スチームド・シロップ・スポンジ・プディング
Steamed Syrup Sponge Pudding
前回ご紹介したブラック・プディングは「プディング」とはいっても、お菓子ではなく血のソーセージでしたが、今回ご紹介する「スチームド· シロップ· スポンジ· プディング」は、れっきとしたデザート。名前から想像できるように、ふわふわに蒸されたスポンジ生地に、まったりとしたシロップがたっぷり染み込んだ甘~いお菓子。多くの英国人にとっては学校給食を思い出す、ポピュラーな食べ物です。
もともとは大きなお椀といった感じのプディング用の器(ベイスン)で作られるものですが、最近では食べやすいように、ラメキン(日本でいうプリン型のような器)で1人分ずつ作るのも好まれるようです。
見た目は素朴でシンプル。といえば聞こえはいいですが、きめの粗い黄色のスポンジ(ここでいうスポンジはお菓子ではなくて、食器などを洗うためのもの)の上部が水分を吸い込んで濡れている、といった風情。その素っ気ないビジュアルに、初めて見たときはびっくりするかもしれません。
でも、もしあなたが、英国のじめじめと暗く、長く続く冬に気持ちが沈みがちだったら、そのときこそ、このスチームド・シロップ・スポンジ・プディングを食べてみてください。
作っている途中からキッチンに広がる甘い香りを嗅ぐだけで、寒さで縮こまっていた肩や首がほぐれてくるように感じるはずです。そして、出来上がった熱々のふわふわスポンジを口に入れると……ほっこりとした温かさとこっくりとした甘さが、口から喉、お腹へと伝わって、食べ終わるころには「明けない夜はないし、春がやって来ない年はない。おいしいものを食べて、英国の冬を乗り切ろう」と、元気が出てくるはず(だといいのですが)。
味の決め手はゴールデン・シロップ。べっこう飴色をしたこの液体は、砂糖を精製する過程で出た廃液を商品化して、1881年からロンドンで売り出されたものです。以前ご紹介したフラップジャックやパーキンなどにも使われる、今や英国家庭でのベーキングには欠かせない存在。甘いのだけれど、のどにからみつくようなしつこさはなく、なぜか懐かしさを感じさせる味わいなのが、魅力です。
ところで、「スチームド」つまり蒸すタイプのプディングは、英国お得意の分野。以前ご紹介したスポティッド・ディックやクリスマス・プディングなど、たくさんの種類があります。それにしても、クリスマス・プディングは約8時間、今回のスポンジ· プディングでも約1時間半から2時間は蒸す必要があり、根気もいるし、ガス代もちょっと気になるところ。でも、かつての英国家庭ではストーブがあり、その上にずっとなべをかけておけば調理できるこうした料理は、効率的かつ経済的な面もあったのでしょう。あるいは、プディングを蒸しているお湯がぽこぽこと沸く音や、空気に伝わる蒸気のもたらすセラピー効果こそ、多くの蒸し料理が英国に誕生した本当の理由かもしれません(?)。
スチームド·シロップ·スポンジ·プディングの作り方
(1.2ℓのプディング容器1個分)
材料
- セルフ・レイジング· フラワー ... 175g
- バター ... 115g
- カスター・シュガー ... 115g
- 卵 ... 2個
- 牛乳 ... 適量
- ゴールデン・シロップ ... 大さじ5
作り方
- プディング容器の内側全体にバターを塗る(バターは材料の分量外)。
- ボウルに室温に戻したバターと砂糖を入れ、クリーム状になるまでハンド・ミキサーで混ぜる。
- ❷に溶き卵を少しずつ混ぜ入れる。
- ➌にセルフ・レイジング· フラワーを加え混ぜる。
- ❶にゴールデン・シロップ大さじ3杯分を入れ、その上から➍を流し込む。
- ➎の容器の上にクッキング・シートとアルミホイルを二重にして蓋をし、周りをたこ糸でしっかりと縛って固定する。
- お湯を張ったなべに➏を入れて1.5~2時間蒸す。途中で様子を見ながら、お湯が減ってきたら熱湯を足すのを忘れずに。
- 竹串を刺してみて、生地がついてこなければ蒸し上がり。
- お皿にひっくり返して、上から大さじ2杯分のゴールデン・シロップ(電子レンジで少し温めておく)をかけて出来上がり。好みでカスタードをかけて召し上がれ。
memo
マグカップの底にシロップやジャムを入れ、 上から生地を流し込み、電子レンジ(500〜600W)で2〜3分調理する簡単な方法もあります。時間のないときには便利です。