古川 雄輝 Yuki Furukawa
1987年12月18日生まれ。東京都出身。7歳からカナダで暮らし、高校入学時に単身、米ニューヨークへ。慶応義塾ニューヨーク学院を経て慶応義塾大学理工学部に進む。2010年、芸能界デビュー。以降、舞台、映画、テレビ・ドラマとジャンルを問わず幅広い活躍をみせる。2013年1月~2月、ロンドンで上演される「家康と按針」において、宣教師ドメニコ役を演じる。
今回に先駆け、8月にも来英されたそうですね。
僕はカナダで育って、ニューヨークの高校に通ったので、アメリカの英語しか話せなかったんです。舞台の時代背景は1600年代なので、登場人物がアメリカ英語を話していたらおかしいということで、イギリス英語の勉強のために来ました。あとは演出のグレッグ(グレゴリー・ドーラン)とお会いして役について話したり。
今回の滞在で、実際に英国人キャストとの稽古が始まったわけですね。日本との違いは感じますか。
日本人キャスト抜きで一通り稽古したんですが、稽古場の雰囲気というのがやはり違いますね。例えば皆で本読みをするときも、日本だったら主役はここ、その後は役の順に座って、というように場所が細かく決まっているんです。でもこちらでは、座りたいところに座ればいいじゃん、みたいな。あとは本読みしながらクッキーやリンゴ、オレンジを食べていたり(笑)。本読みのときに演出家の前で食べ物をばくばく食べるなんて、日本だったらありえない光景なので、そういう意味では自由だな、と思います。演技の面でも、今回は再演になるんですけれども、再演の場合は、前やったときはこうだったからこうしよう、とビデオを観ながら細かく決める演出家の方もいらっしゃると聞きますが、グレッグの場合は、新しい2人だから好きなようにやってみせてくれ、と言って、実際に僕たちがやってみてから考えて、演出してくださいました。
イギリス英語には慣れましたか。
少しは。完全になるまでにはもう少しですね。でもグレッグとも話をしていて、100% 完璧なイギリス英語でなくても大丈夫みたいです。キャラクター的にも、ドメニコは日本人なので、アメリカ英語に聞こえるよりは、日本語英語に聞こえた方がいいということで、とにかくR やL を巻き過ぎてアメリカ人っぽく聞こえないようにしなくては、と思っています。セリフもイギリス英語バージョンをiPhone に入れていつでも聞けるようにしています。
英国でも指折りの名演出家、ドーラン氏との稽古はいかがですか。
まず最初にお会いしたときに、僕の生い立ちについて詳しく話をし、そこから「じゃあ、その経験はドメニコにどう繋がるかな」というように、まず僕とドメニコの共通点を一緒に探して役作りをしていきました。なので、ドメニコという役にすごく自然に入り込んでいけました。ただ少し戸惑うのは、外国の方って「That was great!」とか「Brilliant!」といつも褒めてくれるんです。でも、本当はそうではないのでは?、とも思ってしまいます。マナーとして褒めている、そういう部分があるんじゃないかと(笑)。「今のはグレートだった」って言った後に、役の心情について説明をするんですよ。だからこそより一層、役について常に深く考えていないといけないなと感じます。
日本を代表する俳優、市村正親さんが徳川家康を演じられますが、以前も舞台「エンロン」で共演されたそうですね。
市村さんは色々とアドバイスをしてくださるんです。本来ならば僕の方から「このセリフが分からないので教えてください」と言うべき立場なんですが、市村さんは僕に限らず若い役者さん皆に平等にアドバイスしてくださる。非常にありがたいことだと思います。僕は「エンロン」が初めての大きな舞台だったので、本当に色々教えていただきました。本番中にも舞台裏ですれ違うと、うまくいった日には、良かったよっていう意味で指をGood! ってやってくださるんです。しかも無言で、ちょっと笑って。それを見て、今日はうまくいったんだな、と。市村さんがグーってやってくださるときには、ほかのスタッフさんからも「今日は良かったよ」って言っていただけるんです。そうやって本番が始まってからもたくさんアドバイスをくださって。一つGood! をもらえると、次に市村さんが「そこは良くなった、じゃあここはこうしてみたらどうだ」と言ってくださり。それで次の日に試してみると、また新たな課題を……というように、毎日こちらを気にかけてくださる、そういう方ですね。
今回演じられるドメニコという役は、初演では藤原竜也さんが務められたわけですが、初演はご覧になりましたか。
初演はDVD で観ました。僕には役者を始めたときから海外の作品に携わりたいという思いがあって、「Anjin」という作品があると聞いて、どうしても観てみたくて、役が決まる前に観ていたんです。なので役が決まったと聞いたときにはすごくうれしかったです。ただ、竜也さんの演技を真似しようとしてもできないですし、僕は竜也さんではない。だから竜也さんの真似をするというよりも、今の自分の味を出すというか、自分らしいドメニコをやれるように、と思っています。
デビュー作を含め、数本の舞台に立たれていますが、古川さんにとって舞台とは?
生の反応が分かるというのが良いですね。舞台は役者にとって一番成長できる場所だと僕は思っているんです。映像だと監督とコミュニケーションを取る間もなく、あっという間に撮影が終わってしまう。撮影に行くのも自分が出番のシーンだけですから、ほかのシーンのキャストの方と会わないうちに終わってしまうことも多々あります。だから舞台から始められて良かったなと思うのは、何も分からない状態でこの世界に入って、演出家の方が演技というのはこういうものなんだと細かく教えてくださり、作品全体をキャスト全員で時間をかけて作るところからスタートできたこと。そして今では、自分が成長できる場だからこそ、舞台をやりたい。最低でも年に1本は舞台をやれる役者になりたいと思っています。
最後に読者に向けて一言、お願いします。
日本を舞台にした作品ですが、日本人とロイヤル・シェイクスピア・カンパニー(RSC)のキャストが合同でやるというのはなかなかない機会ですし、グレッグがRSC のトップになって初の日本との共同作品です。あとは僕個人的に、海外でも働きたいという思いがある中、初めて英語で演技をするということで、自分にとっては確実にすごく大事な作品になると思います。僕のことをこの舞台で知っていただくとともに、この舞台は色々なことを感じていただける作品ですので、一人でも多くの方に観に来ていただきたいですね。
ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー芸術監督
グレゴリー・ドーラン氏に聞く
ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーのツアーで日本に滞在していた際、1600年にウィリアム・アダムズという英国人が日本に漂流したという話を聞きました。私は長年、英国でシェイクスピアが活躍していた時代に、世界のその他の国々でどのようなことが起こっていたのかという点に興味を抱いていたので、この話を日英の俳優たちとともに舞台化できないかと思ったのが「Anjin」のきっかけ。両国の脚本家たちと共同で作業を進め、2009年に東京で初演を迎えました。
この物語には、実に魅力的な人物が大勢出てきます。アダムズはもちろんのこと、将軍徳川家康や、豊臣秀頼の母である淀殿。中でも淀殿の気性の激しさは、シェイクスピアの「ヘンリー6世」に出てくる王妃マーガレットを彷彿とさせますね。
日本と英国が共有する歴史を、日英の俳優たちと一緒に探る作業はとても魅力的です。ドメニコを演じる古川雄輝さんは、好奇心旺盛で柔軟に物事を受け入れる姿勢が魅力的な俳優。再演ということで重責だとは思いますが、やり遂げてくれることと信じています。
Sadler's Wells
Rosebery Avenue, London EC1R
2013年1月31日~2月9日
Tel: 0844 412 4300
www.sadlerswells.com/shogun