今年の干支は丑年!そこで英国、フランス、ドイツで展開するニュースダイジェスト編集部が、各国を代表する牛と乳製品をピックアップ。3国それぞれがイチオシする、栄養たっぷり、おいしさ満点の乳製品を食べれば、2009年がモ~っと良い年になるはず!
ジャージー牛乳が生んだ
クロテッド・クリーム
くるりと大きな眼に、ふさふさの長いまつげ̶̶そんな愛らしい容姿が印象的な、英国領ジャージー島生まれの乳牛、ジャージー種。実は同種から採れる牛乳が、英国の「午後のひと時」には欠かせない存在だということはご存知だろうか。2009年がもっと豊かになる、ジャージー牛乳の恵みをご紹介しよう。
ジャージー牛乳は「量より質」
「ジャージー牛乳」と言えば、濃厚な味で日本でも人気が高い牛乳の1つ。とはいえ、このジャージー種の原産地が英国だということは、意外と知られていないのでは。ジャージー種の飼育が英仏海峡に浮かぶ英国領ジャージー島で始まったのは、1700年ごろからとされている。赤茶色の毛と大きな眼が特徴で、乳牛の中では最も小さく、性格は人懐っこくておとなしい。ホルスタイン種と比べると約半分程度しか産乳量がないものの、乳脂肪分が高いミルクにはコクがあり、バターなどの乳製品を作るのに適している。
そしてその味と性質を生かして作られるのが、英国人に愛されて止まない乳製品「クロテッド・クリーム」だ。クロテッド・クリームの乳脂肪分は55~63パーセントで、バター(約83パーセント)と生クリーム(約45パーセント)の中間ぐらいに当たる。ねっとりとしたクリームは口に入れるととろりと溶け、コクはあるのにしつこさが無いのが人気の秘密だ。そして原材料はミルクのみ。そう、クロテッド・クリームはジャージー牛乳の旨みと特徴を最大限に引き出した、魔法のような食べものなのだ。
「神様の食べもの」の秘密
ウィリアム・グラッドストン元英国首相に「神さまの食べもの」と称されたクロテッド・クリーム。その歴史は長く、紀元前500年ごろにレバノンからフランス北西部の地域に製造方法が伝えられ、その後、この食文化はイングランド南西部に位置するデボン州とコーンウォール州に定着した。英国のほかの地域と比べ、比較的温暖で日照率が高い両州は肥沃な土地にも恵まれ、クリームの製造に欠かせないジャージー種が多く飼育されていたことから、クロテッド・クリームはこの2つの州の特産物になったという。それぞれ「デボンシャー・クリーム」と「コーニッシュ・クリーム」と呼ばれ、現在「本物」のクロテッド・クリームが製造されているのは両州とレバノンだけだと言われている。
ジャージー牛乳は糖分が高いため、生産工程の途中でクリームの表面が凝固し「クラスト」と呼ばれるハチミツ色の膜が出来るが、この膜こそが本物のクロテッド・クリームの証とされている。クロテッドとは「固まった」という意味で、これが名前の由来でもある。製造方法はいたってシンプルで、脂肪分が高い牛乳を弱火で煮詰め、時間を掛けて水分を飛ばしたものを一晩おき、表面に固まった脂肪分を集めるだけ。仕上がりの味を決めるのは素材と製法のみで、それゆえにごまかしが利かない。肥沃な土に育った牧草を食べて育ったジャージー種から採れたミルクだからこその旨みが、クロテッド・クリームには凝縮されているのだ。
ジャージー牛とお茶をどうぞ
「ご飯がまずい」という不名誉な認識が定着している英国だが、観光客の多くが、紅茶とスコーンとクロテッド・クリームをセットにしていただく「クリーム・ティー」や、さらにサンドイッチなどが加わった「アフタヌーン・ティー」に憧れるのもまた事実。そしてこの伝統的なお茶の習慣にも、クロテッド・クリームは欠かせない存在だ。カップにミルクとお湯のどちらを先に入れるかについて討論してしまうほど紅茶好きな英国人だが、実は、スコーンにクロテッド・クリームを先に塗るか、ジャムを先に塗るかでも真剣に悩んでしまうほどこだわりがあるのだとか。とはいえ、最近では割高な本物のクロテッド・クリームを出すお店は少なく、代わりに乳脂肪分が高いダブル・クリームをホイップしたものが出されることが多いという。
