スポティッド・ディック
Spotted Dick
英国人は礼儀正しく丁寧というのが通説ですが、サッカーなどスポーツ観戦の折には、いわゆる「swear words」を叫ぶ人たちがたくさんいます(まれにそういう言葉を日常的に連発する人もいますが)。普段は温厚で礼儀正しいはずの我が夫もその例にもれず……。ひいきのセルティックが試合をしている時には、私はなるべく近付かないようにしています。ところがその夫、両親の前では、たとえテレビでサッカーを観ていても、絶対に下品な言葉を使いません。もちろん、義両親自身がswear wordsやスラングを使うのを聞いたこともありません(少なくとも私の前では)。
なので、先日このコラムについて話をしていた時、「マミ、ところでスポティッド・ディックはもう紹介したの?」という義母の言葉にぎょっとしてしまいました。
ご存知の方も多いと思いますが、「ディック(dick)」は男性に付帯する特定部位を差すスラングです。いくらお菓子の名前とはいえ、この言葉が義母の口から発せられたことにかなりの衝撃を受けた私。でも、そんな私の動揺にはおかまいなく、義母はこのお菓子について、子供のころにお母さんが作ってくれるととてもうれしかったことや、小学校の先生をしていた時代、学校給食にもこのメニューがよく登場していたことなどを、「スポティッド・ディック」の名を連呼しながら説明してくれるのです。おかげで義母とのスポティッド・ディック談義が終わるころには、これまであまり口にしたことのなかったこの単語を私もうまく発音できるようになりました(?)。
当然のことながら、この名前は色々とジョークや議論の的となってきました。2009年には、ウェールズの最北東部フリントシャーのカウンシルの食堂で、メニューにある「スポティッド・ディック」の名前を「スポティッド・リチャード」に変更する、という事態にまで発展し、BBC テレビがニュースで伝えるほどの騒ぎになったそうです(ちなみに「ディック」は「リチャード」の愛称です)。どうしてこんな名前が付けられたかの由来について、件のBBC ニュースでは「dough(パン生地)」がなまったもの、または「pudding」の最後の音節からきた、もしくは、ドイツ語の「dick(thickの意味)」からきたという説を紹介しています。
さて、肝心のスポティッド・ディックがどんな食べ物かについてですが、材料は小麦粉とスーイット(suet)と呼ばれる脂、砂糖、カランツ(小粒の干しぶどう)。それらに牛乳を加えてよく混ぜ合わせ、柔らかい生地になったものを蒸して作ります。カランツが斑点(はんてん)模様を描くので、「スポティッド(spotted)」という名前の前半部分にはすぐに納得がいくはずです。
卵すら使わないシンプルの極みのようなデザートですが、カスタードをたっぷりかけていただけば、お腹も心もほっこり。寒くて暗い英国の冬を乗りきる手助けになりますよ。
簡単スポティッド・ディック(6人分)
材料
- セルフ・レイジング・フラワー ... 225g
- スーイット (スーパーの製菓用品売り場で入手可。ATORAというブランドのものが一般的) ... 100g
- カスター・シュガー ... 80g
- カランツ ... 120g
- レモンの皮をすり下ろしたもの ... レモン1/2個分
- 牛乳 ... 200ml程度
作り方
- ボウルに牛乳以外の材料をすべて入れて混ぜる。
- 柔らかめの生地になるまで❶に牛乳を加える。
- 570ml容量のプディング型、または小ぶりのボウルなどにバターを塗り、❷を流し込む。
- ❸の器の上部に布かアルミホイルなどで蓋をし(ホイルの場合にはフォークで穴を開ける)、1時間半~2時間ほど蒸す。
- 蒸し上がったら器から出し、適当な大きさに切り分けていただく。カスタードを添えるのがお勧め。
memo
「ハリーポッターと炎のゴブレット」にも登場したスポティッド・ディック。元々は生地を筒状、またはロール・ケーキ状にして蒸したデザートですが、上記レシピのようにプディング型に入れれば、大きな蒸し器がなくても作れます。