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Sat, 23 November 2024

第108回「巨大な蒸気船とロンドンの地下鉄」

2ポンド硬貨の話が長らく続きましたので、今回で一時中断したいと思います。その有終の美を飾るのは2006年発行、設計技師イザムバード・ブルネルの生誕200年記念の硬貨。これまで彼がフナクイムシの生態をヒントにシールド工法でテムズ・トンネルを開通させたり(第28回)、彼が造った美しい橋やグレート・ウェスタン鉄道(第96回)をご紹介しましたが、今回は彼の設計した巨大な蒸気船と鉄道の広軌――広い線路のお話です。

ブルネルの硬貨
2006年発行のブルネルの硬貨

ロンドンとブリストルを結ぶグレート・ウェスタン鉄道を敷設したブルネルは、ブリストル港と米ニューヨーク港の航路に大型蒸気船グレート・ウェスタン号とグレート・ブリテン号を就航させました。更に容積が約6倍、全長200メートルを超える巨大な蒸気船グレート・イースタン号を設計。当時、豪州で大きな金鉱脈が発見されて長距離航路の需要が高まり、巨船ならば石炭をたくさん積載できるため、途中で燃料を補給する不要のない直行便を考えたのです。

グレート・イースタン号
1858年1月31日、進水を待つグレート・イースタン号

ところが、建造費用がかさんで試運転では事故を起こし、過労で入院していたブルネルは良い知らせを聞かないまま永眠、会社も倒産します。またこのころ、スエズ運河の工事が始まり、運河を通過できない大型船は喜望峰経由の遠回り航路しか利用できず、将来性がなくなりました。結局、海底ケーブル敷設船として利用された後に解体。環境の変化に適応して巨大化した恐竜がその後の激変に対応しきれず、絶滅した例を思い出させます。

>グレート・ウェスタン鉄道とブルネル
グレート・ウェスタン鉄道とブルネル

一方、ブルネルのグレート・ウェスタン鉄道は蒸気機関車の大型化・高速化を図って線路の軌間に当時普及していた標準軌(1435ミリ)ではなく、広軌(2140ミリ) を採用しました。ところが後に鉄道網が発達すると相互乗り入れができず大問題に。結局、鉄道会社が合併すると標準軌に統一されました。

軍艦メアリー・ローズ号
20世紀に作られた地下鉄はトンネルも車両も小さい

実は19世紀後半に開通した地下鉄メトロポリタン線やハマースミス & シティ線、サークル線、ディストリクト線も当初は広軌を採用していたのです。でも、蒸気機関から電化された地下鉄で標準軌が普及し、ロンドン地下鉄も標準軌に統一されました。困ったのがトンネル。線路の軌間を狭くすることはできてもトンネルは簡単に変えられません。標準軌を基に作られたトンネルは狭く、車両も小さい。19世紀に開通した地下鉄の車両が大きく空調装置も付いているのに、20世紀にできた地下鉄は小さく冷房がありません。古い方が快適なのは、ブルネルのお陰。

メトロポリタン線、ピカデリー線
左は19世紀開通のメトロポリタン線、右は20世紀開通のピカデリー線

 

シティ公認ガイド 寅七

シティ公認ガイド 寅七
『シティを歩けば世界がみえる』を訴え、平日・銀行マン、週末・ガイドをしているうち、シティ・ドラゴンの模様がお腹に出来てしまった寅年7月生まれのトラ猫


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