品に見えるリアリティーが、英国人を強く惹きつけるのかもしれない。

What If Punk Never Happened(一部抜粋)

….
They moved CCTV cameras in everywhere
But the people were too apathetic to care
They made them carry ID cards to state where they’re from
As if by being born they had done something wrong
….

政府はどこにでもCCTVカメラを設置した
しかし、人々は無関心すぎて気にすることすらなかった
人々は自分がどこから来たかを示すIDカードを携帯していた
まるで生まれながらに何か悪いことをしたかのように (抄訳)

EXHIBITION
SFの世界をもっと知ろう!

ここまで英国のSF作品に特化して書いてきたが、SFはもちろん米国をはじめ世界各地で生まれている。2022年10月からサイエンス・ミュージアムで始まるこのエキシビションは、SFの映画やテレビ、アート作品、写真を展示し、科学者やクリエイターたちがどのように近未来を想像したか、SFの世界について深く知ることができるというもの。またエキシビションに関連したトーク・イベントも多く催されるので、興味のある方はぜひ訪れてみてほしい。

英国人はディストピア好きなのか?

英国人はディストピア好きなのか?

Science Fiction: Voyage to the Edge of Imagination

10月6日(木)〜2023年5月4日(木)
10:00-18:00 £20(予約が必要)
Science Museum
Exhibition Road, South Kensington, London SW7 2DD
Tel: 0330 058 0058
South Kensington/Gloucester Road駅
www.sciencemuseum.org.uk

 

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