26
日焼けは勲章!?
「マミ、いい色に日焼けしているね。うらやましい」。
これまで何度こんなコメントをもらったことでしょう。日焼けしやすいため、たいてい年中キャラメル色なのが私の肌。美白が好まれる日本で、肌色をうらやましがられたことなど一度もありません。それが、英国では度々「ラブリー」などと言われるのですから不思議です。
でも、ある出来事があって、どうやら英国の人々は、日焼けした肌を誇らしく思っているフシがあると気付きました。
十数年前、環境問題に取り組む会社のCEOの方にインタビューしました。気候変動や二酸化炭素排出量規制などの専門用語を英語で全て理解できるのか、ロンドンの金融街にあるオフィスにかなり緊張しつつ向かいました。ところが、CEOの方は会議室に入ってくるなり笑顔で「初めまして。昨日ちょうどホリデーから戻ったばかりなんだ」と気さくに話しかけてくれ、心配だったインタビューは和やかに終えることができました。その日は撮影も私が担当。窓際に立ってもらい、自然光でかなりいい感じのポートレートが撮れました。
翌日、写真の仕上がりを見ながら、顔色を調整していたときのこと。日焼けしたCEOの顔の赤味を減らそうとする私に、隣で作業を見ていた義母が言いました。「あまり赤みを抑えすぎない方がいいかもね」。義母は写真が趣味で、フォトショップも私以上に使いこなしている人とはいえ、不思議なアドバイスです。理由を聞くと「この人はホリデーから戻ったばかりだから、日焼けしていることはむしろうれしいと思っているはずだから」というのです。このとき、英国の人にとって、ホリデーで日焼けすることが、誇らしいことなのだと知ったのでした。
確かに、夏休み後にホリデー(特に海外での)帰りの友人や知人に会うと、たいていの人が日焼けしています。そしてお決まりのように「どこに行ってきたの?」「日焼けして素敵!」という会話が交わされるのを何度も経験しました。
1920年代にファッション・デザイナーのココ・シャネルが、それまで労働者の印とみなされていた日焼けをファッショナブルなイメージに変えたといわれています。ただ、その当時、英国で今ほど日焼けが好まれていたというデータは見つかりません。もう少し後の1970年代後半、地中海地方を中心とした海外でのホリデーの割合が国内旅行を上回ったころから日焼けがホリデーのシンボルになった気がする、というのは義母の説。
いずれにしても、英国では真夏といえども、日本のように日焼け止め用アームカバーを着け、つばの大きな帽子をかぶって街を歩く人はいないことだけは間違いありません。