ニュースダイジェストの制作業務
Sun, 28 November 2021

小林恭子の
英国メディアを読み解く

小林恭子小林恭子 Ginko Kobayashi 在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に「英国メディア史」(中央公論新社)、共著に「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社)など。

アフガニスタン混迷、国外脱出を目指す人々英国との関係とは - イスラム主義組織タリバンが新政府樹立へ

アフガニスタン・カブール空港に集まった、多数の男性、女性、子どもたち。何とかして飛行機に乗り、国外に出ようとする人々の姿は、英国に住む私たちの胸に迫るものがありました。生まれ育った祖国を逃げるように脱出するほどの深い理由とは何かと考えざるを得ません。

きっかけは、今年春以降、駐留米軍や北大西洋条約機構(NATO)加盟各国の連合軍が段階的に撤退し始めたことでした。反政府勢力タリバンが大規模な軍事作戦を展開し、主要都市を驚異的な速度で制圧していきました。8月15日には首都カブールに侵攻し、アシュラフ・ガニ大統領は国外逃亡。アフガン政府は崩壊し、タリバンが実権を掌握することになりました。イスラム原理主義を掲げるタリバンは2001年までアフガニスタンを支配下に置き、女性の権利侵害や公開処刑など人権侵害に当たる恐怖政治を行いました。そんな政権の再来を恐れ、祖国からの退去を目指す人々が空港に駆け付けたのです。米軍の完全撤収の日は8月31日でした。

英国とアフガニスタンの関係は19世紀にさかのぼります。インドを植民地化していた英国は、ロシアの南下をインドへの脅威と見なし、防壁としてのアフガニスタンの征服を目指して1838~42年、1878~80年の2度にわたり出兵しました。いずれも軍事的に敗北しましたが、1880年に保護国化。アフガニスタンが英国から独立したのは1919年です。

両国の歴史がまた密接に絡み合うようになったのは、2001年9月11日に発生した米同時多発テロが原因です。同年10月、テロの首謀者オサマ・ビンラディンと、ビンラディンが創設したイスラム主義組織アルカイダ撲滅のため、英国は米国とともにタリバン政権下のアフガニスタンに侵攻しました。多国籍軍による国際治安支援部隊(ISAF)の枠組み内で、ピーク時には9500人を派遣。過去20年で延べ15万人強が出兵し、457人が戦死しています。14年には戦闘部隊としての参加を終え、15年以降はISAFを引き継いだNATOの指揮の下、現地の軍隊・治安隊の研修を担当してきました。今年1月時点で約1100人が駐留していましたが、米軍撤退に伴い、英軍も撤収することになりました。

米軍の撤退は、2020年2月、ドナルド・トランプ米前大統領がタリバンと調印した和平合意に基づいています。タリバンはアフガン国土を国際テロ組織の活動拠点として使わせないことを約束し、見返りに米国は今年5月1日までに米軍を全面撤収することになりました。撤収期限は後に8月31日に変更されたのですが。合意は民主的に選ばれたアフガン政府の頭越しで決まりました。タリバンとアフガン政府との和平交渉開始も合意条件に含まれていましたが、結果が出ずじまいでした。

国外脱出を試みるアフガン市民の混乱ぶりが報道されるなか、同26日には空港近くで爆破事件が発生し、200人以上の死傷者が出ました。過激派組織「イスラム国」が犯行を認めています。

英上院の調査報告書「英国とアフガニスタン」(今年1月)は、アフガニスタンを政府の支配範囲が限定的で、タリバンによる武装攻撃やテロ組織による活発な活動が続く「非常に不安定な国家」と位置付けています。国家収入の大部分を海外援助に依存するために政府の国民に対する説明責任が希少で、汚職もはびこり、政府官僚やアフガン国軍による汚職や暴力行為は免責になりがちだそうです。またアフガニスタンは世界でも最大級のヘロイン生産国で、英国で消費される95%のヘロインはアフガニスタン産となっています。豊富な鉱物資源を持ちながらも、治安の悪さ、不十分な司法制度、組織力の欠如、汚職などのためにこれを十分に活用できず、アフガン市民は貧しい生活を続けています。英政府は約2万人のアフガン難民を受け入れ予定ですが、国外に出たくても出られなかった人はどうなるのか懸念が広がるばかりです。

キーワード

Taliban(タリバン)

アフガニスタンで活動する、イスラム教・スンニ派過激組織。名称はパシュト語で「神学生たち」の意味。1994年、設立。1979~89年のソ連によるアフガニスタン侵攻に抵抗した「ムジャヒディン」(イスラム・ゲリラ組織の戦士)によって形成された。96年からアフガニスタンを実効支配し、厳格なイスラム法を適用した。2001年、米英軍から攻撃を受け、政権崩壊。21年、新政府樹立に向かう。

 
  • Facebook

グリーティングカード制作 プリペイドSIMカード - Japan Travel SIM
athletia
バナー バナー バナー バナー

英国ニュースダイジェストを応援する

定期購読 寄付
コロナに負けるな!応援フェア
ロンドン・レストランガイド
ブログ