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Thu, 26 December 2024

第29回 灰は灰に返らず、商売に返る

ロンドン博物館近くのオルダーズゲート・ストリートに、ロンドン・ハウスという建物があります。そこに1754年、英国名窯のウースター磁器会社(現在ロイヤル・ウースター)の倉庫が出来て、磁器の販売がシティ中心部で催されるようになりました。もともとこの周辺ではファイアンス焼(錫(すず)の釉薬を塗った陶器)が作られていましたが、軽くて硬く、そして輝く憧れの磁器がついに国内産として販売される時代がやって来たのです。

現在のロンドン・ハウス
現在のロンドン・ハウス

磁器「porcelain」の語源は、13世紀末に商人マルコ・ポーロがベネチアに持ち帰った白磁器の光沢が「子安貝=ポルチェラ」に似ていたことに由来します。でも、景徳鎮や伊万里焼に必要なカオリンという鉱物が欧州では見つからず、長らく東洋の磁器は垂涎(すいぜん)の的でした。18世紀に入り、カオリンを使った白磁の生産に成功したのはドイツ・マイセン窯ですが、機密保持のため、開発した錬金術師は死ぬまで工房に幽閉されてしまいます。

初期のウースター磁器
初期のウースター磁器

マイセン窯の成功を聞いて、ポンパドゥール夫人のセーヴル窯、マリア・テレジア帝のウィーン窯、ジノリ侯爵のドッチア窯がその二番手を競います。生き馬の目を抜くような商人の集まりであるシティが黙って指をくわえて見ているわけがありません。シティの長老議員、ジョージ・アーノルドは絵描きのトーマス・フライやガラス商人のエドワード・ヘイリンとともに、シティからすぐ東に位置するボウに磁器会社を設立し、ついに1749年、製造に成功します。

ボーンチャイナの発祥、ボウ磁器
ボーンチャイナの発祥、ボウ磁器

カオリンは当時の植民地、米国カロライナ地方から輸入しました。カオリンが足りない、と作業人が嘆けば、エドワードが「ガラス製造の過程と同じで、陶土に灰を足してみよう。でも、どんな灰を入れるべきか?」と悩みます。とそのとき、トーマスが見上げた窓の向こうに、近所の家畜市場に連れて行かれる大きな牛の姿が見えました。「あ、あれだ。骨ならたくさんある」。

牛
え、僕の骨で?

試行錯誤の末、牛の骨灰を5割近く混ぜた土で焼き上げると東洋の磁器に負けない光沢と硬さ、軽さを作り出せることが分かりました。これが英国ボーンチャイナの発祥です。やがてボウ工房はダービー磁器工房(現在のロイヤル・クラウン・ダービー)に買収され、良質の粘土や石炭が近郊で豊富に採れるウースターやダービー、ストーク・オン・トレントに磁器製造の中心が移ります。そして冒頭の通り、シティに販売拠点を築くわけです。シティでは「灰は灰に」返らず、商売に返り、いつまでもボウっとしていないようです。

ボウ工房があった場所はフラットに
ボウ工房があった場所はフラットに

 

 

シティ公認ガイド 寅七

シティ公認ガイド 寅七
『シティを歩けば世界がみえる』を訴え、平日・銀行マン、週末・ガイドをしているうち、シティ・ドラゴンの模様がお腹に出来てしまった寅年7月生まれのトラ猫


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