第214回 ロンドンの鐘の聲、商業無常の響きあり - 日本の和鐘と英国の洋鐘
シティ西部の聖ダンスタン西教会に大きなからくり時計があります。シティを護衛する伝説上の巨人、ゴグとマゴクがこん棒で15分ごとに数回、鐘を叩いて時を知らせます。ところが、筋骨隆々な巨人が叩く鐘というのにカーンコーンと拍子抜けするほどかわいい音色です。日本の梵鐘(ぼんしょう)の音を聞き慣れた我々からすれば、巨人なのだからもっと地面の奥底からグワーンオンオンと響く威厳ある音にすればいいのにと思います。
聖ダンスタン西教会のゴグとマゴク
日本の和鐘と英国の洋鐘の音色は随分異なります。鐘の素材が同じ青銅でも和鐘には鉛の成分が多く、洋鐘には錫の成分が多いそうです。形状も和鐘は口径が狭く音色が重厚で余韻が残ります。鐘を突く撞(つきざ)座の位置が下にあるほど響きは低音になり、「駒の爪」と呼ばれる鐘の一番下の裾部分が出っ張るほど長く余韻が残るそうです。一方の洋鐘は口径が広く音色は明るく余韻も長くありませんが、乾いた音色が天から降り注いで来る感じです。
和鐘は撞座の位置が低いほど低音
ところで洋鐘を並べて複数の音色を出して演奏する鐘楼のカリヨンがあります。15世紀のフランドル地方で生まれたそうですが、古典的なカリヨンは世界で700程しかなく、ロンドンには高級ブランド店が並ぶオールド・ボンド・ストリートのアトキンソン・ビルの屋上にあります。23個の鐘が奏でる優美な調べに思わず財布のひもが緩みます。このカリヨンは金曜と土曜の夕刻に定期的な演奏がありましたが、今はコロナ禍で中断されています。
アトキンソン・ビルのカリヨン
また、レスター・スクエアのスイス・コートには機械化されたカリヨンを有する10メートルの時計塔があります。平日なら日に5度、週末なら8度の演奏が5分間続きます。鐘が鳴り始めるとステージが上層と下層に分かれ、上層ではアルプス地方の伝統衣装に身を包んだ4人の人形が動き出し、下層では農場人と家畜が周囲を回り始めます。27個の鐘で奏でる演奏は繁華街のにぎやかさに負けず、スイスの良い宣伝になっています。
レスター・スクエアのカリヨン
最後にコヴェント・ガーデンにある水時計を紹介します。残念ながら今は動いていませんが、60分ごとに屋上から水が流れ落ち、鉄パイプが水の落下を利用して日本の鹿威(ししおど)しのように鐘を鳴らせる仕掛けです。連続する鹿威しで複数の鐘を鳴らせるとはお見事です。鹿威しのポーンという音に代わってカンコンカンコンけたたましく鐘が鳴り、その下にある食材店の良い宣伝になっていたそうです。ロンドンの鐘の聲、商業無常の響きあり、ですかね。
鹿威しの原理を利用した水時計
寅七の動画チャンネルちょい深ロンドンもお見逃しなく!