アップル・チャットニー
Apple Chutney
あけましておめでとうございます。日本と違い英国では2日から仕事始めということで、既にお正月気分は抜けている方も多いと思います。と言いながら、実は私がこの原稿を書いているのはクリスマス前。そして現在、我が家では、キッチンはもとより家中に、今日ご紹介する「アップル・チャットニー」を煮込む匂いが充満しています。
チャットニーは、我が家ではコールド・ミートやチーズの付け合わせとして、クリスマス・ホリデー中の食事に必須のアイテム。リンゴと玉ネギに砂糖、モルト・ビネガーとスパイスを加えてぐつぐつと煮込んだ香りは、鼻腔を駆け抜けるだけでなく、その後体内を高速で1周して戻ってきて、再度、鼻から目にかけて「ツン」とさせてくれるほどに(!?) 濃厚です。苦手な方もいるかもしれませんが、私はこの独特の香りが好き。出来上がりをチーズに付けて食べることを想像して、パブロフの犬のごとく、自然と唾液が口の中に染み出してくるのです。
日本では「チャツネ」と言いますが、英国では「チャットニー」と呼ばれるこの食べ物。名前はヒンディー語でソースを表す「chatni」からきていると言われます。インド帝国が英国領だった時代に、カレーなどの食物と同様にもたらされました。現地ではマンゴーやタマリンドなどが多く使われていたものの、英国では国内で採れるリンゴやプラムなどの果物を使ったバージョンへとローカライズされていったようです。有名なビートン夫人の「Book of Household Management」の中でも「インディアン・チャットニー・ソース」として、リンゴとトマトにレーズンやカイエン・ペッパーなどを加えたレシピが紹介されています。
そして今や、ズッキーニ、トマト、ナシ、ビーツ、玉ネギ、アプリコットなどなど、スーパーの棚をのぞくと、数え切れないほどのバリエーションが存在しています。
日本から初めて英国にやって来た方には、これをどう食べていいのか見当もつかないかもしれません。私自身、10数年前、クリスマスに義母から可愛くラッピングされた手作りのチャットニーをプレゼントされて、ようやくその食べ方を知ったくらいです。英国人は、チーズやハムなどに添えるだけでなく、ソーセージなどの付け合わせにもします。ほんの少し付けることで、ほかの食品の味を引き立てる、言わば薬味的存在なのです。
また、義母がしてくれたように、チャットニーをクリスマスにプレゼントするというのは、ビクトリア時代から続く伝統です。そういえば、英国王室に嫁いだキャサリン妃がエリザベス女王に初めて贈ったクリスマス・プレゼントがチャットニーだったと、ニュースになりました。それはアップルではなくウリ科の野菜マロウを使ったものだったようですが、英国王室の食卓にも並ぶチャットニーは、間違いなく「英国の口福」の一つと言えるでしょう。
アップル・チャットニーの作り方
(350g用の瓶4~6個分)
材料
- リンゴ ... 900g
- 玉ネギ ... 450g
- サルタナ(干しぶどう) ... 225g
- 生姜(すり下ろして使用) ... ひとかけ
- 塩 ... ひとつまみ
- 砂糖 ... 450g
- モルト・ビネガー ... 570ml
- ピクルス用スパイス(pickling spice) ... 30g
作り方
- ピクルス用スパイスをガーゼで包んでおく(使い捨て用のティー・バッグなどに入れても可)。
- リンゴと玉ネギを小さめに刻む(大きさは好みによりますが、みじん切りよりはやや大きめくらいがいいようです。フード・プロセッサー使用可)。
- ❷にモルト・ビネガーとスパイスを加え、沸騰するまで煮立て、沸騰後は火を弱めて1時間ほど煮込む。
- 砂糖、サルタナ、塩、生姜を加え、この段階でスパイスを取り出す。再度、沸騰させ、30分ほど煮込む。砂糖が多いので焦げないように時々かき混ぜる。
- 水分が減ってとろりとした感じになり、全体が濃い茶色になっていれば出来上がり。チャットニーが温かいうちに煮沸消毒した密閉容器に入れて保存する。
memo
我が家のレシピは義母の家庭で伝えられているものです。義母のお母さんはサルタナを粒のまま入れていたそうですが、義母は刻んでいれているので、 私もそれに倣っています。また、このチャットニーはしばらく寝かせずとも、作ってすぐに食べてもおいしいので便利です。