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Fri, 06 June 2025

地域ごとの特徴を紹介!英国の多様な方言

「イギリス英語」と聞くと、発音がきれい、Rを発音しない、など一定のイメージを持っている人も多いだろう。だが、実際に英国で生活してみると、日本と同様に地域特有の方言が多く存在することに気が付くはずだ。今回は、そんな各地域の英語の特色や、実際に英国人がほかの地域の英語をどのように聞いているのか、生の声も紹介する。イギリス英語の奥深さを知るきっかけになったら幸いだ。
(文: 英国ニュースダイジェスト編集部)

参考: www.studiocambridge.co.ukwww.britannica.comhttps://accentbiasbritain.org ほか

多様な言語

多様な方言が生まれた背景

英国は、英語圏の中でも特に多様な英語の方言があり、地域ごとに色濃い特徴がある。後に紹介する英国の伝統的な方言をはじめ、河口域英語(Estuary English)、英国アジア英語(British Asian English)、一般北部英語(General Northern English)などの比較的新しいものまで多岐にわたっており、どこの英語を話すかで話者の出身地域や社会階級、年齢、現在の職業の違いを表している。

このような違いが生まれたきっかけとして、多民族がブリテン島へ住み着いたことが挙げられる。5世紀、欧州大陸の北西部から来たゲルマン民族がブリテン島に定住を始めた際、母語であるゲルマン語の独特な方言を英国にもたらした。同じく欧州大陸にわたったアングル人は主にミッドランド地方と英東部に、ジュート人はケントと南海岸沿いに、サクソン人はテムズ川の南西の地域へと、各地域に多くの民族が移動した。そして時間の経過とともに古英語の異なる方言(ノーサンブリア語、マーシア語、ケント語、西サクソン語)が出現。現在のイギリス英語の異なるアクセントが生まれる礎が築かれた。

徐々に失われていく方言と保全活動

昔は使われていた表現が今は使われなくなったり、一方で新しい表現が生まれたりと、言語はその社会情勢に常に影響されるもの。特にインターネットが普及してから、さまざまな英語圏からの情報が入るようになり、地域に根差した言語が急速に使われなくなる、という現象も残念ながら起こっている。

代表的なものはコックニーの押韻スラングだ。若者が使うスラングの発達、ラップやヒップホップなどの影響、対面での会話を減らすテキスト・メッセージでのやり取りなどにより、コックニー独特の言い回しは衰退の一途をたどっている。この事態を受け、コックニーを後世に残すために、ロンドン東部の学校でコックニーを教えるなどの取り組みが進められている。

また、英北部のリーズ大学と五つの博物館からの資金提供を受け、特定の地域で話されている言語を幅広く残そうとする「方言と遺産プロジェクト」(The Dialect and Heritage Project)も進んでいる。今日のイングランドにおける方言の現状をデータ化しつつ、特定の地域で使われる独特な単語やフレーズ、またその発音を残すという試みで、言語変化の推移やアイデンティティーを探る資料として今後活用されていく予定だ。調査には出身地を問わず誰でも参加でき、「自分が知っている地域特有の言葉」を誰から教えてもらったか、その言葉にどのようなイメージがあるかをフォームに入力していく。興味のある方はぜひ以下のリンクからサイトをのぞいてほしい。

https://dialectandheritage.org.uk

アクセントや文法も異なる各地の英語の違い

日本で地域ごとに方言があるように、英国でもその地域で使われる独自の言い回しや単語が存在する。実際はこれから紹介するよく知られた地域ごとの訛りからさらに細分化されている。

英国の方言マップ

RP(Received Pronunciation) 容認発音

話されている地域:ロンドン、イングランド南東部

標準英語やクイーンズ・イングリッシュ、BBC英語などと呼ばれており、一般的にイギリス英語といえばこれを指す。英国では中流階級や上流階級の英語と関連付けられており、BBC ニュースなどでよく耳にする英語だ。元々はイングランド南部の教育を受けた人々の発音で、伝統的にパブリック・スクールやオックスフォード大学、ケンブリッジ大学といった場所で育まれてきた。また、RPの中でも、年配の世代や貴族階級に関連される保守的な発音から、BBCなどで聞かれるアクセントなどに分けられる。現在は地域的な特異性が最も少なく、全国的に話されている発音と考えられている。RPはその歴史から一般的に「権威のある英語」と思われがちだが、実際のところ過去の偶然により、このアクセントがたまたまその地位を獲得したわけで、どの方言にも優劣は決して存在しない。

