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Thu, 28 March 2024

英国の口福こうふくを探して

「英国料理はまずい」だなんて、言い古された悪評など何のその。おなじみのものから、意外と知られていないメニューまで、英国の伝統料理やお菓子には、舌が悦ぶものが色々あります。ぜひ一度ご賞味を。


No. 28

フィッシュ・ケーキ
Fish Cakes

Fish Cakes

「ケーキ」という名前を見て「魚のケーキ?」と不思議に思った方はいらっしゃいませんか。魚で作る甘いケーキなんて、簡単には想像がつきませんよね。

私がこの国で初めてこの食べ物の名前を見たときには、お菓子を想像することはありませんでした。その代わりに、「英国でもタイのさつま揚げが気軽に食べられるの? それならうれしい!」と思ってしまいました。というのも、私は「トート・マン・プラー」という名前の、タイ料理に出てくるさつま揚げが大好きなのです。タイでレストランに行くと、外国人用に英語表記のメニューを出してくれるのですが、そこではこのトート・マン・プラーが「フィッシュ・ケーキ」と呼ばれています。タイが大好きで英国に住む前に何度もタイ旅行をしていた私には、フィッシュ・ケーキと言えば、それ。こぶみかんの葉が入った、ちょっとスパイシーなさつま揚げが真っ先に思い浮かんだのでした。

でも、英国のフィッシュ・ケーキはさつま揚げとはちょっと違います(ちなみに英国では、タイ風さつま揚げのことは「Thai Fish Cakes」と呼んで区別しています)。英国風「魚ケーキ」の正体は、いわば魚のコロッケ。主な材料はつぶしたジャガイモと魚肉です。魚はフィッシュ & チップスに出てくるコッドやハドックといった白身魚が昔からの定番。とはいえ、最近ではセレブリティー・シェフたちの影響か、サーモンやマグロを使ったフィッシュ・ケーキも人気です。

基本的には、マッシュ・ポテトと調理した魚の身を細かくして混ぜ合わせ、刻んだハーブなどを加えて塩・胡椒で味付けをし、形作るだけ。魚もポテトも前日の残りもので十分。日本のコロッケは小判型が多いですが、こちらでは円形がお約束です。

調理の仕方は2通りあります。一つはまさにコロッケのよう。外側にパン粉をまぶして油で揚げるタイプです。もう一つは、丸形のケーキ全体に薄く小麦粉をはたき、フライパンで両面をこんがり焼き上げるタイプ。こちらは日本の「おやき」のような見た目になります。

この食べ物についての記録は、19世紀中ごろの書物に出てきています。特によく知られているのが、ビクトリア時代の料理バイブルと言われる「ビートン夫人の家政書(Mrs Beeton's Book of Household Management)」のレシピです。イザベラ・ビートンによるこの料理書は、リンボウ(林望)センセイのベストセラー「イギリスはおいしい」でも何度も言及されているので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。ビートン夫人は優秀な編集者ではあっても、自身は料理家ではなく、著書のレシピもほとんどが過去の料理書からのコピー(盗用)と言われています。とはいえ、現在でも根強い人気を誇る本書で取り上げられたからこそ、この、ちょっと地味だけれど、日本人にはとっつきやすい英国料理が今でも気軽に食べられると思うと、私としては、ビートン夫人に感謝したい気持ちです。

簡単フィッシュ・ケーキ(4人分)

材料

  • 魚(コッド、ハドック、サーモンなど好みで。フィッシュ・パイ用のミックスされた魚パックでも可) ... 450g
  • ジャガイモ ... 450g
  • パセリ(フレッシュのもの) ... 約大さじ2杯分
  • ダブル・クリーム ... 大さじ2杯
  • 塩・胡椒 ... 適量
  • 小麦粉 ... 適量
  • 卵 ... 1個
  • パン粉 ... 適量
  • サラダ油 ... 適量

作り方

  1. ジャガイモをゆでて、柔らかくなったらマッシャーなどを使ってつぶしておく。
  2. フライパンに少量の水を入れて魚を入れ、ふたをして蒸し焼きにする。焼き上がったらさまし、細かくほぐしておく。
  3. ❶と❷にみじん切りにしたパセリ、クリームを加え、塩・胡椒で味を整える。
  4. ❸を8等分して、平たい円型にする。
  5. ❹に小麦粉、溶き卵、パン粉という順番で衣をつける。
  6. フライパンにサラダ油を熱して❺を焼き揚げる。
memo

本文でも触れたように、パン粉を使わずに、小麦粉をはたいてそのままフライパンで焼いてもおいしいです。好みでタルタル・ソースやケチャップを添えても。

 
マクギネス真美マクギネス真美
英国在住の編集&ライター。日本での9年半の雑誌編集を経て、2003年渡英。以降、英国を拠点に、ライフスタイル、ガーデニング、食などの取材、執筆を行う。英国料理の師は義母。
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