歩いて知る新たな魅力 ロンドンで楽しくウォーキング
しばらく肌寒い陽気が続いていたロンドンだが、ようやく夏らしい季節がやってきた。日が沈むまでに十分な時間がある今は、まさにウォーキング日和だ。以前1559号で取り上げたテムズ川沿いを歩く有名なテムズ・パスのほかにも、ロンドンには魅力的なウォーキング・ルートがたくさんある。今回は、よく知られた公式ルートのほか、ロンドンの文化や歴史を感じられるルートを4つ紹介する。
(文: 英国ニュースダイジェスト編集部)
参考: https://tfl.gov.uk、www.timeout.com、www.gov.ukほか
目次
英国人の散歩好き人口はどのくらい?
参考: https://oursportinglife.co.uk
「自分はよく歩く」と思っている英国人23%
英国人の総人口の約4分の1にあたる。2019年には16パーセントだったが、ロックダウンを経て、散歩やウォーキング、ハイキングをする習慣が身に付いた人がさらに増加した模様。散歩やハイキングを計画している英国人15%
2024年に月1回は散歩やハイキングに行く予定のある英国人の割合。その中で男性は17.83パーセント、女性が13.07パーセント。年代別では年配になるにつれ割合が上がり、55歳以上では19.44パーセントと最も多い。近隣の散歩道を調べた検索数11万4000件
Googleを使って散歩道を調べた1カ月あたりの検索数。数十年前までは本や紙の地図で調べていたルートがオンラインで気軽に調べられるようになったことで検索数が爆発的に増えた。ちなみにロックダウン時は月20万以上の検索数があったそう。散歩にまつわるハッシュタグ付きの投稿8400万件以上
2024年1月時点で、インスタグラムで#hikingとハッシュタグを使った投稿の数。#hikingadventures、#hikingtrailsも人気だった。若者世代を中心に、次に行きたいルートの情報をSNSで取得する時代になっている。週に充てた徒歩の時間90分
2022年時の調査の結果で、21年と比較し、移動時間が増えた。ロックダウン以前は買い物など必要に駆られて歩く人の割合が多かったが、以降は歩くこと自体を目的にした人が大幅に増えた。黙々と歩けるロンドンの⻩⾦ルート
テムズ・パスのほかにも、ロンドンには市内に縦横に張り巡らされた多くのウォーキング・ルートがある。まずは⾃宅のそばなど、気軽に始められそうな場所からスタートしてみよう。
Route A
キャピタル・リング Capital Ring
オリンピック・パークなどロンドンの郊外エリアを環状に歩くルート。全長約126キロメートルで、15のショート・コースに分かれている。
https://tfl.gov.uk/modes/walking/capital-ring
キャピタル・リングのお勧めコース2選
Section 6
アップダウンの多い緑豊かなルート
Wimbledon Park to Richmond
- 総距離 11.7km
- スタート地点最寄駅 地下鉄Wimbledon Park駅
- ゴール地点最寄駅 地下鉄、オーバーグラウンド、ナショナル・レール
- ルート ウィンブルドン・パーク→リッチモンド・パーク
舗装道路より小道や草の上などを歩くため、汚れても良い歩きやすい靴で臨みたい。その分、ロンドンの多様な自然が感じられるはずだ。愛犬との散歩にも適したルートだが、リッチモンド・パークで牛の放牧が4〜10月に行われるため、歩く前にガイダンスを確認するのが安心。
Section 12
途中でお茶を挟みながら歩ける
Highgate to Stoke Newington
- 総距離 9km
- スタート地点最寄駅 地下鉄Highgate駅
- ゴール地点最寄駅 オーバーグラウンドStoke Newington駅
- ルート ハイゲート駅→フィンズべリー・パーク→ストーク・ニューイントン貯水池(Woodberry Wetlands)→アブニー・パーク墓地