発音の特徴
  • 単語の末尾の「R」音は発音しない。Rの後に母音が続く場合のみ発音する
  • 語頭の「H」は発音する

Cockney コックニー

話されている地域:ロンドン東部

伝統的にロンドンの労働者階級が話す英語の方言で、特にロンドン東部の言語を指す。特定の単語を押韻語または押韻表現に置き換え、それから一般的に押韻の要素を省略する押韻スラング(Rhyming Slang)が多数存在するのが特徴だ。例えば、「Apples and Pears」はコックニーでは「階段」(Stairs、ペアーズとステアーズの音が似ている)を意味するが、会話では、Apples and Pearsをそのまま当てがわずにさらに一部省略するのが特徴。「I'm going upstairs」(上階に行く)はコックニーでは「I’m going up the apples」になり、こういったフレーズや単語は少なくとも約150個は存在するという。このような特徴は19世紀半ばに、通行人に会話の内容を聞かれないための手段として生まれたと伝わっている。

発音の特徴
  • 母音の音が変化する。「Day」は「Die」、「Buy」は「Boy」のように発音する
  • 「T」は喉の奥で弱く発音される。「Better」は「be'uh」(ベア)のように聞こえる

Scouse スカウス

話されている地域:リヴァプール(イングランド北西部)

リヴァプール地域で話されている英語で、同地出身のバンドであるビートルズが話す方言として広く知られている。独特の音の変化やメロディーを持つイングランドでも特徴的な訛りの一つに挙げられている。リヴァプール出身者を意味するスカウサー(Scouser)は、「Police」(警察)を「Bizzies」(ビジーズ)、「Trousers」(ズボン)を「Kecks」(ケックス)、「Drink」(飲み物)を「Bevvy」(ベビー)など、独自の言葉を操る。

発音の特徴
  • 単語の終わりや途中に「T」がある場合、破裂音ではなく摩擦音で発音する(日本語の「つ」の発音に近い
  • 単語の終わりが「K」で終わる場合、喉の奥から出るような、締め付ける音になる
  • 「Th」の発音はDに近い発音になる。「Though」(ゾウ)→ドウ
  • 「-ing」の「G」の発音は落ちる。「Working」(ワーキング)→ワーキン
  • 「H」の発音は落ちる。「House」(ハウス)→アウス

Geordie ジョーディ

話されている地域:ニューカッスル・アポン・タイン(イングランド北東部)

主にイングランド北東部ニューカッスル・アポン・タインで使用されており、現在使われている方言のなかで最も古いものの一つとされている。スコティッシュ(後述)と共通する語彙があるものの、ジョーディはアングロ・サクソン時代までさかのぼることができ、その時代に使われていた古英語にルーツを持つ。なぜジョーディと呼ばれるかについては明らかになっていないものの、一説には同地域が18世紀に4人のジョージ王朝からなるハノーヴァー朝を支持していたことに由来すると考えられている。「Yes」(はい)はジョーディでは「Aye」(アイ)、「Child」(子ども、または自分より若い人)は「Bairn」(バーン)、喜びを表す言葉として「Belta」(「That was proper belta」)など、特徴的な語彙が数多く存在する。

発音の特徴
  • 「au, /aʊ/」(アウ)の二重母音の場合、「ウ」に近い発音になる。「Town」(タウン)→トゥーン
  • 「P」の前後に母音がある場合、声門停止(一時的に喉の空気の流れを止める)が起こる。「Jumper」(ジャンパー)→ジョンア(Pがミュートになる)

Brummie ブラミィ

話されている地域:バーミンガム(ウェスト・ミッドランズ)

イングランド中部バーミンガムとその周辺地域で話されているが、かなり局所的な範囲の言語として知られている。長年注目されることがなかった方言だったが、ドラマ・シリーズ「ピーキー・ブラインダーズ」で広く知られることになった。単調でドライな響きかつ同じ音程が続くのが特徴。ただし、アクセントを付けた単語は音が伸び、その後に音程の急激な上がり下がりが続くことがある。「Wonderful」「Brilliant」(素晴らしい)は「Bosting」(ボスティング)、パートナーやよく知っている人に対して使う「Babe」は「Bab」(バブ)、「Goodbye」(さようなら)は「Tara-a-bit」(タラー・ア・ビット)、もしくはタラ、と言う。

