Salary Exchange(Sacrifice)制度について
新税年度が始まりました。所得税率・所得バンド、被雇用者のNIC(国民保険料)は変更なしですが雇用者のNIC率は上がります。NICを節約する方法として年金のSalary Exchange(Sacrifice)制度が頻繁に利用されるようになっています。
Salary Exchange(Sacrifice)制度とは何ですか。
主に職場年金の拠出方法の一つで、社員のグロス給与を年金拠出額に相当する分だけ下げ、その分を会社が会社の年金として拠出する仕組みです。ボーナスをキャッシュで受け取る代わりに(全額もしくは部分的に)会社が年金として支払う場合はBonus Exchange(Sacrifice)といいます。年金拠出金の分給与が下がるので、社員はその分の所得税やNICの負担が軽減されます。雇用者もその分NICの節約になります。
Relief at Source(税額控除制度)とは違うのですか。
Relief at Sourceは給与から所得税やNICが引かれた後の手取り給与から年金を拠出する方法で、通常この制度が年金拠出に利用されています。年金拠出金には所得税額控除が適用されますので、実際の支払いはグロス拠出金の80%(20%の基礎税率差引後)で行われ、残りの20%が税額控除として年金会社から年金プランに追加されます。高税率や追加税率の方は年金拠出金額を税務申告で申請することによりさらに20%もしくは25%の税額控除受けることができます。
また、Salary Exchange (Sacrifice)制度のもう一つの特典は年金拠出金を税務申告に含めなくて良い点です。この制度では会社が年金拠出を行っており本人による拠出ではないからです。
Salary Exchange(Sacrifice)制度を具体的に説明してください。
例えばジョンさんの年収は2万ポンドで、ジョンさんとその雇用者が年1000ポンドずつ年金拠出をしているとします。この制度を利用すると、下記の表のようにその年収は1000ポンド下がり1万9000ポンドになり、その1000ポンドは雇用者による会社拠出金として扱われます。会社は拠出金1000ポンドの15%すなわち150ポンドの節約、ジョンさんは8%(80ポンド)のNICを節約できます。
Salary Exchange(Sacrifice)の例
Salary Exchange (Sacrifice)前 | Salary Exchange (Sacrifice)後 | |
---|---|---|
Salary | £20000 | £19000 |
John's Pension Contribution |
£1000 | £0 |
Employer's Pension Contribution |
£1000 | £2000 |
John's Income Tax Saving |
£200 | £200 |
John's National Insurance (NIC) Saving |
£0 | £80 |
NICとレートについて教えてください。
NICは国民年金や失業保険などの財源になっている国民保険料で、会社員は所得税同様毎月の給与から天引きされており、雇用者も社員のためにNICを払っています。16歳から国民年金受給年齢(現在66~68歳)まで勤労所得のある方は支払い義務があります。NIC率は所得に連動しています。簡潔にいうと、被雇用者は1万2570ポンドまではなし、1万2570ポンドから5万270ポンドの所得に対して8%、5万270ポンドを超えると2%が課されます。一方、雇用者は本税年度から5004ポンドを超える部分につき、所得の高さに限らず一律15%のNICを支払う必要があります。下記表を参照ください。
NIC ー 雇用者・従業員(Class 1)
年収 | 2024/25 | 2025/26 | |||
---|---|---|---|---|---|
雇用者 | 被雇用者 | 雇用者 | 被雇用者 | ||
To primary threshold (PT) | Below £12570 |
See below |
0% | See below | 0% |
Secondary Threshold (ST)or above | From £9096 (2024/25) From £5004 (2025/26) | 13.8% | 0% | 15% | 0% |
From PT to Upper Earnings Limit(UEL) | £12570~ £50270 | 13.8% | 8% | 15% | 8% |
Above UEL | £12570~ £50270 | 13.8% | 2% | 15% | 2% |
日本企業の財務で働いています。この制度は会社のNIC節約にぴったりですね。
はい、とても人気のある制度で多くの会社が採用しています。この制度を奨励するため雇用者のNIC節約分の半分などを社員へ年金拠出金として還元する場合もあります。ただし、社員の給与が減額となるため、雇用契約の変更となることに留意が必要です。ご検討は専門家や弁護士にご相談なさることを強くお勧めいたします。
被雇用者にとって不利になる点は何ですか。
給与の減額となりますので、住宅ローンなどのローン借入金額が減額される可能性があります。また給与ベースで計算される産休や病欠などの給付金が減額になったり、解雇手当が減額になるかもしれません。まずはこれらのベネフィットに関する会社のポリシーを確認してみましょう。
Bonus Exchange(Sacrifice)制度を説明してください。
例えば年収が5万5000ポンドの方がボーナス1万ポンドを受領するとします。キャッシュで受け取ると、40%の所得税と2%のNICの合計4200ポンドが差し引かれるので、手取りは5800ポンドとなります。一方、Bonus Exchange (Sacrifice)制度を利用しますと4200ポンドが節約され年金が1万ポンド増えることになります。
当コラムは2025年4月時点の法制と税制に基づき一般的なガイダンスのために作成されており、皆様のご理解を深めるために内容を簡素化してある場合もあります。専門家の助言なしに記載情報にのみ基づき行動することはお控えください。その場合、筆者は一切責任を負いません。投資助言を含まない税務助言はFCAに規制されていません。
※ 次回のマネー教室は2025年8月21日号に掲載致します。本コラムのバックナンバーはこちらからご覧ください