中心部から近いエリアだが、キャピタル・リングの中でも緑豊かなルートとして知られている。主に舗装道路を歩くので、距離はあるものの比較的歩きやすい。また、ルート上はもちろん、クラウチ・エンドなど周辺にカフェの多いエリアもあるので、休みながら行けるのも良い。
Route B
グリーン・チェーン Green Chain
テムズ・バリア、クリスタル・パレスなどロンドン南東エリアを歩く約82キロメートルのルート。11のコースに分かれ、緑豊かな地域を歩く。
https://tfl.gov.uk/modes/walking/green-chain-walkg
グリーン・チェーンのお勧めコース
Section 6
公園や王宮など豊かな景色を一度に楽しめる
Oxleas Wood to Mottingham Lane
- 総距離 6.27km
- スタート地点最寄駅 ナショナル・レールFalconwood駅
- ゴール地点最寄駅 ナショナル・レールMottingham駅
- ルート オックスリーズ・ウッド→シェパーズリーズ・ウッド→エルサム・パーク・サウス→エルサム宮殿→モッティンガム・レーン
下り坂や舗装された道路も多く歩きやすいルート。オックスリーズ・ウッド(Oxleas Wood)、シェパーズリーズ・ウッド(Shepherdleas Wood)の一部の区域では8000年以上前から森があるなど、歴史的にも興味深いポイントが多い。アール・デコ様式が美しいエルサム宮殿(Eltham Palace)を過ぎ、南下してモッティンガム・レーン(Mottingham Lane)へ。
Route C
リー・ヴァレー Lea Valley
テムズ川からロンドン北東部リー・ブリッジを通り、ロンドン北部ウォーサム修道院へ曳航道を歩く約24.8キロメートルのルート。
https://tfl.gov.uk/modes/walking/lea-valley
リー・ヴァレーのお勧めコース
Section 1
広大な貯水池に沿って歩く
Waltham Abbey to Ponders End
- 総距離 5.7km
- スタート地点最寄駅 ナショナル・レールWaltham Cross駅
- ゴール地点最寄駅 ナショナル・レールPonders End駅
- ルート リー・ヴァレー・ホワイト・ウォーター・センター→リー・ヴァレー川→キング・ジョージ5世貯水池→ポンダーズ・エンド駅
北から南へほぼ真っ直ぐ下りてくるため、探索というよりは地図を確認せずゆったり歩きたい人向けのルート。途中に通過する広大な貯水池はロンドンの市民へ飲料水を供給するキング・ジョージ5世貯水池で、南のウィリアム・ガーリン貯水池と合わせテムズ・ウォーターに管理されている。
Route D
ジュビリー・ウォークウェイ
Jubilee Walkway
聖ポール大聖堂やトラファルガー広場、バッキンガム宮殿など、ロンドン中心部のランドマークを歩く約24キロメートルのルート。
https://tfl.gov.uk/modes/walking/jubilee-walkway
ジュビリー・ウォークウェイのお勧めコース
Section 3
歴史あるシティを散策
The City Loop
- 総距離 3.3km
- スタート地点最寄駅 地下鉄Bank駅
- ゴール地点最寄駅 地下鉄Bank駅
- ルート バンク駅→ギルドホール→バービカン・センター→聖ポール大聖堂→バンク駅
地下鉄バンク駅からスタートし、シティ内を環状にめぐって戻ってくるルート。歩くだけなら1時間程度で完遂できるので気軽に楽しめる。また、同エリアはビジネス街でもあるため、週末の方が比較的歩きやすい。聖ポール大聖堂など、主要な観光スポットも訪れることができる。
Route E
ジュビリー・グリーンウェイ
Jubilee Greenway
エリザベス女王の即位60周年を祝うダイヤモンド・ジュビリーと、ロンドン五輪を記念して作られた約60キロメートルのルート。ケンジントン宮殿、O2アリーナ、グリニッジ・パークなど主要な観光スポットを歩く。
https://tfl.gov.uk/modes/walking/jubilee-greenway