発音の特徴
  • 文末のイントネーションが下がる
  • 文頭の「H」が省略される
  • 母音の「i」はoyという発音に変化する

West Country English ウェスト・カントリー英語

話されている地域:イングランド南西部

イングランド南西部からウェールズ国境にかけて広く使われている。歴史は古く、中世に同地域や当時イングランドの首都であった英南部のウィンチェスターが含まれるウェセックス王国で使われていた言語。もし首都がロンドンに移転しなければ、ウェスト・カントリー英語が英国のスタンダードな英語になっていたかもしれない。デヴォン、コーンウォール、サマセットは、英国の主要な都市から離れた場所にあるため、昔の話し方や文法が今も残っており、「She」の代わりに「Her 」、「Him」の代わりに「He」を使うことがある。

発音の特徴
  • 単語の最後が母音で終わる場合、Lを追加する。この手法はBristol Lと呼ばれており、ブリストルは昔ブリストウ(Bristow)と呼ばれていたが、この発音が現在に残っている。「Idea」(アイデア)→アイディアル
  • 母音の後の「R」が発音される

Scottish スコティッシュ

話されている地域:スコットランド

スコットランドの一部の地域で話されていたゲール語とヴァイキングが使っていたノルウェー語の影響を強く受けている。18世紀ごろには現在のスコティッシュが同地域での標準英語として定着した。同方言は地域によってかなり差があり、エディンバラは比較的やわらか、グラスゴーはよりきついアクセントを話す。一方ハイランド地方は言語に詩的なリズムがあり、ゲール語の影響で北欧系の言語に響きが似ているといわれている。「Shy」「Bashful」(シャイな、内気な)は「Blate」(ブレート)、「Excellent」「Pleasant」(素晴らしい、楽しい)は「Braw」(ブラウ)など、他地域と同じように独特の単語も数多く存在する。

発音の特徴
  • 母音は長母音になる。「Face」(フェイス)→フェース(Fehce)
  • 「ow」は「oo」と発音する。「House」(ハウス)→ホース
  • 「eh」は「ee」と発音する。「Head」(ヘッド)→ヒード

Welsh English ウェールズ英語

話されている地域:ウェールズ

ウェールズに住む約25パーセントの人が同地域独自のウェールズ語を話すため、英語の方言はウェールズ語の影響を強く受けている。特に、家庭では英語が第二言語として使われることが多いウェールズ北部で、アクセントがより強く、同南部は、まるで歌うような音楽的な響きがある。また、単語の特定の音節を強調せず、例えば「Language」は通常Lan-にアクセントがあるが、ウェールズ英語では両方の音節を強調する。

Northern Irish English 北アイルランド英語

話されている地域:北アイルランド

北アイルランド英語はアルスター英語(Ulster English)とも呼ばれ、もともと同地に根付いていたアイルランド語に英語が取り込まれ、独自の進化を遂げた方言。スペルの通りに発音するのではなく、「Northern Irish」は「Nor’n Ir’sh」、「Cow」「Now」など「ow」(アウ)の発音をするときは、アイに近い発音になり、「カーイ」「ナイ」となる。発音以外にもFor to不定詞などの独自の文法を用いるほか、「Boggin」(とても汚い)、「Bout ye?」(お元気ですか?)などの単語やフレーズを使用する。

実際に聞いてみた!英国人同士で話してて
英語が分からないことってある?

他地域の英語を聞くと、英国人でもその違いに困惑することがあるのだろうか。ロンドン東部出身でコックニーを普段から話す英国人(以下Cさん)と、リヴァプール出身で今はロンドンに住んでいる英国人(同Lさん)のお二人に、英国の英語について話してもらった。

Lさん:リヴァプール出身、ロンドン在住
Cさん:ロンドン東部出身、コックニー話者

Lさん:リヴァプールからロンドンに引越して働き始めた会社で、「直して」というニュアンスではなかったけれど、「A」の発音について同僚に指摘されたことがあったかな。あと、発音で思い出すのは、リヴァプールにいたときに子どもと接する仕事をしていたんだけど、そこにランカシャー出身の子どもがいて。リヴァプールとランカシャーは地理的にもとても近い場所にあるんだけど、発音が全く違ったの。言葉としては問題なく伝わるけど、とにかく発音が違う、という感じ。親がどこ出身か、どの程度の強いアクセントあるかによって、同じ地域の子どもでも少しずつ違いがあるのは、日本も同じじゃないのかしら。

