第49回 自然に優しい、エコなガス燈
先日、経済産業省の方からシティの街路灯はLED(発光ダイオード)化が進んでいるか、というご照会を受けました。シティの街路灯数は約1万4000基(ロンドン全体で約50万基)あります。シティが管理するタワー・ブリッジで1800個の電球と2キロの線状光源がLED化されたときほどの派手さはありませんが、着実に街路灯のLED化が進んでおり、気が付けば「霧の都」を照らすオレンジ色の街路灯がどんどん白く明るく変わっています。
明るくなったなと思って見上げればLED照明
タワー・ブリッジは女王戴冠60年とロンドン五輪を記念して2012年にLED化
街路灯の設置が世界で初めて義務化されたのは、1416年のシティと言われます。月の出ない晩には通りに面した家の窓を蝋燭(ろうそく)か提灯で照らせ、というものです。シティ中央にキャノン・ストリートがありますが、この名は蝋燭職人が近くに大勢住んでいたので、蝋燭の芯=キャンドル・ウィックに由来します。獣脂蝋燭ギルドが今も付近にあり、彼らは当時、蝋燭や油灯を作るだけでなく、街路灯を点消する業務も任されていました。
キャノン・ストリート駅のそばにある獣脂蝋燭ギルド
ところが19世紀初頭、ガス燈が実用化されたために、街路灯が大きく変わります。英国では石炭が豊富に採れましたし、蝋燭や油灯に比べて格段に明るいガス燈は、瞬く間に全国に普及し、ガス管が縦横無尽に地中へ埋められていきました。後に電燈会社が誕生しますが、ガス会社との公平な競争が保たれるよう、1882年の電燈法で電線も地中に埋めることが法令化され、その結果としてロンドンは電信柱の見当たらない街になったわけです。
驚くことに、現在でも1500基のガス燈がロンドンで、その内の約1割がシティで現役活動をしています。かつては「点消夫」という専門人が点火棒を持ち、夕方になればガス燈に灯を点け、朝方に消していましたが、今では時計仕掛けが半分、残りは電気タイマーによる自動設定です。でも、時計仕掛けは2週間ごとにネジの巻き戻し、電気タイマーは半年ごとに電池交換が必要なので、ガス会社の職員が毎晩、バイクで巡回しているそうです。
シティ・ギルドホールのガス燈はよく見ると電池タイマー式
冒頭の話に戻り、環境に優しい街路灯のLED化が全国で進められているわけですが、24時間、点灯したままのガス燈がロンドンに一つだけ残っています。え、そんな資源の無駄遣いをって? いやいや、これが実はとてもエコなのです。サヴォイ・ホテルの南西側の坂道に柔らかい光を発するガス燈があります。これは付近の下水道に溜まったメタン・ガスを吸い上げて燃やされており、「IronLily(鉄のユリ)」という優雅なニックネームで市民に親しまれています。
エコなガス燈はカーティング・レーン、
別名「ファーティング(おならする)・レーン」にある