第210回 フォークとパスタのからみ合い
クリスマス・プレゼントに手動式の製麺機をもらいましたので、早速、手打ちパスタを作りました。麵を茹でながらフォークを探して引き出しを開けます。そこには三つまたと四つまたの2種類のフォークがあり、どちらを使うべきか見比べました。そしてふと、フォークの歴史とパスタには深い関係があることを思い出しました。
フォークの語源はラテン語のフルカ(熊手)
熊手の形をした調理器具は紀元前にも存在していましたが、食卓用のフォークが欧州に広がるには長い時間を要します。1004年、ビザンチン帝国のお姫さまがヴェニス提督の息子と結婚する際にフォークを持ち込んだのが始まり。当時のフォークは二つまたで、食べ物を切る際に固定したり、大皿から取り分けるための道具でした。教会の教えにより手食文化が根付いていた欧州では、カトラリーとしてのフォークがなかなか普及しません。
18世紀でも庶民はパスタを手で食べていた
ところがイタリア半島だけ少し事情が異なりました。14世紀から16世紀までにナポリ地方を中心に、裕福な人は熱々のパスタを長くて三つまたの木製のフォークを使って食べるようになっていました。また、フィレンツェのメディチ家のカトリーヌが1533年にフランス王家に嫁ぐ際、嫁入り道具にフォークを持ち込みました。カトリーヌに随行したイタリア料理人はフランス王家が粗雑に手づかみで食事する様子を見て非常に驚きました。
写真は17世紀のフォーク
一方、英国では1611年にトーマス・コリャット氏がイタリアを旅行してフォークやナプキンを見つけて自国に紹介します。でもほとんど誰も興味を示しません。やがて1770年代、つるつる滑るパスタを巻きつけやすいように、歯が短くて四つまたのフォークがナポリのカゼルタ宮殿で生まれました。これが欧州全域に広がったと言われています。
トーマス・コリャットの旅行記(1611年)
同じころ、欧州の富裕層がステータス・シンボルとして高価な食器を使い始め、四つまたのフォークの広がりと共にテーブル・マナーが確立していきました。英国式マナーでは、紋章が刻印されたフォークの表側が見えるよう(歯が上に向くよう)テーブルに置き、逆に食事中は必ず歯を下に向けます。また、左手に持つフォークを途中で右手に持ち代えるのはマナー違反。幅広い麵なら小さく切ってフォークの背に乗せ、細長い麵ならフォークを手前側に回して巻きつけます。フォークに慣れ親しんだナポリの人にとってはなんて不自由な食べ方でしょう。寅七は自家製パスタに箸を使うことにしました。
フォークがパスタをからめとる
寅七の動画チャンネルちょい深ロンドンもお見逃しなく!