120年の伝統の味をご家庭で
「我こそがクロテッド・クリームの本家本元なり!」とそれぞれが主張しているコーンウォール州とデボン州。両州に数あるクリーム製造所の中でも、1890年にコーンウォー ル州で創立されて以来、一家でコーニッシュ・クリームの伝統的な味を守り続けている「ロッダ」社は、英国民の誰もがその名を知る存在だ。金色のクラストとシルクのような舌触りが特徴で、生前のエリザベス王太妃もファンだっ たという。
5代目オーナーであるフィリップ・ロッダさんは歴代のオーナーたちと同様、同州の牧場から毎朝届く新鮮なジャージー牛乳を使用する一方で、積極的に最新の機械類を使い、保存料なしでも日持ちする製品を作ることを可能にしたという。英国の「おいしい」伝統を守り進化させていくロッダ社のクロテッド・クリームは、オンライン・ショップのほか英国内の各大手スーパー・マーケットで販売中。本物の伝統の味を手に入れて、おいしい 2009年を迎えよう!
Rodda’s Cornish Clotted Cream
Tel: +44(0)120 982 3300
www.roddas.co.uk
クロテッド・クリーム取扱店
Devon Cheese Ltd.
East-the-water, Bideford, Devon EX39 4QY
Tel: +44(0)123 742 2800
www.devoncheese.com
Johns Supermarket & Delicatessen
Instow, North Devon EX39 4HY
Tel: +44(0)127 186 0310
www.johnsofinstow.co.uk
The Devon Cream Company
1 Ingoldmells Court, Wiltshire SN13 9N
Tel: +44(0)122 581 2712
www.coombecastle.co.uk
Jersey Cow Farm Shop
5 Belle Vue, Bude, Cornwall PL32 9SP
Tel: +44(0)128 835 5650
www.jersey-cow.co.uk
無敵のヴォージュ種と
極上の乳製品
フランス北東部、ドイツ国境近くのアルザス地方は、フランスでも有数の農業地域。なんでも同地方には、ミルクから食用肉としてまで活用出来るオールマイティーな牛、ヴォージュ種がいるという。そしてそのミルクから作られた乳製品は、まさに絶品。極上のチーズとバターを食べて、仏流に丑年を満喫してみては。
オールマイティーな牛、ヴォージュ種
頭から背中にかけ、一直線に伸びる白毛が特徴のヴォージュ種は、フランス北東部アルザス地方のヴォージュ山脈を中心に生息する牛。この種は、17世紀に迎えた30年戦争時代(1618~48)にスウェーデン人がフランスに持ち込んだものが起源とされている。ヴォージュ山脈の気候が寒さの厳しい北欧諸国の気候に酷似していることから同種はめきめきと増殖し、20世紀初めには12万頭を超えた。
乳牛としてだけではなく食用肉としても活用出来ることから、第一次、第二次世界大戦時にはフランス軍に強制徴収されるほどの人気を見せたヴォージュ種。だがその需要と供給のバランスが崩れ、1970年初頭には3000頭にまで激減してしまう。その後、農林水産省からの通達で種の保存が計画され、77年には8500頭にまで増殖し、現在では1万頭超を保っているという。1メートル30センチ前後と小さめの体にも関わらず、体重は600キロ前後とどっしりした体型で、乳牛1頭につき、年間およそ4400トンのミルクを生産する。
こだわりの郷土チーズ、マンステール
世界有数のチーズ生産国であるフランスでは、数千種類にも上るチーズが作られていると言われている。ここで紹介したいのは、アルザス地方やスイスとの国境に位置するフランシュ=コンテ地域圏、ヴォージュ山脈付近のヴォージュ県などを代表する、ヴォージュ種のミルクを使用して作られたチーズ、「マンステール」。マンステールは、フランス製のワインやチーズなどに対して与えられる認証「AOC」を持つ、アルザス地方唯一のチーズとしても有名だ。
