第233回 英国のウサギと農業革命
謹賀新年、明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。今年の干支は卯です。卯年は多産と飛躍の年とされますので、ぜひ今年は何か新しいことに挑戦してみたいと思います。さて、ウサギといえばその数え方が珍しいことで有名です。江戸時代に鳥肉以外の動物の食肉が禁止された際、ウサギの肉を食べたいがためにウサギを鳥の一種と主張し、1羽、2羽と数えるようになったといわれています。
寅七からの年賀状
英国でウサギといえば、絵本に登場するピーターラビットが有名です。童話の中でピーターの父親が人間に捕まり、ウサギ肉のパイにされてしまったという話を子どものころに知ったときは衝撃でした。当時通っていた小学校にウサギの飼育小屋があり、当番制で面倒をみていましたが、あんなにかわいいウサギを食べるなんて英国人は残酷だと思いました。改めて、英国とウサギの歴史を振り返ってみますと両者の深い関係が見えてきます。
英作家ビアトリクス・ポターが生んだピーターラビット
もともと英国にはウサギが生息していませんでした。1世紀のローマ植民地時代に欧州大陸から持ち込まれましたが、英国の気候や水はけの悪い土壌に合わず繁殖しませんでした。でも、11世紀のノルマン・フレンチ時代になるとウサギの毛皮や肉が重宝され、ラビット・ウォーレンズという繁殖施設が各地に作られました。特にロンドンから車で2時間ほどの東アングリア地方ノーフォークは有名なウサギの生産地でした。
中世のラビット・ウォーレンズ
ところが18世紀に天然ウサギの数が爆発的に増えます。それは英国の農業革命に伴う必然的な結果でした。もともと英国の土地は肥沃ではないので、農地を三つに分け、小麦→休耕→大麦と輪作する、三圃式農法が行われていました。やがてノーフォーク農法と呼ばれる四圃式農法(小麦→クローバー→大麦→カブの輪作)が新たに導入されると、畜産と穀物栽培の混合農業が発展。ノーフォーク地方が英国最大の穀倉地帯に変わりました。
英国に農業革命を起こしたノーフォーク地方の四圃式農業
ウサギは発情期がないので食べ物があれば1年中、子を産んで増え続けます。さらに19世紀に鉄道時代が到来すると、ハンターたちが全国津々浦々でキツネ狩りをするようになり、天敵のキツネが減ったことでウサギが急増。その結果、ウサギは農産物を食い荒らす害獣になってしまいました。そうなるとハンターは率先してウサギ狩りをするようになり、捕らえてワインで煮込むジャグド・へア(Jagged Hare)や肉パイの食材にもされました。人間の勝手な都合でウサギを増やしたり減らしたり。ウサギさん、本当にごめんなさい。
肉屋の店頭に並ぶウサギの肉
寅七さんの動画チャンネル「ちょい深ロンドン」もお見逃しなく。