第275回 ロンドンをスポンジ都市に
シティではレイン・ガーデンや屋上緑化、舗装道路の透水化などSuDS仕様になった場所をよく見掛けるようになりました。SuDSとはサステナブル・ドレイニジ・システム、つまり、持続可能な排水システムのことで、歩道に傾斜をつけて雨水が花壇に流れるようにしたり、緑化した屋上やアスファルト舗装を透水性の高いものに変えて雨水を溜め、プランター用の水などに使います。雨水を下水溝に流さず再利用する点がポイントです。
歩道から雨水が流れ込むレイン・ガーデン
最近、一時的な強雨による都市型水害が世界各地で発生しています。ロンドン中心部の下水道は合流式、つまり雨水も汚水も同じ管を使うので、コンクリートのビルやアスファルト舗装ではじかれた雨水が一気に下水管に流れ込みます。大量の雨水が下水管に流れ込むと下水がテムズ川に流れ出てしまいます。パリ五輪でセーヌ川の汚染が問題視されたのもパリの下水道が合流式のため、汚水がセーヌ川に流れ込んだからです。
都市型水害の例
汚水がテムズ川に流れ出ないように、テムズ川の下に作られたのがテムズ・タイドウェイ・トンネル。深さ70メートル、全長25キロに及ぶ工事が完了し、来年稼働の予定です。この工事の完成で、現在34カ所から大雨の際、毎年60回ほどテムズ川に流れ出ている下水量の95パーセントを食い止めることができますが、今の状況が変われば効果も変わるそうです。人口や降雨量が増えれば再び多くの汚水がテムズ川に流れ出てしまうのです。
テムズ・タイドウェイ・トンネルは下水道の救世主
本来、ロンドンの下水道は郊外にあるような分流式、つまり、下水管と雨水管を分け、汚水は下水処理を施した後に、雨水はそのまま河川に流すべきです。ところがそれを実現するには5000億ポンド(約100兆円)ものコストがかかるそうです。分流式の実現が難しいので冒頭のSuDSの考えに沿って、ロンドンが保水機能を取り戻し、雨水を地下に溜め再利用できるよう、ロンドンを「スポンジ状態」にする工事が各地で進行しています。
下水と雨水が分かれる分流式
思えば東京の海抜ゼロメートル地帯は、明治末期から地下水を過剰に汲み上げたため、地盤沈下を引き起こしたことでできました。そして透水性のない建物や舗装道路をたくさん作ったために、今はヒート・アイランド現象と都市型水害が多発しています。緑地の造成やSuDSで土地の吸水性を高め、雨水を地下水として再利用できれば、もともとあった自然の循環に近くなり、水害対策にも下水対策にも温暖化対策にも役立つでしょう。覆水盆に返らず、ではなく、覆水を盆に返す発想が求められています。
ロンドンに保水機能を戻しスポンジ都市に
寅七さんの動画チャンネル「ちょい深ロンドン」もお見逃しなく。