ウォッシュ・タイプと呼ばれるこのチーズは、表皮を塩水で何度も洗うことで菌を繁殖させ、外側から熟成させるという独特の手法で作られている。熟成が進むと表皮はオレンジ色に変色し、かなりクセの強い臭いを放つ。とはいえ、口に入れるとまろやかで、口いっぱいに広がる濃厚な牛乳の甘さに驚くはずだ。マンステールは乳牛の食生活や生活風土などで味が大きく変わることから「フロマージュ・ド・テロワール(郷土チーズ)」と呼ばれており、アルザス地方では茹でたジャガイモと一緒に食べるのが通例となっている。もちろん、ワインのつまみやデザートにも最適だ。
フランス料理には欠かせないバター
世界三大料理の一つにも数えられるフランス料理だが、それに欠かせない食材の一つがバターである。マンステール・チーズに比べると生産量は少ないものの、アルザス地方ではバターも生産されていて、中でも南部に位置するリンタル村で作られるものが有名だ。豊かな自然に囲まれ、高山の牧草を食みながらスクスク育ったヴォージュ種のミルクから作られたバターには、ほかにはない自然の味わいがある。目印は、表面に付いたかわいい牛のマーク。このバターがアルザス料理に合うのは言うまでもない。
マンステール・チーズのタルト
タルト型: 直径30センチ(6人前)
卵 | 200g(およそ6個) |
フレッシュクリーム | 150g |
塩 | 0.5g |
コショウ | 0.5g |
小麦粉 | 15g |
バター | 20g |
パイシート | 205g |
マンステール・チーズ | 110g |
1. | ボウルに卵、クリーム、塩、コショウ、小麦粉を入れハンド・ ミキサーでよく混ぜる。 |
2. | タルト型にまんべんなくバターを塗り、パイ生地を型に敷き、フォークで適当に穴を空ける。 |
3. | マンステール・チーズを小さなサイの目に切り、パイ生地の上に並べる。 |
4. | パイ生地の上に1で作ったタネを流し入れ、200度のオーブンで40分間焼いて出来あがり。 |
チーズとバターの入手方法
Klei Belcha
21, Grand Rue 68140 Munster
Tel: +33(0)3 89 77 20 57
9:30-12:00 14:00-18:30 無休
Fromagerie: Ferme Roess
4, Oberer Geisberg 68140 Soultzeren
Tel: +33(0)3 89 77 13 72
www.chezchantaletdany.fr
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Auberge et Ferme du Ried
Le Ried 68140 Luttenbach près Munster
Tel: +33(0)3 89 77 36 63
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Fromagerie: Ferme du Saesserle
155 Ferme du Saesserle 68380
Breitenbach Haut Rhin
TEL: +33(0)3 89 77 49 46
年中無休
写真©OTVM
女王ホルスタイン種の
安心・安全ビオ牛乳
白と黒のブチがトレード・マークの牛、ホルスタイン種。同種の原産地であり、古くから牛乳産業が盛んなドイツは、世界第4位、EU第1位の牛乳生産量を誇る酪農大国である。そんなドイツで近年注目されているのが「ビオ牛乳」という存在だ。同じホルスタイン種のミルクでも、飼育法が違うだけでなぜ味も栄養価も違うのか、その秘密に迫る。
乳牛の女王、ホルスタイン種
世界で最も有名な牛の品種といっても過言ではない、ホル スタイン種。同種の原産地は、ライン川河口の低湿地であるオランダのフリーネ地方と、ドイツ北部のシュレスヴィヒ=ホルシュタイン州に当たる地域である。あまり知られていないが、この品種を立派な乳牛に育て上げたこの2つの地方の名を冠した「ホルスタイン・フリーシアン」というのが正式名称だ。
