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Sat, 21 December 2024

エイベックス・クラシックス・インターナショナル株式会社
インターナショナルルーム課長 兼 原盤制作ルーム課長

浅野 尚幸氏 インタビュー

「クラシック音楽に目覚めて、ハマる人」を増やしたい

エイベックス・クラシックス・インターナショナル株式会社 浅野 尚幸氏エイベックス・グループというと、若手のポップ・ミュージシャンをマネジメントする会社という印象が強いかもしれないが、クラシック音楽を専門とするエイベックス・クラシックス・インターナショナル(ACI)は2014年にロンドン・オフィスを設立、クラシック音楽関連事業を世界規模で展開している。同社の浅野氏に、ロンドンにおける活動を中心にお話をうかがった。
http://avex.jp/classics


ACI設立の目的を教えていただけますか。

世界のクラシック業界では2010年ごろになると、演奏家が自主レーベルを設立して自らの録音をプロデュースしたり、ビデオ・コンテンツの制作のみならず流通まで手掛けたり、また名門レーベルがアーティストのマネジメントを始めたり、といった流動化・業際化が起きていました。ACIは、コンテンツ制作を出発点に、アーティストのマネジメント、コンサートの企画・制作・主催といったようにクラシック音楽にかかわる事業を全方位に統合しつつ、世界を目指して展開する、という趣旨で設立されたものです。

昨年4月にはロイヤル・アルバート・ホールで映画「タイタニック」をオーケストラの生演奏とともに上映する「Titanic Live」を開催、話題を呼びました。

現在、ロンドン・オフィスのチーフを務めているマギー・オハーリヒーは、かつて英国王立音楽院でピアノを学び、ロンドンに本社を置くマネジメント大手で業績を上げていました。一方で、映画音楽の作曲家として知られるジェームズ・ホーナー氏を始め、クラシック音楽の枠を超えた人たちとつながりがあり、彼らと一緒に仕事をする機会を求めていたのです。そうした、既存のクラシック音楽の枠に収まりきらない活動の場を求めていたところに私たちとの出会いがあって共鳴しました。

「タイタニック・ライヴ」は、映画「タイタニック」をスクリーンで上映しつつ、音楽はオーケストラによる生演奏で聴かせようというもので、ACIでは「Film with Live Orchestra」と呼んでいます。映画はエンターテインメント・ビジネスの中でも規模が大きく世界的な巨大企業が強い分野です。その分野でACIという会社は新参者で、実際に競合もありましたが、日本のエイベックスが20世紀フォックス社と関係があり、またマギー自身が作曲者のジェームズ・ホーナー氏と親交があったことから、競合を突破して実現することができました。この企画の第2弾としては、クラシック音楽ファンの間で一番有名であろう映画「アマデウス」の権利を取得し、「アマデウス・ライヴ」を今年3月にスイスで試演しました。これから世界ツアーをスタートさせます。

今年4月からは、辻井伸行、諏訪内晶子、庄司紗矢香という日本を代表する音楽家たちがウィグモア・ホールで順次コンサートを開催されますね。

ACIのロンドン・オフィスでは、日本資本だからといって、日本の本社に所属しているアーティストや制作しているコンテンツを単に「輸出」するための窓口にしたり、ロンドンにある「どこかの会社みたいなこと」をさせるつもりはありませんでした。しかし、せっかく日本の企業として進出するのだから、日本の音楽文化のうち優れたものを世界に向けて発信したい、という思いもあります。その一つがこの「エイベックス・リサイタル・シリーズ」です。

今年出演する、辻井伸行、諏訪内晶子、庄司紗矢香の3名はいずれも立派な国際的なキャリアのある人たちですが、意外にもウィグモア・ホールへはデビューとなります。諏訪内さん、庄司さんは、日本では別の事務所に所属する花形演奏家ですので、そうした人たちのソロ・リサイタルをACIが主催することは東京では難しいと思いますが、ロンドンの最高の舞台でそれができるのが、「全方位」で国際展開しているACIの強みだと思います。

ACIの長期的な目標を教えていただけますか。

どうしてこんなにも多くの人たちが音楽を聴くのかと考えると、求められているのはシンプルな「価値」だと思います。どの人にとっても一日は24時間、一週間は7日間しかなく、その中で幸せに浸れる時間というのは限られています。エンターテインメント・ビジネスは、その貴重な時間をより楽しく充実して過ごしていただく方法のご提案だと考えます。CDの売れ行きは世界的に長期低迷していますが、それは、一人でCDを聴く代わりに、ブログを更新したり、インターネット動画を自ら投稿したり、ほかの人の動画にコメントを付けたりといった「シェア可能な」体験の方を楽しいと思う人が増えて、いわば「可処分時間の使い方」が変わったからだと思うのです。

そうした変化の中で、辻井さんが優勝したヴァン・クライバーン国際ピアノ・コンクールのご縁で、亡くなる直前のヴァン・クライバーン氏*に会ったときの言葉が強く印象に残っています。クライバーン氏は、現代において音楽へアクセスする敷居が非常に低くなっていることを肯定的にとらえつつも、辻井さんに「クラシック音楽というのは、コンサート・ホールのような、音楽に没頭できる場で聴くことで、初めてその神髄に触れることができる、そうしたデリケートな深みを持っている。だから一人でも多くの人をコンサート・ホールに連れて来なさい」と語りました。企業としてのACIは、もちろん業績あっての話ですが、クラシック音楽の価値と魅力を伝えることも使命の一つだと思います。ただでさえ多忙で、余暇・娯楽の選択肢も多い現代の生活の中で、コンサート・ホールに出掛けてクラシック音楽の生演奏に耳を傾ける、それが貴重な人生の一コマを割くに値するものだと実感していただくこと。一言で言えば「クラシック音楽に目覚めて、ハマる人」を増やしたい。日本が誇る演奏家を、英国が世界に誇る殿堂ウィグモア・ホールで聴く。「エイベックス・リサイタル・シリーズ」が、そのようなきっかけになれば本望です。

*米国の著名ピアニスト。2013年没

 

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