Cさん:僕はロンドン東部出身で、当時からいろいろなコミュニティーの人が住んでいたけど、人種に関係なくコックニー訛りがそこら中から聞こえていたね。ユダヤ系の人達がコックニーを話しているところも見たよ。ただ、今はそれぞれのコミュニティーが発達し、それに合った言語が話されているから、僕が住んでいた1950年代と今とでは、話す言語も雰囲気も結構違うかもしれない。あと、コックニーで不思議だと思うのは、独自のフレーズがあるからなのか、コックニー話者と話しても話が通じないときがあるんだよね。「この人は何言ってるんだ?」ってなってしまう(笑)。

Lさん:リヴァプール出身同士でその現象はなかったかなぁ(笑)。コックニーはその特異性からか、一般的に知られている言葉が多いというのもあって、引越した当時から聞き取りがすごく難しかったと思ったことはなかったわね。ちょっと分からない部分があったとしても、話の流れなどである程度推測しながら乗り切れたかな。

Cさん:僕がほかの地域でこりゃまいった、全然分からない、ってなったのはグラスゴーに旅行に行ったとき。道に迷ったときに親切に声をかけてくれた人がいて、「ここに行きたい」と伝えたらすごく丁寧に教えてくれたんだけど、もう全く理解できなかったの。でも申し訳なくて、分かったフリをしてお礼をしてその場を立ち去ったんだよね(笑)。アクセントが違うだけでなく、さらに話すスピードが速いなら、同じ英語でも「全然分からないな」と思っちゃう。でも、グラスゴーやリヴァプールの人はとてもフレンドリーな人が多いし、言語についての記憶より、人との温かな交流の方が記憶に残っているね。

Lさん:どの方言が良いとか悪いとか、そういったものは全く感じないわ。特にロンドンは本当にいろいろな場所から来た人が生活しているし、その方言やアクセントのどれもがとてもすてきだと思っている。英国人に関していえば、むしろその地域出身であることを誇りに思っている人が多いのではないかしら。今はロンドン生活が長くなったのもあって普段スカウスを使うことはあまりないけれど、同郷の人に会えばもちろん使う。話さないからもうロンドンに染まったんだ、なんて少しも思わないわね。

歴史あるウェールズ語(Welsh)はどんな言語?

ウェールズの旗

ウェールズに関連するウェブサイトを見ていると、言語変換の「Cymraeg」(カムライグ)という言語変換のボタンがある。カムライグはこの地域で話されている、英国最古の言語といわれているウェールズ語のことだ。ウェールズ語の歴史は4000年余りととても長く、インド・欧州語族とブリトン語族、またラテン語の影響を受けて今日まで残っている。

ウェールズ語は産業革命による住民の移動や諸外国との戦争、また過去500年にわたるウェールズ語への迫害により、存続の危機にさらされた時期があったが、20世紀に制定された教育法により、現在は学校でウェールズ語の授業が設けられ、その話者数を少しずつ増やしている。迫害されていた時代があったものの、「Bard」(吟遊詩人)、「Corgi」(コーギー)、「Flannel」(フランネル)、「Penguin」(ペンギン)などの言葉は英語として残り、ウェールズ語は歴史のどこかで英語に影響を与えたのは確かなようだ。

ウェールズの看板ウェールズのほとんどの道路標識は英語・ウェールズ語の併記。ウェールズの高速道路管理局は優先する言語を選択でき、ウェールズ南部の大部分は英語、ウェールズ北部はウェールズ語が優先

ウェールズ語には、多くの単語が文脈や疑問文によってさまざまに変化する、英語の「いいえ」に直接翻訳できる具体的な単語がない、など独自の文法や言語体系が存在する。また、最も長い町名に「Llanfairpwllgwyngyllgogerychwyrndrobwllllantysiliogogogoch」があり、ウェールズといえば、の話題によく出てくる。

ウェールズの駅読み方は「スランヴァイルプールグウィンギルゴゲリッヒルンドロブールスランティシリオゴゴゴッホ」(!)

簡単なウェールズ語
  • Bore da(ボレー・ダー) おはよう
  • Prynhawn da(プリナーウン・ダー) こんにちは
  • Nos da (ノース・ダー) おやすみ
  • Tafarn(タヴァーン) パブ
  • Diolch (ディーオークッ) ありがとう
 

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*本文および情報欄の情報は、掲載当時の情報です。

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