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Mon, 30 December 2024

第62回 モリノーの地球儀とグローブ座

シティのギルドホール近く、かつてアトラス保険の本社だった建物の入口にはアトラスの像があり、苦しそうに天空を担いでいます。ギリシャ神話では、戦いに敗れたアトラスが天空を担ぐ役目を負わされる一方、知恵があり、力もあるヘラクレスは楽々と地球を担ぐだけでなく、アトラスを出し抜いて黄金の林檎を入手します。地球を担ぐヘラクレスを劇団の旗に描き、屋根先にそれを掲げていたのがシェイクスピアのグローブ座です。

アトラス
アトラスの表情は悲痛

グローブ座の命名は、実は、英国で初めて作られた地球儀と関係しているように思われます。現存する世界最古の地球儀は15世紀の終わりに作られたものですが、地図としては不正確でした。その後のコロンブスの新大陸発見やマゼラン艦隊の世界一周を経て地図の精度が向上しますが、最大の改善は1580年にフランシス・ドレイクが英国人初(世界で2番目)の世界一周を成し遂げてからです。彼は測量の専門家を随行させていました。

モリノーの地球儀
モリノーの地球儀(ミドル・テンプル所蔵)

その測量者の名はエメリー・モリノー。彼は1592年、英国初の地球儀と天球儀を作ります。さらに数学者のエドワード・ライトがモリノーの地球儀とメルカトル図法を応用して「ライト & モリノー地図」を発表。優れた航海には正確な地図が必要というわけで、英国が世界の海に駆け出すには、こうした科学者の裏付けがあってのこと。献上された地球儀に喜んだエリザベス1世は、自らの肖像画の脇に地球儀を描かせ、植民地だった新大陸に手を置きました。

エリザベス1世
エリザベス1世の右手は新大陸に

植民地建設が進むころ、シェイクスピアの作品に「グローブ」や「アメリカ」という単語が登場します(1594年「間違いの喜劇」など)。ドレイクを始め、ウォルター・ローリーやマーティン・フロビシャーらの海賊が女王に招かれ、海外戦略を練り、宴を楽しんだ場所がシティのミドル・テンプル・ホール。玄関口にドレイク船長の船の提灯が灯ります。ここでシェイクスピアの「十二夜」が初演され、台詞に「ライト & モリノー地図」が暗示されました。

ミドル・テンプル・ホール
ミドル・テンプル・ホールにはドレイク船長の船の提灯が

現在、モリノーの地球儀は6個残っていますが、その一つがミドル・テンプルに保管されています。王族・貴族と海賊がここで植民地の戦略会議をするにしても、宴や演劇を楽しむにしても、その中心には地球儀が置かれていたに違いありません。1599年、シェイクスピアの新劇場の名前がグローブ座と名付けられたのも、元来、球体の意味だった「グローブ」が地球の意味に転じ、流行に敏感な劇団がその人気にあやかったからでしょう。

グローブ座
現在のグローブ座

 

シティ公認ガイド 寅七

シティ公認ガイド 寅七
『シティを歩けば世界がみえる』を訴え、平日・銀行マン、週末・ガイドをしているうち、シティ・ドラゴンの模様がお腹に出来てしまった寅年7月生まれのトラ猫


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