大都市ウォーキングを楽しむ - LONDON THAMES PATHロンドンのテムズ・パスを
歩いてみよう
「ちょっと歩こうか?」と言って人を誘うほど、お散歩をこよなく愛する英国人。事実、ウォーキング用のフットパス(footpath)が英国全土に張り巡らされており、歩くことはこの国の根強い文化の一つだ。過去のロックダウンの影響で、以前より散歩がさらに身近な習慣となった今、テムズ川沿いに走る散歩道、「テムズ・パス」を歩いてみてはいかがだろう。開発中のエリアを遠巻きに眺めたり、趣のあるパブや話題の場所などとの思いがけない出合いを楽しんでみたりと、田園地帯を歩くのでは体験できない、大都市ウォーキングならではの面白さがある。(文: 英国ニュースダイジェスト編集部) 参考: 英国政府、TfL ほか
そもそも「フットパス」って何?
都市部での散歩から、本格的なトレッキングまで、さまざまなウォーキングを楽しむ英国人の支えとなっているのがフットパス(歩道)だ。英国中を縦横無尽に走るこのフットパス、実は法律によってその定義が明確に定められている。
英国で通行権(Rights of way)と呼ばれる歩道がある。これはロンドン中心地以外*のイングランドとウェールズに見られるフットパスのうち、法律により保証されている、誰もが自由に出入りできる散歩道のこと。たとえ私有地であろうとも、道は国民のものという英国人の考えが反映されている。この通行権、法律上は以下のように四つに大別されている。
イングランドとウェールズにおける四つの通行権
❶ Public Footpaths
歩行者、シニアカーや電動車椅子を使用する人のみに認められている道
❷ Public Bridleways
歩行者、シニアカーや電動車椅子を使用する人、馬に乗っている人、サイクリングしている人のみに認められている道
❸ Restricted Byways
歩行者、馬に乗っている人、サイクリングしている人のみに認められている道
❹ Byways Open to All Traffic(BOAT)
自動車を含め、全ての交通手段に認められている道
通行権のある道として認識されるには、法律上は所有者が自ら進んで公的使用のために「献上」するということになっている。しかし実際にこのような経緯で認められるケースは非常に少ないのだとか。何でも一般人が誰かの私有地内にある道を利用していて、ある一定の期間(法によると20年間)何のおとがめもなく使えている場合には、所有者は自分の道を通行権のある道として献上したのだと自動的に見なされてしまうらしい。
今回紹介するテムズ・パスは、国が管理している16の長距離フットパスのうちの一つだ。これらは「ナショナル・トレイル」と呼ばれ、田園地帯や国立公園を通過するなど、地域によってかなり多様な道となっている。
*1949年にアクセス・マップが作成されたとき、シティを含むインナー・ロンドンはこの対象地域に入っていなかったが、2010年に英国のウォーキング・チャリティー団体、ランブラーズがもともとあるフットパスを保護し、ロンドンも同法の下におこうと地図の作成を宣言。翌11年、ランベス地区のカウンシルが地図の作成に取り組む決議を可決したものの、未だその地図の作成には至っていない。
実はウォーキング天国だったロンドン
以下で詳しく紹介するテムズ・パスのほかにも、ロンドンには各地域が協力して共同で管理するウォーキング・ルートがある。広域にわたってルートが敷かれているので、気付けばルート上にいた、なんてことも少なくない。ここでは歩きやすい6ルートを紹介しよう。
Capital Ring キャピタル・リング
リッチモンド・パークなどロンドンの郊外エリアを環状に歩くルート。全長約126キロメートルで、15のショート・コースに分けられる。
Green Chain グリーン・チェーン
テムズ・バリア、クリスタル・パレスなどロンドン南東エリアを歩く約80キロメートルのルート。11のコースに分かれ、緑豊かな地域を歩く。
Jubilee Greenway ジュビリー・グリーンウェイ
エリザベス女王の即位60周年を祝うダイヤモンド・ジュビリーと、ロンドン五輪を記念して作られた約60キロメートルのルート。O2アリーナ、グリニッジ・パークなどを歩く。
Jubilee Walkway
ジュビリー・ウォークウェイ
1977年に設定されたジュビリー・ウォークウェイのプレート
聖ポール大聖堂やトラファルガー広場、バッキンガム宮殿など、ロンドン中心部のランドマークを歩く約24キロメートルのルート。
Lea Valley リー・ヴァレー
テムズ川からロンドン北東部リー・ブリッジを通り、ロンドン北部ウォーサム修道院へ曳航道を歩く約29キロメートルのルート。
London Outer Orbital Path (LOOP)
ロンドン・アウター・オービタル・パス
ロンドンをぐるっと囲むように巡る環状の長距離ルート。約245キロメートルの行程は24に分かれており、ほとんどが平坦なルートで歩きやすい。
URL: https://tfl.gov.uk/modes/walking/top-walking-routes
