バブル & スクイーク
Bubble & Squeak
「マミ、明日のランチはコールド・ミートとバブル & スクイークでいい?」ーー夫と結婚する前年、クリスマスを初めて彼の両親と過ごした日の夜、義母が言いました。イブからクリスマス当日にかけて、彼女が料理を作る様子をずっと観察していた私。深夜、教会のミサから戻った後に、下準備をしてあった七面鳥を低温のオーブンに入れて翌朝までじっくりローストすること。ジャガイモは茹でてから鍋をゆすって粉ふきいものような状態にすると、外はかりかり中はほっこりのロースト・ポテトができること。料理上手の義母は、英国料理に興味津々の私に、色々と教えてくれました。そして、クリスマス・ディナーを終え、ソファに座って紅茶を飲んでいたときに彼女の口から出てきたのがこの「バブル & スクイーク」だったのです。
バブルといえば泡、スクイークはねずみの鳴き声、程度のボキャブラリーしか持ち合わせておらず、それまで「バブル & スクイーク」なるものを見たことも聞いたこともなかった私は「イエス!」と即答。早くその正体を知りたくて、ボクシング・デーを待ち遠しく感じたほどでした。
さて、翌日もクリスマスの日と同様、キッチンで義母に張り付きました。「とても簡単で、教えるようなことでもないけど」と言いながら、義母は前日のクリスマス・ディナーで残った、茹でた芽キャベツ、人参をフード・プロセッサーに入れて細かくしました。一方で、これまた残りもののロースト・ポテトとパースニップをマッシュ。そして、それらすべてを混ぜ合わせ、塩・胡椒で味付けしたら、油をひいたフライパンに入れ、焼くのです。つまりこれは、英国流残りもの整理のメニューなのでした。表面に焦げ目がつくようにと、義母はフライ返しで上からギューギューと押さえつけながら焼いていきます。そのときに聞こえる音がこの料理名の「スクイーク」に当たると言われていますが、私にはかすかに「ぷすぷす、じゅーじゅー」と聞こえた気がした程度。ネイティブと日本人の耳では、料理する音の聞こえ方も違うのでしょうか。だとしたら、この料理が日本で考え出されていたら、別の名前がついていたのかも……。
歴史をたどると、1806年に出版されたマリア・ランデルの「A New System of Domestic Cookery」という本にバブル & スクイークが登場します。それは、スライスした牛肉を軽く炒めたものに、いったんゆでてから炒めたキャベツを載せるというもの(この「ゆでる」ときの音が「バブル」の由来らしい)。それが、配給制で食料が乏しくなった第二次大戦中に、肉の代わりにジャガイモを加えたメニューとして広く知られるようになったそうです。
残りもので作る料理とはいえ、今では離乳食用のバブル & スクイークも販売されています。人々が多忙な現代では、節約メニューですらレトルト食品の味で子供たちにその伝統が受け継がれていくものなのでしょうかね。
バブル & スクイーク -英国の節約料理
材料
- サラダ油 ... 大さじ1
- マッシュ・ポテト ... 適量
- 塩・胡椒 ... 適量
- ロースト・ディナーの付け合わせ野菜で残ったもの何でも(芽キャベツ、ブロッコリー、人参など) ... 適量
作り方
- 材料となる野菜をすべて細かくし、よく混ぜ合わせて塩・胡椒をする。
- フライパンを温め、油を全体にひく。
- ❶をフライパン全体に広げ、フライ返しで押し付けるよ うにして焼く。
- やや焦げ目がつくくらいの焼き加減になったらフライ返しで少しずつ裏返す。
- ❹を繰り返し、全体に良く火が通り、両面にこんがり焼き色がつけば出来上がり。
memo
サンデー・ローストを作った翌日(月曜)に作られることの多いこの料理。材料も分量もあるものに合わせて作ってください。それだけで食べても、コールド・ミートやイングリッシュ・ブレックファストの付け合わせにしてもおいしいです。また、ブラウン・ソースやチャツネなどを添えて食べるのもお勧めです。