先日、2012年ロンドン五輪開会式のテーマが、シェイクスピアの「テンペスト」に基づいた「驚きの島々」となることが発表された。オリンピックというスポーツの祭典を芸術で彩ることで、これまでにない独自性を打ち出そうとする演劇大国、英国の神髄を何より表しているのが、4月から始まる「ワールド・シェイクスピア・フェスティバル」。英国が世界に誇る劇作家、シェイクスピアの作品の数々が英国各地で上演されるという、またとない機会だ。ときに舞台を現代に置き換えて、ときに英語という言語から解き放たれて演じられる名作の数々を、一つならず、興味の赴くままにいくつでも鑑賞してみては?
(本誌編集部: 村上 祥子)
www.worldshakespearefestival.org.uk
名優が魅せるシェイクスピア
King Lear
@Almeida Theatre in London
英米で数々の舞台を踏み、1989年にはミュージカル「ミス・サイゴン」のオリジ ナル・キャストとして活躍。マドンナがタイトル・ロールを演じた1996年の映画「エビータ」では、アルゼンチン大統領のフアン・ペロン役を務めた個性派俳優、ジョナサン・プライスが、4大悲劇の「リア王」に登場。 退位を前に上の2人の娘たちに惑わされ、正直者の末娘を勘当したリア王。後に上の娘たちに裏切られ、孤独の淵をさまようリアの壮絶な晩年を、客席数わずか325という小劇場で演じてくれる。
8月31日(金)〜11月3日(土)£8 〜32
Almeida Theatre
Almeida Street, Islington, London N1 1TA
Tel: 020 7359 4404
www.almeida.co.uk
Timon of Athens
@National Theatre in London
シェイクスピアの本場、英国にあって、シェイクスピア俳優の名を欲しいがままにしている名優、サイモン・ラッセル・ビール。美しい声が紡ぎ出すセリフの数々は、中世の世界を今に甦らせると言われる。そんな彼がこの記念すべき年に演じる作品が、「アテネのタイモン」。他人に気前良く金銭をばら撒くアテネの富裕者、タイモンが、破産と同時に金の切れ目が縁の切れ目とばかりに周囲の人々に疎んじられるようになるという、世界的不況下にある今にあって身につまされる物語だ。
詳細未定(予約開始は4月1日)
National Theatre
South Bank, London SE1 9PX
Tel: 020 7452 3000
www.nationaltheatre.org.uk
地方で楽しむシェイクスピア
West Side Story
@The Sage Gateshead in Tyne and Wear
「ロミオとジュリエット」の戯曲を基に1957年にミュージカル化、1961年には映画化もされた「ウェスト・サイド・ストーリー」。当時の米ニューヨークの少年ギャングの抗争を、スタイリッシュな音楽とシャープな踊りで、悲痛ながらもエンターテイメント色あふれる世界へと昇華させた本作が、イングランド北部を流れるタイン川近くの近代的な文化施設、セイジ・ゲイツヘッドで蘇る。振付は、ロイヤル・バレエ団のダンサーにして数々の舞台作品の振付を手掛けるウィル・タケット。
7月4日(水)〜7月7日(土) £15 〜26.50
The Sage Gateshead
St. Mary's Square, Gateshead Quays, Gateshead, Tyne & Wear NE8 2JR
Tel: 0191 443 4661
http://thesagegateshead.org
What Country Friends Is This?
@Royal Shakespeare Company in Stratford-upon-Avon
近年まれに見る規模のシェイクスピアの祭典。この機会に、ぜひシェイクスピアの生誕地、ストラトフォード・アポン・エイボンで、彼の作品を観劇してみたい──そんな人にお勧めなのが、喜劇「十二夜」のセリフから銘打たれた「What country friends is this?」シリーズ。難破、悲しみ、笑い、愛、そして再会という共通点を持つ3 つの作品、「間違いの喜劇」「十二夜」「テンペスト」を、一つの劇場で、同じ俳優たちが演じる贅沢な三部作だ。
The Comedy of Errors
3月16日(金)〜5月14日(月)/ 7月16日(月)〜10月6日(土)
Twelfth Night
3月8日(木)〜5月15日(火) / 7月12日(木)〜10月6日(土)
The Tempest
3月30日(金)〜5月19日(土) / 7月13日(金)〜10月7日(日)
£12 〜47
* ロンドンの Roundhouseでも上演あり
Royal Shakespeare Theatre
Waterside, Stratford-upon-Avon, Warwickshire CV37 6BB
Tel: 0844 800 1110
www.rsc.org.uk
現代を生きるシェイクスピア
Macbeth: Leila and Ben - A Bloody History
@Riverside Studios in London
主君を暗殺し、自らがスコットランド王の地位に就いたマクベス。しかし、元来臆病な気質の持ち主で、気の強い妻に扇動される一面を持ち合わせた彼は、3人の魔女によるお告げに怯え、次第に圧政を行うようになる……。シェイクスピアの4大悲劇の一つ、マクベスの主人公とその妻を、昨年、「アラブの春」の萌芽が見られたチュニジアの独裁者たちに置き換えて上演する。映像なども駆使した、まさに「今」という時代を体現する新しい「マクベス」となりそうだ。
7月4日(水)〜7日(土) £17.50 〜22.50
* アラビア語上映(英語字幕あり)
* ニューカッスルのNorthern Stage でも上演あり
Riverside Studios
Crisp Road, Hammersmith, London W6 9RL
