ポーク・パイ
Pork pie
コロネーション・チキンをご紹介した本誌1458号でもお伝えした通り、今月12日はエリザベス女王90歳の誕生を祝うストリート・パーティーが行われますね。ある料理雑誌の記事で「ストリート・パーティーにお勧め」と紹介されていたのがポーク・パイ。英国人が大好きなこのパイは、スーパーではたいていスコッチ・エッグやソーセージ・ロールなどが売られている横に並んでいます。
私がポーク・パイの名前を初めて聞いたのは、意外にも日本で。でもそれは食べ物ではなく、友人の被っていた帽子の名前でした。普段からオシャレさんの彼は、帽子がトレードマーク。その彼が特に気に入ってよく被っていた帽子が「ポーク・パイ・ハット」という形だったのです。そんなことはすっかり忘れていたのですが、英国に来て半年後、当時通っていた学校の同級生のお弁当に入っていたのがポーク・パイ。お弁当にパイを持ってくるというのにまず驚いたのですが、それと同時に、ポーク・パイ・ハットという名前は英国料理からつけられたのだということをそのとき知ったのでした。
とはいえ、肉より魚を好む私としては、ポークがぎっしり詰まったこのパイに食指が動くことは長らくありませでした。ようやく勇気を出して口にしたのは、在英10年を過ぎたころ、友人と公園でピクニックをしたとき。友人がファーマーズ・マーケットで買ってきたというポーク・パイは、確かに「肉肉しい」味ではあったものの、しつこくはなく、塩・胡椒が利いていて、飲んでいたサイダーによく合いました。
ポーク・パイの発祥地は英国中部のレスターシャーにあるメルトン・モーブレー(Melton Mowbray)で、18世紀ごろから作られているそうです。ここが本家ということで「メルトン・モーブレー・ポーク・パイ」の呼称は、以前ご紹介したコーニッシュ・パスティと同様に、欧州連合(EU) のEU法が規定する原産地名称保護制度(PGI)により、2008年以降、保護されています。メルトン・モーブレー・ポーク・パイ協会によると、パイ皮は型を使わずに形成するのでパイの側面は真っすぐではなく、胴の部分がぷっくりと膨らんでいる。また、塩漬けなどの加工がされていない生肉を使用すること。肉は細かく刻むがひき肉ではないこと。肉とパイ生地との間にゼラチン(豚の骨からとったもの)が挟まれていること。といったことが本物のメルトン・モーブレー・ポーク・パイの条件だそうです。なお、パイ生地は熱湯とラードを混ぜた「ホット・ウォーター・クラスト・ペストリー」で、普通のパイ皮に比べると焼き上がりがかなり固めです。
そして何よりの特徴は、このパイは冷たいまま食べるということ。温かい方がおいしいに決まってる、と電子レンジで軽く温めてみたら、ポークの匂いが鼻につくのと、脂っぽくなってしまって大失敗。皆さんもご注意を。
簡単なんちゃってポーク・パイ(約6個分)
材料
- 豚ひき肉 ... 200g
- パンチェッタ ... 30g
- 玉ねぎ(小) ... 1個
- 市販のショートクラスト・ペストリー(シート状のもの) ... 1つ(約320g)
- 小麦粉 ... 適量
- 油 ... 適量
- 卵(溶いておく) ... 1個
- 塩・胡椒 ... 適量
- ドライセージ ... ひとつまみ
- ナツメグ ... ひとつまみ
作り方
- ボウルに豚ひき肉、パンチェッタ、みじん切り玉ねぎ、塩・胡椒、ドライセージ、ナツメグを入れてよく混ぜる。
- 6個分のマフィン型に油を塗り、各ベーキング・シートを敷く。
- 打ち粉をした台の上で2/3のショートクラスト・ペストリーを伸ばし、直径約10cmの丸型を使って6個分の丸い生地を抜く。
- ❸を❷の型に敷く。
- ❹の中に❶を入れる。
- 残りのペストリーを伸ばして直径約8cmの型で抜く。
- ❺のペストリーの周りに溶き卵を塗り、上から➏でふたをして、周囲を指で押してしっかりとくっつける。
- ❼のの表面に溶き卵を塗る。
- 200℃に予熱したオーブンで約30分焼く。
- オーブンから取り出し、型から外したパイを再度オーブンに入れて約7~8分焼く。
- 全体がきつね色になり、中の肉に火が通っていれば出来上がり。
memo
本物のポーク・パイを作るのはかなり大変なので、たいていの英国人は「ポーク・パイは手作りするのではなく買ってくるもの」と言います。ちなみに、レシピのなんちゃってパイは熱々がお勧めです。