第14回 サムライ・フットボーラーの挑戦
終盤を迎えたサッカーのイングランド・プレミア・リーグ。吉田麻也選手はサウサンプトンのセンターバックとして活躍、ポチェッティーノ監督の信頼も厚い。マンチェスター・ユナイテッド(マンU)の香川真司選手も今季、ハットトリックを決めるなど、世界最高峰リーグのプレミアで「サムライ」の活躍が目立つ。
ボールさばきのうまさ、勤勉さなど日本選手の長所が評価される一方で、相手を背負ったプレー、ボールを持っていないときの動き(オフ・ザ・ボール)、戦術理解、前線からの守備など、世界との差も浮き彫りになっている。
2007年にロンドン特派員として赴任するまで、実は4年間、東京で小学生サッカーのコーチをしていた。子供に交じって練習するうち、リフティングが500回以上連続でできるようになった。日本にとってワールド・カップ(W杯)はひと昔前まで見果てぬ夢だった。W杯出場が当たり前になったのは、ひとえに日本サッカー協会(JFA)が少年サッカーの普及に努めたおかげである。
「日本選手は世界に比べてボールさばきが下手」というイメージを強く持っている我々の世代には「小学生のころはとにかくパスよりドリブル練習」という信仰がある。リフティングやドリブルのテクニックがサッカーの基礎をつくると思い込んできた。そう、ブラジルの天才ロナウジーニョ、マンUの香川選手のようなプレーヤーが子供たち、そして子供に夢を託すコーチのあこがれだったのだ。しかし、サッカーの本場・英国にやってきて、「サッカー」と「フットボール」の違いに気付き始めた。
世界に通用するサムライ・フットボーラーを育てようと、日系チームとしては初めてイングランド・リーグに参戦するチームがあると聞いて、練習場のノース・アクトン・プレイング・フィールドを訪れた。3月下旬にスタートした「フットボール・サムライ・アカデミー」(www.footsamurai.com/ja) だ。チェルシー、マンU、バルセロナなどカラフルなユニフォームを身に着けたチビっ子サムライが、芝生の上で元気に走り回っていた。転んでも鼻血を出しても笑顔満開。まだ、肌寒かったものの、春の日差しが心地良い。
U8-12(7~11歳)の部では、イングランド・サッカー協会(FA)レベル2のクラブコーチ・ライセンスを持つ宮原継享(ひでゆき)監督(32)が攻撃陣4人対守備陣2人(4対2)のボール回し、2対2のシュート練習を指導していた。ボールさばきは正直言って、体育館のフロアのような運動場や人工芝で練習している日本人の子供たちの方がはるかにうまいと思った。しかし、目を見張らされたのが4対2、2対2の練習、ミニゲームでの動きである。
U8-12で、集中力、敵の動きの把握、味方との連携が求められる4対2や2対2の練習は難しい。それが宮原監督の分かりやすい指導を受けながら、子供たちはみるみるうちに自分なりの戦術を編み出し、状況を打開していくのだ。ロンドンでフットボールを覚えた子供たちはクレバーで頼もしく見えた。でこぼこした芝の上では、曲芸のようなドリブルやフェイントより、相手の逆を取る動き、裏に出す素早いパスが生きてくる。「技」よりも、判断や動き出しの「速さ」が決め手なのだ。そのためには子供たちが主役の練習を徹底し、ほめて自主性を伸ばすことが大切になってくる。
浦和レッズユースで主将を務め、日本クラブユース選手権で準優勝2回を経験した大場康弘ヘッドコーチ(27)は「オフ・ザ・ボールの動きで、ボールを持ったときにできるプレーの8割が決まる」と、子供のころから戦術理解を深める大切さを強調する。
日本で問題になっている体罰についてどう思うか質問してみた。宮原監督は「英国では許されない行為です。世界の子供はたたかれなくても成長しているのに、どうして日本ではたたかれなくては育たないのか」と疑問を投げ掛ける。
チビっ子サムライは9月から、500チーム以上が参加する英国最大級のハロー・ユース・リーグに参戦する。「ヒデ・コーチ(宮原監督)のサッカーは熱いと聞いて参加しました」と三村虎太郎君(10)。青木雅樹君(10)は「リーグ優勝を目指します」と息を弾ませた。
< 前 | 次 > |
---|