第188回 カプチーノとポシャるの語源
ロンドン中心部セント・ジェームズ通りにある1676年創業の「ジェームス・ロック」は現存する世界最古の帽子店といわれます。この店は19世紀半ばにボウラー・ハット(山高帽)を初めて販売したことでも有名です。また、トップ・ハット(シルク・ハット)は1797年1月15日に小間物商のジョン・ヘザリントンがロンドンで初めて披露した際、その奇抜なデザインで周囲を混乱させたそうです。1月15日が米国の「帽子の日」となったのもその逸話に由来するとか。
最古の帽子屋「ジェームス・ロック」
帽子の総称はハットですが、ブリム(つば)が周囲にない場合にキャップ、あればハットを使うと中学時代に習った記憶があります。ただ実はどちらの単語も欧印祖語のCaput(頭)から派生しているそうです。英語はケルト語、ラテン語、ゲルマン語などから多くの単語を借用しており、キャップはラテン語から、ハットはゲルマン語から派生しているそうで、そこには外見上だけでなく歴史的な意味の違いがあります。
ブリムが周囲にあるのがハット
ラテン語由来の英単語はかつてローマ帝国の母国語だったためか、上流階級や聖職者の用語に多く残っています。キャップ=頭の意味から首都Capital、班長Captainのほか、礼拝堂Capella や簡素化された教会音楽のA Capella、修道士の着るマントCappa(日本語の合羽と同じ)が生まれました。また、Capuccio(頭巾、フード)の付いたカプチン会修道士の服が茶色のところから、コーヒーのカプチーノが命名されたと言われます。
ブリムが周囲にないのがキャップ
一方のゲルマン語由来の英単語はローマ帝国を戦争で倒したゲルマン民族の言葉でしたから、戦闘の用語や兵士の使っていた言葉に多く残っています。To throw a hat in the ring=競争に加わる、To take off my hat=脱帽する、To wear two hats=二足の草鞋を履く、などがあり、ハットは自分の存在や役割、責任を示すための機能や道具と考えられているようです。
カプチン会の修道服
ちなみに日本では古くから冠や頭巾、烏帽子(えぼし)がありましたが、西洋の帽子が流行したのは明治時代です。文明開化の際、特に1871年の散髪脱刀令でまげが禁止されると、頭髪のない頭上を隠すために山高帽をかぶることが流行しました。なお、帽子はフランス語でシャポーといいますが、何か失敗したときは脱帽して帽子を逆さまに置きます。この逆さまのシャポーから「ポシャる」=ダメになる、という用語が生まれたそうです。
まげを切り、帽子をかぶった日本人
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