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Mon, 09 December 2024

「The Financial Times」紙って、
一体どんな新聞なの? - 小林恭子

第11回 「攻め」が得意なバーバー編集長

バーバー編集長
FTが日経の傘下に入ったことを記事に書いたバーバー編集長(ウェブサイトより)

昨年11月、「フィナンシャル・タイムズ」紙(FT)のライオネル・バーバー編集長が
ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで講演をすると聞き、早速、筆者は会場に駆け付けてみました。

一番前の真ん中の席に座って待っていると、スーツ姿で細身の男性が舞台の中央にやって来ました。短めのクルー・カットにクリッとした丸い目を持つバーバー編集長です。冒頭の言葉は「こんばんは」。何と、日本語でした! 日本経済新聞社がFTグループを正式に買収したのは年末でしたが、既に誰もが日本企業がFTを買うことを知っており、そこで日本語のあいさつとなったようです。予想外の言葉に、会場から笑い声がわき起こりました。すると、編集長は私に向かって親指を突き出しました。「OK?」と聞いてきます。「この発音でいいんですよね?」と。私は人差し指と親指で丸を作って、「OK」のジェスチャーを返しました。思いがけずジェスチャー交信(?)をしてしまったバーバー編集長の話に、この後すっと入っていけたのは言うまでもありません。

約600人のジャーナリストを抱えるFTの編集部を統括するのがバーバー氏です。父親もジャーナリストで、新聞が常に家の中にあったそう。南ロンドンのパブリック・スクール、ダリッジ・カレッジからオックスフォード大学に進学し、専攻はドイツ語と現代史でした。

新聞記者としてのキャリアは、スコットランドの有力紙「ザ・スコッツマン」から始まっています。英国プレス・アワードで最優秀若手記者賞を獲得した後、日曜紙「サンデー・タイムズ」に転職。FTで働き出したのは1985年でした。ワシントン特派員、米国版編集長、ブリュッセル支局長などを経て、2005年に編集長になる直前は、ニューヨークで米国版の統括編集長を務めました。

フランス語、ドイツ語、ロシア語に堪能で、FTのウェブサイトの動画で司会役をこなすばかりか、英国内外のメディア取材にも頻繁に登場する、「FTの顔」です。

これまでにロイター通信(現トムソン・ロイター)の株売却についての本(「真実の価格(原題)」、1985年)や政治スキャンダルを扱った本(「名誉ではなく(原題)」、1986年)を上梓しています。

バーバー氏が編集長に就任してから最も力を入れてきたのが電子版の強化です。FTの電子化戦略については次回のコラムで詳しくお伝えしますが、FTはデジタル化への移行において最も成功した新聞と言われています。この動きを先導したのがバーバー編集長でした。

先の講演の中で編集長は学生時代、ラグビーの選手だったと言いました。攻撃の組み立ての中心となる選手の一人だったそうです。「私は守ることよりも、攻撃の方が得意だ」。紙の新聞が売れなくなったと言って嘆いてばかりいるのではなく、電子化を自ら主導して今のFTを築いたという自負が現われた言葉であるように思いました。

ラグビーのほかに好きなことは何でしょう? 編集長のツイッター(@lionelbarber)によれば、サイクリング、クリケット、オペラ鑑賞に加え、ロンドンのトッテナムに拠点を置くサッカーのトッテナム・ホットスパーの大ファンとありました。

次回はFTの電子化成功の秘密を取り上げましょう。

 

小林恭子小林恭子 Ginko Kobayashi
フィナンシャル・タイムズの実力在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に「英国メディア史」(中央公論新社)、共著に「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社) など。

「フィナンシャル・タイムズの実力」(洋泉社)
日本経済新聞社が1600億円で巨額買収した「フィナンシャル・タイムズ(FT)」とはどんな新聞なのか? いち早くデジタル版を成功させたFTの戦略とは? 目まぐるしい再編が進むメディアの新潮流を読み解く。本連載で触れた内容に加えて、FTに関するあらゆることが分かりやすく解説されている一冊。

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