Tel: 020 8237 1000
www.riversidestudios.co.uk
Romeo and Juliet in Baghdad
@Riverside Studios in London
14世紀のイタリアはヴェロナで、敵同士の家の息子と娘が許されざる恋に落ちる「ロミオとジュリエット」。本作は舞台を現代のイラクに移し、イスラム教シーア派とスンニ派が争い、国民が暴力と復讐の連鎖に疲弊する中で生まれた恋物語を綴っていく。演じるのは、バグダッドのイラク・シアター・カンパニー(Iraqi Theatre Company)。同国の伝統的な詩や音楽を取り入れながら、独自色の強い世界観を構築していく。
6月28日(木)〜30日(土) £17.50 〜22.50
* アラビア語上映(英語字幕あり)
* ストラトフォード・アポン・エイボンの Royal Shakespeare Theatre でも上演あり
Riverside Studios
Crisp Road, Hammersmith, London W6 9RL
Tel: 020 8237 1000
www.riversidestudios.co.uk
Globe to Globe @Shakespeare Globe in London
ワールド・シェイクスピア・フェスティバルの中でも、特に意欲的なプロジェクトと言えるのが、ロンドンのグローブ座で行われる「グローブ・トゥ・グローブ」だろう。シェイクスピアが生きたエリザベス朝時代を今に甦らせる、茅葺き屋根の円形劇場。言わばシェイクスピア演劇の総本山とも言える同劇場では、シェイクスピアの戯曲全37作品が世界各地の37の言語により演じられる。シェイクスピアの戯曲の素晴らしさが語られるとき、その言語的特徴が取沙汰されることが多い。「グローブ・トゥ・グローブ」のユニークな点は、世界各国の言語のまま演じられ、英語のセリフ字幕も付けられないということ。シェイクスピアの言葉の美しさを尊ぶ英国人にとっては、かなり冒険的なプログラムと言えるのではないだろうか。逆に言えば、常日頃は難解なシェイクスピア英語につい尻込みしてしまう我々日本人にとっては、言葉でなく、目や肌でシェイクスピアの作品を楽しむ絶好の機会。本場英国から、昨年誕生したばかりの南スーダンまで、世界のあらゆる国の文化がシェイクスピアという共通項を持ってグローブ座という舞台に集結する、壮大なプロジェクトだ。
料金: £5〜35
Shakespeare Globe
21 New Globe Walk Bankside London SE1 9DT
Tel: 020 7401 9919
http://globetoglobe.shakespearesglobe.com
Multibuys and Rewards Passport
複数回の観劇を計画している人にとってはうれしい、オリンピックにちなんだ割引システム。たとえば全部で3作品(トライアスロン)の予約を一度に行うと、10%割引に、38作品すべて(オリンピアン)を予約するならば、何と50%の割引となる(一部対象外もあり)。割引以外にも、無料ドリンクなどの特典があるので、詳細はウェブサイトをチェックして。
Troilus & Cressida
Ngakau Toa
2002年公開のニュージーランド映画「クジラの島の少女」でマオリ族の族長を演じ、国際的高評価を得た俳優、ラウィリ・パラテーン率いるマオリ族の俳優たちが演じる「トロイラスとクレシダ」。マオリの戦士が戦いの前に踊ったという伝統舞踊「ハカ」や、喜怒哀楽を歌で表現する「ワイアタ」など、マオリの文化をふんだんにちりばめた本作は、世界各国のプロダクションが織り成すシェイクスピアの万華鏡とでも言うべきフェスティバルの幕開けを飾るにふさわしい。
4月23日(月)、24日(火)
Coriolanus
Chiten
日本からこの大プロジェクトに参戦するのは、京都の劇団「地点」だ。代表/演出の三浦基が率いる同劇団は、言葉、音、身体に焦点を当て、ミニマルな舞台づくりを行うことに定評がある。昨年はチェーホフの作品を本場ロシアで上演し、高い評価を得た彼らが演じるのは、「コリオレイナス」。武勲の誉れ高いローマの貴族、コリオレイナスが、傲岸さゆえに民衆の支持を得られず、身を滅ぼしていく様を描いた同作は、2007年に蜷川幸雄演出、唐沢寿明主演でロンドン公演も行われた。
5月21日(月)、22日(火)
Love’s Labour’s Lost
Deafinitely Theatre
グローブ座の芸術監督、ドミニク・ドロムグール氏が、「誰にとっても刺激的で冒険的な演劇体験となる」と胸を張るのが、英国手話(BSL)による「恋の骨折り損」。学問に専念するため、女性断ちを誓った国王とその友人たちが恋に落ちてしまうこの喜劇を演じるのは、ロンドンの手話劇団、デフィニトリー・シアターだ。手話を中心に英語も織り交ぜて数々の作品を世に送り出してきたこの劇団が、名言や言葉遊びの宝庫であるシェイクスピアの戯曲をどのように手話で表現するのか、興味深い。5月22日(火)、23日(水)
Henry VI
Henry VI, Part 1: National Theatre (Belgrade)
Henry VI, Part 2: National Theatre of Albania
Henry VI, Part 3: National Theatre of Bitola
百年戦争、薔薇戦争と国内外の戦いに明け暮れた、ヘンリー6世統治下の英国の様子を描いた史劇「ヘンリー6世3部作」を、セビリア、アルバニア、マケドニアの国立劇場が一作ずつ演じる、その名も「新バルカン3部作」。多民族が混在したことから紛争が続発し、「ヨーロッパの火薬庫」と呼ばれたバルカン半島の3国からやって来るプロダクションが、英国の戦いの歴史をまとめ上げるという、芸術による歴史的作業とも言えるダイナミックな構成となっている。
Part1: 5月11日(金)、13日(日)
Part2: 5月12日(土)、13日(日)
Part3: 5月12日(土)、13日(日)