第201回 リージェンツ運河のお散歩
リージェンツ運河はロンドン北西部と英国第二の都市バーミンガムを結ぶグランド・ユニオン運河の支線として、パディントンとライムハウスを結び、1820年に開通しました。ジョージ4世の摂政時代に作られたのでリージェンツ運河と名付けられました。ライムハウスは大型船が停泊するロンドン・ドック群に通じていますので、この運河は英北西部の工業原料をロンドン各地に運び、そこで製品化されたものを輸出する大事な経路でした。
かつて馬が舟を曳いたトゥパスが散歩道に
運河沿いの歩道はかつて馬が舟を引いたトゥパス(towpath)です。トゥとは舟を引くこと、パスは小道のことで、馬が一歩一歩踏み固めてきた血と汗と涙の結晶です。リージェンツ運河が西から東にゆっくり流れるように、トゥパスもなだらかに東側に下っていきます。ロンドンのトポグラフィー(地勢図)を見れば、テムズ川流域の低地を挟んで西高東低、北高南低が一目瞭然ですので、そんな地勢図を片手に散歩するとさらに面白いです。
ロックの門を閉じて下流側の門から排水して水位を揃える
運河を歩いてすぐ目に付くのは、高低の差の大きい水面で舟を昇降させ、エレベーターのような役割を果たすロック(閘門 こうもん)です。全長14キロにも満たないリージェンツ運河にも土地の高低と水位差があるので、13個のロックが設置されています。ロックは水位を調整する場所ですから、ロックに注目しながら西から東に運河沿いを歩けば、ロンドンの西部が高く、東部が低いことがよく分かります。西部は高台で平らなお屋敷街、東部は窪地や低地にある工場群と労働者の街というわけです。
スロープの下はカムデン集積所の舟の入口
ロックの仕組みはとても簡単です。まず、石とレンガで貯水槽を作り、その両端に木製の水門を取り付け、水門の下部にある給排水用の扉(パドルと呼ばれる仕切り板)を開閉することで水を注入したり、排出したりします。そして上流部、あるいは下流部と同じ水位になったところで水門を開けて舟を通します。こうしたロックの発明により、19世紀には全国に運河ネットワークが築かれ、効率的な物資の輸送が可能になりました。
カムデン・ロックにボートが入ってきた
19世紀半ばになると、ロンドン北部のカムデンやキングス・クロスとイングランド北西部が鉄道で結ばれ、大量の物資が鉄道で運ばれてきました。貨物集積所には運河から直接、舟が近づいて貨物の搬出入を行い、運河を通ってロンドン市内に運ばれました。馬と舟と鉄道の見事なコラボにより、ロンドンの物流ネットワークが強化され、産業に貢献したのです。自然豊かなリージェンツ運河を歩けば歴史的にも彩色豊かなことがよく分かります。
リージェンツ運河のロックの海抜
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