いまや、すっかりロンドンの顔となった新名所「ガーキン」。高さ180メートルの奇怪な建物は、英国を代表する建築家ロード・ノーマン・フォスターによるもの。金融街シティにそそり立つ勇姿は、時に「エロティック・ガーキン」と揶揄されるが、その知名度からか、不動産価値はもっか鰻上りである。
ハイテクから流線型への変遷
英国ハイテク建築界の重鎮の一人であるフォスター。だが近年はハイテク建築の進化系として、地球環境に配慮したエネルギー効率の高い建築を提唱している。例えばガーキンでも実践されて いる、表面積を小さくする曲面ガラスを多用する手法。2重、3重に重ねられたガラス面は断熱効果が期待でき、空気の対流を促すアトリウムを作るなどして、空調負荷の低減に、空間的にも対応している。また、テムズ河ほとりに建つロンドン市庁舎GLAで採用されている、南側に少しづつ床が迫り出すデザインは、屋内への直射日光の進入を和らげる効果があるそうだ。
だが、省エネ・ビルと謳われた市庁舎の光熱費は、実際は従来の建物より割高となり物議を醸している。ガラスには、室内で上昇した熱を蓄積するという特徴があるため、空調負荷が増加するのは避けがたいのだ。全面総ガラス貼の建物と省エネ建築というのは、理論的に繋がりにくい。もちろん、自然光を存分に取り入れることが出来るため、照明負荷は抑えることが出来る。
フォスター王国
フォスターの出世作と言えば、1985年に完成した香港上海銀行本社ビル(香港島)だ。スーパーストラクチャーの架構システムから吊り下げられたオフィス空間は、機械的な力強さを見せて、英国ハイテク建築の実力と存在感を世界中に知らしめた。
その後、フォスターという一個人の名を冠する設計事務所としては超人的な所員数を誇るまでに拡大し、現在では総勢800人以上の巨大事務所に成長。その資産価値は1000億円強とも言われ、本拠地はテムズ河南岸のバタシー公園に隣接している。9月に開催されるロンドン・オープン・ハウスの頃には一般公開されるので、興味のある方は、一度、訪れてみるのもいいだろう。
スイス・リー
世界最大級の再保険会社「スイス・リー」のロンドン本社ビルでもあるガーキン。以前この場所に建っていたロンドン海運集会所が1992年のIRAの爆弾テロにより激しく損傷し、紆余曲折を経て、フォスターが設計を受注することになった。近隣の建物への影響を最小限とするため、建物が地上に接するところでは、平面が少し窄んでいる。また、各階に設置されたドリル刃のような軌跡を描く6つのシャフトは風の通り道となり、ビジネスマンの憩いの場・アトリウムとしても機能している。
構造システムは軽快で、外壁を構成する骨組と中心にあるコア(エレベーターや階段)が全荷重を支えるため、無柱のオフィス空間が各階に作られている。そして圧巻なのは、ロンドン市内を360度一望出来る、無柱で広々とした最上階の社員用ラウンジだろう。知名度抜群のこの建物は、2004年の完成から3年あまりで不動産価値が2倍以上に高騰し、2007年にドイツの不動産投資会社に6億ポンド(1200億円強)で売却されている。
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