ジャム・ターツ
Jam Tarts
「ターツ?」「ターツ!」「ターツ?」「イエス、ジャム・ターツ!」
ターツが日本語でいうところのタルトだというのを覚えたのは、友人のアリソンとこんなやり取りをした時でした。
もうずいぶん前のことですが、当時、アリソンの次男Aは小学校一年生で、その日、学校でジャム・ターツを作って帰ってきました。手のひらに収まるくらいの大きさのパイ生地に、イチゴ・ジャムの載ったお菓子。2つしかない貴重なそのタルトの一つをAが私にもくれるというので、なんだか申し訳ない気がします。でも、せっかくなので、ありがたくいただくことに。パイ生地はほろほろと口の中ですぐに崩れ、生地からこぼれ出ているほどたっぷり盛られたジャムのこってりした甘さと交ざります。皮の部分は甘くないものの、ジャムはかなり甘いので、やっぱり紅茶を飲まずにはいられません。アリソンがマグにたっぷり注いでくれたミルク・ティーを一口飲んで、「ソー、ラブリー。サンキュー」と言うと、「ユーアーウェルカム」と、Aはちょっと照れたような笑顔になりました。どうやら私が喜んで食べたことがうれしいようでした。
「ジャム・ターツは英国で幼い子供たちが最初に習うベイキング・メニューのひとつなのよ」。アリソンが教えてくれました。なるほど、Aにとっては生まれて初めてのベイキング体験だったから、私の反応が気になったのでしょう。
タルト生地の材料は小麦粉とバターとひとつまみの塩とほんの少しの水、そしてジャムというシンプルさですから、確かに、子供たちでも簡単に作れます。かつては、パイを作ったときに余った生地を使って、このジャム・ターツが作られていたといいます。
ちなみに、パイとターツ(タルト)の違いといえば、パイは、中身の上からパイ生地でふたをして焼き上げたもの、ターツはふたはなく、そのままの状態で焼き上げられたものをいいます。
ジャム・ターツは、フェアーズやフェイツと呼ばれる、英国内のローカル地域で開催されるフェスティバルやお祭りに登場するお菓子の定番として長く親しまれてきました。ドラマ「ダウントン・アビー」のレシピ本「ジ・オフィシャル・ダウントン・アビー・クックブック」では、ダウンステアーズ(使用人)の食べ物として紹介されています。著者のアニー・グレイさんは、ドラマの中で登場した村のイベントで、何度もこのお菓子が登場していると指摘しています。
ジャムはどんなジャムを使ってもよいので、色味の違うジャムをいくつか使ってみましょう。そうすれば、フェスティバルやパーティのテーブルをカラフルに彩ってくれます。
ジャム・ターツの作り方
(12個分)
材料
- 小麦粉...175g
- バター...85g
- 塩...ひとつまみ
- 水...適量
- ジャム(好みのもの)...適量(小さじ12杯分くらい)
作り方
- ボウルに小麦粉と塩を入れてよく混ぜ、さいの目に切ったバターを加えて、そぼろ状になるまで指先を使って混ぜる。
- ❶に大さじ3杯くらいの水を加えてこねる。水が足りなければ、様子を見て少しずつ加え、生地をまとめる。
- ❷をラップで包んで、冷蔵庫で30分ほど寝かす。
- 打ち粉をしたまな板の上に❸を置き、麺棒で1ポンド硬貨程度の厚さに伸ばす。
- ❹を直径9センチの型で抜く。
- ❺を12個用のタルト天板に敷き、中に小さじ1杯分程度のジャムを入れる。このとき、ジャムをたくさん入れすぎると、オーブンで焼いたときに生地からあふれてしまうので注意。
- 200℃に予熱したオーブンで15〜20分焼く。生地がきつね色になったら出来上がり。
memo
英国のお菓子のレシピ本にはよく登場しますが、カフェやティールームでこのお菓子を見ることはあまりないと思います。家庭で作られるシンプルで簡単な食べ物ですが、観光客が出合うのは難しいと言う意味では、貴重な英国菓子かもしれません。