テムズ川の源泉、英西部コッツウォルズのケンブルからロンドンのシティ空港近くにあるテムズ・バリアまでを結ぶ、全長294キロメートルのテムズ・パス。そのなかから、ロンドンの多彩な魅力が感じられる6ルートを選んでみた。趣向に合うルートが見つかったらぜひブラブラ歩いてみてほしい。
A自分の世界に浸り、黙々と歩く哲学ルート
総距離24km
スタート地点最寄駅ナショナル・レール Teddington駅
ゴール地点最寄駅ナショナル・レール Battersea Park駅
ルートテディントン・ロック(水門) → トゥウィッケナム → キュー・ガーデンズ → 国立公文書館 → パットニー・ブリッジ → バタシー・パーク
ルートDより緑から離れないルート。キュー・ガーデンズを通過後、名所のそばを通るものの、道を隠すように緑が繁る部分が比較的多いため、外界から隔離されている気分に。物思いにふけりたいときにぴったりのルートだ。
Bテイクアウェイを利用して、川沿いで過ごしてみる
総距離10km
スタート地点最寄駅ナショナル・レール Battersea Park駅
ゴール地点最寄駅地下鉄、ナショナル・レール London Bridge駅
ルートバタシー・パーク → ナショナル・シアター → テート・モダン→グローブ座 → ロンドン・ブリッジ → タワー・ブリッジ
テムズ川の南側と同様、観光名所ぞろいのエリア。食べ物や飲み物を販売するバンが多いので、ランチも取りやすい。また、ベンチが切れ間なく設置されているので、テムズ川を見やりながらひと息つくのも乙な過ごし方。
Cゴールはインパクト大! テムズ・パスの最終ルート
総距離17.5km
スタート地点最寄駅地下鉄、ナショナル・レール London Bridge駅
ゴール地点最寄駅ナショナル・レール Charlton駅
ルートタワー・ブリッジ → ブルネル博物館 → グリーンランド・ドック → デプトフォード → グリニッジ → O2アリーナ → テムズ・バリア
世界遺産のグリニッジ、元ミレニアム・ドームのコンサート会場、30年以上前の建設ながら近未来的な雰囲気のあるテムズ・バリアと、建物オタクにはたまらないルート。ちなみにテムズ川の北側は当ルートほど川沿いに歩けないため、こちらを使おう。
D豊かな自然から美しい住宅まで、眺望を楽しむ
総距離37km
スタート地点最寄駅ナショナル・レール Hampton Court駅
ゴール地点最寄駅Cadogan Pier / 170番バスAlbert Bridge / Cadogan Pier towards Victoria停留所
ルートハンプトン・コート → テディントン・ロック(水門)→ トゥウィッケナム → サイオン・パーク → キュー・ブリッジ → ハマースミス → フラム → チェルシー・ハーバー → アルバート・ブリッジ
前半はロンドン西部に広がる豊かな自然のなかを歩き、後半は瀟洒な住宅やボート・クラブなど、変化に富んだ眺めを楽しむコース。ルートのほとんどの道が舗装されているので、長距離だが楽に歩けるようになっている。
E歴史の変化を感じられる北側の最終地点
総距離8km
スタート地点最寄駅地下鉄Tower Hill / DLR Tower Gateway駅 など
ゴール地点最寄駅DLR Island Gardens駅
ルートタワー・ブリッジ → ワッピング → カナリー・ワーフ → アイランド・ガーデンズ
かつて工業地帯として栄えていたが、現在は新興住宅や倉庫などさまざまな形態に様変わりしている面白いエリア。カナリー・ワーフを過ぎると、アイランド・ガーデンズという公園があり、対岸のグリニッジ・エリアがよく見える。
F穏やかなロンドンを感じられるのは今しかない!
総距離9.5km
スタート地点最寄駅Cadogan Pier / 170番バスAlbert Bridge / Cadogan Pier towards Victoria停留所
ゴール地点最寄駅地下鉄Tower Hill / DLR Tower Gateway駅 など
ルートアルバート・ブリッジ → テート・ブリテン → ウェストミンスター宮殿 → エンバンクメント → ブラックフライアーズ → ロンドン・ブリッジ → タワー・ブリッジ
ウェストミンスター宮殿やロンドン塔など、ロンドンを象徴する観光名所が並び、在英者なら一度は歩いたことがあるであろう王道ルート。週末や日中は観光客でごった返しているが、早朝やまだ明るい夕方など人が少ない時間帯が狙い目だ。
テムズ・バリアの先もまだまだ歩ける!
テムズ・パスの最終地点はテムズ川の氾濫を防ぐための可動式防潮堰、テムズ・バリア。ナショナル・トレイルとしてはそこで終了となるが、バリアの南側に整備された道はさらに西方へ向かって延びており、歩き続けることは可能だ。行程は、かつて王立の兵器工場があったウーリッジを通過後、テムズミードを経て英西部ケントのダートフォードまで17.5キロメートルほど。後半は殺風景になるものの、川幅が広がり、テムズ川の雄大さを感じられるようになる。