ホルスタイン種は年間6000~8000キロと、乳牛の中では最大の産乳能力を誇り、黄色味の薄い美しい乳白色のミルクを出すこと、そして世界で一番多く飼育されていること から「乳牛の女王」の地位を不動のものとしている。ちなみに、日本で飼育されている乳牛の99パーセントを占めるのも同種だ。そんな大活躍を見せるホルスタイン種だが、ドイツで今、その飼育法とミルクに大きな変化が起こりつつある。オーガニックな飼育と搾乳を実現した「ビオ牛乳」が登場したのだ。
健康で美味しいビオ牛乳
最近、ドイツのあらゆるスーパー・マーケットで見かけるのが、緑の六角形の「ビオ・マーク(Bio-Siegel)」が目印のビオ食品。これは規格認証制度として、有機農業の生産から流通、販売、品質管理にいたるまで、徹底した品質管理が行われているオーガニック食品のことだ。誕生したのは2001年、ドイツで狂牛病(BSE)の感染が確認され、食品に対する不安が急激に高まった時期だった。
現在、パンや野菜、肉にフルーツなど、ありとあらゆるものが登場しているビオ食品。中でもビオ牛乳は人気で、消費者への定着度も高い。初めて飲む人は、同じホルスタイン種から採れたミルクでも、普通のものとビオ牛乳の美味しさと栄養価の違いに驚くはずだ。もちろん品質の面でも安心でき、普通の牛乳との価格差があまりないことも人気の理由だ。
健康と幸せの法則
消費者が、いつもの牛乳からビオ牛乳へと切り替えるのは簡単なこと。だが農家にとって、その変化は一体どんな形で現れるのだろう。ドイツ北西部、ノルトライン=ヴェストファーレン州で酪農を営むユリアン・トーレンさんは「ビオ牛乳作りが難しいのは事実。でも、私は消費者の人生を『食』の面から応援していきたい」とその情熱を語る。
ホルスタイン種を飼育するトーレンさんは、それまでの一 般的な牛乳の製法からビオ牛乳の製法へと6年前に切り替えた。ビオ牛乳作りには、農場の設備から乳牛の飼育方法まで、あらゆる面で変更が必要で費用がかさむ。実際、ビオ牛乳作りへの転換を考えても、コストと採算を天秤にかけてあきらめてしまう酪農家は少なくないと言われている。
トーレンさんがビオ牛乳作りへと切り替えるきっかけとなったのは、彼の父親の病気だった。食事に特に神経質にな らなければいけない種の病気であったため、食の安全について、彼自身も敏感にならざるを得なくなったという。それを機に、本当に体に良いものを作らなくてはいけない、という信念を持つようになったトーレンさん。ビオ牛乳を作るために手間が倍増する反面、収益は大きな伸びを期待出来ないのが現状だ。しかしそんなジレンマを抱えながらも、消費者の人生を「食」の面から応援したいという情熱が彼を支えた。
普通の牛乳と比べ、栄養価の面でも味の面でも勝っているビオ牛乳だが、それは飼育方法に秘密があるようだ。トーレンさんによれば、乳牛が緑の草を食べれば食べるほど、乳の色がより白く、美しく変わるという。「生まれてすぐの仔牛は母牛の母乳で育て、十分な敷地の中で放牧し、無理のない搾乳サイクルを組むことで、牛自身の体力が付いてくる。すると、その牛から取れる牛乳にはたくさんの栄養が含まれ、風味も豊かになるのです」。
良いミルクは良い牛人生、ということだろうか。酪農家の想いと牛のパワーがたっぷりと詰まったビオ牛乳を飲んで、これまで以上に健康的な1年にしてみてはいかがだろう。
牛をもっと身近な存在に
Upländer Milchmuhseum
Korbacher Str.6, 34508 Willingen - Usseln
+49(0)563-2922222
www.muhseum.de
Dresdner Molkerei Gebrüder Pfund
Bautzner Str.79, 01099 Dresden
+49(0)351-808080
www.pfunds.de
www.bauernhofurlaub.de
www.milka.de