第255回 英国のウォール・ゲームとパチンコ
今号の特集で触れましたが、トランプの絵札のクラブのキングは
球と棒を使うさまざまな球技
古代エジプトでは、神々だけでなく庶民も動物の皮で作った球を、ヤシの枝で突いて相手ゴールを狙う、フィールド・ホッケーのような競技をしていました。思えば、球と棒を使った球技にはほかにもクリケット、テニス、ゴルフ、ポロ、スティックボール、クロッケー、ゲートボールなど、数え上げたらきりがありません。いずれも起源は古代の占いの儀式にあり、それが転じて中世欧州の王室や修道院で行われた競技になったものが多いようです。
トランプ絵札の宝珠
欧州ではローン・ゲームと呼ばれる芝生に球を転がすボウリングや、球を突いて目標物に命中させるグラウンド・ビリヤードが人気でした。15世紀半ば、悪天候でも競技できるように、フランスのルイ11世が室内用ビリヤード台を作らせました。腰痛持ちの国王の痛みが悪化しないようテーブル台は腰の高さにされ、敷かれた布は芝生と同じ緑色でした。これが普及するにつれて種目が増え、台の広さや球の大きさが異なっていきました。
紀元前500年の古代ホッケーの様子(アテネ国立考古学博物館蔵)
1777年、パリ近郊のバガテール城でルイ16世夫妻を称えるパーティーが開かれ、新しいテーブル・ゲームが披露されました。ビリヤード台を小さくしたものを少し傾けて球が手元に転がって戻るようにしつつ、標的の穴に命中させるバガテールというゲームです。これは球を突くビリヤードと球を転がすボウリングの中間体ですが、19世紀後半に米国でバガテールが改良されてピンボールになり、米国を代表する遊戯具になりました。
バガテールに興ずる米大統領のリンカーン(中央)
一方、20世紀初頭、英国はバガテールを縦置きに変えてガラス板を貼り、球をバネではじき飛ばして垂直に落とすウォール・ゲームに変えました。小銭を入れると球が出てきてそれを打ち、打球が釘にパチパチ当たりながら標的の穴に入れば賞金や景品が出る仕組みです。この遊戯具が1923年、兵庫県の宝塚新温泉パラダイスに設置されて人気になりました。これが日本のパチンコの発祥といわれています。球と棒の競技は過去から未来へ、そして世界中へと、あちこち跳ねては転がり、波及していきました。
筆者の自宅にあるバガテール
寅七さんの動画チャンネル「ちょい深ロンドン」もお見逃しなく。