ジュビリー・グリーンウェイのお勧めコース
Section 1
観光名所をあえてめぐる
Buckingham Palace to Little Venice
- 総距離 6.4km
- スタート地点最寄駅 地下鉄Green Park駅
- ゴール地点最寄駅 地下鉄Warwick Avenue駅
- ルート グリーン・パーク→バッキンガム宮殿→ハイド・パーク→ケンジントン・ガーデンズ→ケンジントン宮殿→パディントン駅→リトル・ヴェニス
バッキンガム宮殿からスタートし、ハイド・パークやケンジントン・ガーデンズなど緑の多い公園を通過後、北上しパディントン駅、そしてリトル・ヴェニスへ向かうルート。名所が多く飽きることはないが2時間30分と意外と歩くのと、日中は人が多い場所なので、午前中の早いうちに歩くのがベターだ。
ロンドンの多様性を深掘り文化や歴史を学べるルート
ロンドンの歴史を歩いて知りたい人に向けたルートを紹介。店の入れ替わりや住宅開発など様変わりしてしまった場所もあるものの、そこも含めて当時の雰囲気を味わってみてはいかがだろうか。
Route A
Theme: LGBTQ+
ソーホーのLGBTQ+の発展を知る
- 総距離 0.7km
- スタート地点最寄駅 地下鉄Piccadilly Circus駅
- ゴール地点最寄駅 地下鉄Piccadilly Circus駅
- ルート ピカデリー・サーカス駅→旧ロンドン・トロカデロ→ダンジー・プレイス(Dansey Place)の公衆トイレ跡地→コンプトンズ→旧トライデント・スタジオス(17 St Anne's Court)
ロンドン中心部ソーホーのオールド・コンプトン・ストリート(Old Compton Street)はここ数十年でLGBTQ+フレンドリーな飲食店やショップが一気に増えたが、その礎は130年前のヴィクトリア朝時代後期から徐々に築かれてきた。1880年代後半に❶ピカデリー・サーカスの大規模な拡張事業があり、それに伴い多数の劇場が新設。同性愛者たちのグループにも密かな社交場ができ、同時に男性専用の売春宿も増えていった。現在映画館のピクチャー・ハウスとなっている場所にはかつて❷ロンドン・トロカデロというバーがあり、おしゃれに着飾った同性愛者たちが訪れていたという。ヴィクトリア朝時代には公衆トイレが設置され、そこで見知らぬ人と性的行為を行うコッテージング(Cottaging)が本格的に始まり、なかでも❸ダンジー・プレイスにあったトイレは特に有名だった。また、❺トライデント・スタジオスでLGBTQ+に関する曲が録音されたりと、ソーホーはLGBTQ+に開かれた場所として知られていく。❹コンプトンズ(Comptons、写真)は現存する有名なゲイ・バーだ。
Route B
Theme: 人権
人権活動家だったイスラム教徒の人生をたどる
- 総距離 2.7km
- スタート地点最寄駅 地下鉄Westbourne Park駅
- ゴール地点最寄駅 地下鉄Westbourne Park駅
- ルート 旧メトロ・クラブ→オール・セインツ教会→旧フリースクール(34 Tavistock Crescent)→旧モスク(33 St Lukes Mews)→旧ランカスター・ユース・クラブ→アル・マナール
1948年にバルバドスで生まれ、80年代に英国の黒人イスラム教徒コミュニティーの形成に大きく貢献したモハメド・カジャ(Muhammad Khaja)の活動と、カジャが影響を受けた場所をめぐる。スタートは若者の黒人コミュニティーとして知られ、当時カジャが働いていた❶メトロ・クラブから。人権活動家でもあったカジャは1965年、❷オール・セインツ教会(All Saints' Church、写真)にて、公民権運動家で米イスラム教導師マルコムXによる、人種差別根絶のスピーチを聴きに訪れたといわれている。その翌年、マルコムXと親交があった英活動家により、イスラム教徒の米ボクサー、モハメド・アリが同地の❸フリースクールへ招待された。青年期にこうした出来事に遭遇したカジャは、生涯をかけて少数派を支援することを誓う。❹モスクでの若者支援、人々の生活スキル向上のための施設❺ランカスター・ユース・クラブ(現Lancaster Youth Hub)を設立。❻現アル・マナール(Al Manaar)、イスラム文化遺産センターとして親しまれたセンターで、さらなるイスラム教の布教に当たった。
