第4回 “偉いのはシェイクスピアだけじゃない”
シティのギルドホール(市庁舎)の裏手には、奇麗な花に囲まれた小さな公園があります。もともとは、中世から存在した教会(聖メアリ・オールダーマンベリー教会)でしたが、ナチス・ドイツの空爆で破壊され、公園になりました。中央にシェイクスピアの胸像がありますが、実はこれ、彼の劇団仲間のヘンリー・コンデルとジョン・ヘミングスに捧げられたメモリアルです。2人ともこの教区の会員で、死後は同教会に埋葬されました。
ギルドホールの裏手の公園にある
ヘンリーとジョンへのメモリアル
1616年にシェイクスピアが亡くなったとき、大変なことが判明しました。彼のすべての台本が印刷されていたわけではなかったのです。当時は、教会当局とシティの印刷出版ギルドだけが印刷術を独占していて、演劇の台本が印刷されるのは極めて稀でした。また、当時の戯曲の著作権は本人ではなく、劇団にありましたから、劇団が印刷して残しておかなければ、シェイクスピアの幾つかの作品も、この世から消え去る運命にありました。
それに気付いたヘンリーとジョンは、劇団仲間が集まって劇を演じるたびに「今、何て言ったの?」と尋ねてはその台詞を一つひとつ書き留めていきました。そうやってシェイクスピアの36*の全戯曲を集めて出版されたのが「ファースト・フォリオ」(1623年)というわけです。それから400年近くが過ぎた現代の私たちが、いまだ彼の作品を楽しめるのも、この2人の努力のお蔭。やはり、持つべきものは友ですね。
1403年に組織された出版印刷ギルドには
すべての印刷物の登録が義務付けられ、
著作権の発祥となった
ところで、ここシティでガイドをしていますと、ときどき、馬のいななきが聞こえたり、「田舎の香水」(意味、分かります? すみません、死語を……)が漂ってきたりします。金融街のど真ん中に一体何が起きたのかと思うのですが、これ、隣接するシティ・オブ・ロンドン警察本部の、騎馬警官隊の厩舎があるせいです。現在、9頭のお馬ちゃんが毎日のパトロールを中心に勤務されているそうです。
シティは、33のバラ(郡)から構成されるグレーター・ロンドンからは独立した市長、独立した議会、独立した警察を有している、特別な郡です。シティの夜間人口は8000人程度なのに、シティ警官は800人。ほとんどが金融犯罪の専門家だそうです。そのせいかどうか分かりませんが、シティ警察は金色バッヂ着用で、ロンドン警視庁の銀色バッヂと対照的です。シティが安全なのも、彼らのお蔭ですね。
「Police Forces」かと思いきや
「Police Horses」
(シティ警察の馬輸送車)
シティ警察官の制帽。やはり金色バッヂ