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Tue, 03 December 2024

第243回 シティの水道水はどこから?(後編)

前号に続き水道の話です。子どものころ、人気のテレビ番組で東村山音頭が流行していました。「東村山、庭先ゃ多摩湖」、と曲が流れますと小学生のときに社会見学で訪れた多摩湖を思い出します。多摩湖の正式名称は村山貯水池で、昭和初期に東京の人口が急増したため作られました。まさにロンドンの水道の歴史も同じで、20世紀初頭、人口増加に伴う水不足に対応するため、テムズ川上流域やリー川中流域に多くの貯水池が作られました。

思えば「ロンドン」の名称は先住民のケルト系民族の言葉でロンディニウム、つまり「沼地の砦」に由来するといわれます。ロンドンは、夏は晴天が多くても冬は小雨が毎日のように降りますし、平らな土地なので雨水が海に流れるまでたくさんの水たまりや湿原ができます。都会になる前のロンドンは沼地だらけだったでしょうし、ロンドンの人口が増えて水不足になれば、沼地を都心の水がめに変えようという発想が生まれるのは当然です。

シティ北部にあるリー川渓谷に広がる湿原を一連の13個の貯水池に変えたのは1904年です。そのうちの10個の貯水池の間に遊歩道を作り、湿地と野生動物の保護を目的に2017年に一般公開されたのがウォルサムストウ湿原自然公園。シティから地下鉄でわずか15分、トッテナム・ヘイル駅から徒歩圏内にあります。また、この自然公園の西側にはリー・ナビゲーション運河が流れ、南部でテムズ川に合流します。

リー・ナビゲーション運河リー・ナビゲーション運河

貯水池の遊歩道貯水池の遊歩道

この自然公園入口の近くにあるのが1894年に建てられたエンジン・ハウス。もともと蒸気機関のポンプで貯水池から近隣住民に水道水を供給していましたが、今はカフェ付きの案内所となり、野鳥や貯水池の資料が展示されています。211ヘクタールもあるこの公園は欧州最大の都心の湿原保護区。園内には広大な貯水池が広がり、300種類の植物と140種類の野鳥が観察できるといわれ、バード・ウォッチングのメッカになっています。

元はエンジン・ハウスだったカフェ元はエンジン・ハウスだったカフェ

貯水池の遊歩道にはたくさんのカナダ雁の家族が貯水池の遊歩道にはたくさんのカナダ雁の家族が

さらにその奥には、17世紀にできたコッパーミルという旧水車小屋があります。もともと穀物を挽く水車でしたが、19世紀に精銅会社で精錬された銅を水車で圧延し、硬貨やメダルを作っていたのでその名の由来となりました。この湿原地はロンドンの原風景であり、その後にたどった歴史的遺産が散りばめられ、さらに今は豊かな自然と野鳥にあふれたロンドンの水道源になっているとは、その見事な絵巻物に舌を巻くばかりです。そしてこの楽園の地下40メートルから環状水路が延びて、私たちの水道の蛇口につながっているのですね。

旧水車小屋コッパーミル旧水車小屋コッパーミル

寅七さんの動画チャンネル「ちょい深ロンドン」もお見逃しなく。

 

シティ公認ガイド 寅七

シティ公認ガイド 寅七
『シティを歩けば世界がみえる』を訴え、平日・銀行マン、週末・ガイドをしているうち、シティ・ドラゴンの模様がお腹に出来てしまった寅年7月生まれのトラ猫


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