Route C
Theme: ポピュラー・カルチャー
ロック・シーンを支えたアーティストを追う
- 総距離 2.2km
- スタート地点最寄駅 地下鉄Tottenham Court Road駅
- ゴール地点最寄駅 地下鉄Bond Street駅
- ルート リージェント・サウンズ→100クラブ→バーウィック・ストリート→旧マーキー・クラブ(90 Wardour Street)→ヘンデル・ヘンドリック・ハウス
英米のロック・シーンを支えたアーティストのゆかりの場所を訪ねるルート。英ロック音楽産業を支えたデンマーク・ストリート(Denmark Street)に、現在はギター・ショップとなっている❶リージェント・サウンズ(Regent Sounds)がある。1980年代までスタジオとして活用され、ローリング・ストーンズの最初のアルバムはここで録音された。❷100クラブ(100 Club)は42年にオープン以来、ダムドやセックス・ピストルズなどが参加したパンク・フェスティバルなど、数多くの伝説的なライブの会場となってきた。現在もオアシスやポール・マッカートニーなどのライブなどが行われている。❸バーウィック・ストリート(Berwick Street)は、今でもレコード屋が立ち並んでおり、この通りはオアシスのセカンド・アルバムのジャケット写真にも使われた。ザ・フーやローリング・ストーンズがライブに使った❹マーキー・クラブ跡地を見たら、米ロック・スター、ジミ・ヘンドリックスが住んでいた建物の隣にある❺ヘンデル・ヘンドリック・ハウス(Handel Hendrix House、写真)でフィニッシュだ。
Route D
Theme: 建築
ジョージアン様式のタウンハウスを見る
- 総距離 0.2km
- スタート地点最寄駅 地下鉄Tottenham Court Road駅
- ゴール地点最寄駅 地下鉄Tottenham Court Road駅
- ルート メード・ストリート→ディーン・ストリート67、68番地→同76番地→同88番地
ロンドン中心部ソーホーにあるディーン・ストリート(Dean Street)は、18~19世紀半ばのジョージ王朝時代に生まれたジョージアン様式のタウンハウスが並ぶ。当時都市部では人口が増加し、長屋形式のタウンハウスが多く建てられた。建物は左右対称を基調としたシンプルなデザインであるものの、本ルートでは建物ごとの意匠の違いを見ることができる。❶メード・ストリート(Meard Street)のタウンハウスは、古代ギリシャなどのデザインにヒントを得た柱付きの玄関が特徴だ。❷ディーン・ストリート67、68番地には、当時高級品だった深紅のレンガが使用され、❸76番地(写真)は、「ゲストは2階でもてなす」という当時一部の人々の間で流行したスタイルを建物構造に反映。同階には大きな窓が使用され、天井が高く作られている様子が外からでも確認できる。❹88番地は1791年に建てられた1階の店舗スペースが当時から維持されている。流行の変化に伴い改装されることが多いなか、このまま残されているのは奇跡といえるだろう。
ロンドンの有名なウォーキング・ルート テムズ・パスを歩いてみよう
テムズ川の源泉、英西部コッツウォルズのケンブル(Kemble)近くからロンドンのシティ空港近くにあるテムズ・バリアまでを結ぶ、全長294キロメートルのテムズ・パス。川沿いを歩く分かりやすいルートである上、観光地も多くウォーキング初心者にお勧めのルートだ。下記の特集では、歩きやすく眺望が楽しめる6ルートを紹介しているので、まだチャレンジしていない人は参考にしてみてはいかがだろうか。
可動式防潮堰、テムズ・バリア
テムズ川を臨むエミレーツ・エア・ライン