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赤の他人を「ダーリン」と呼ぶの?
朝のジョギング中、アスファルトを電気ドリルで掘り返している人が、走ってきた私のために仕事を中断してくれました。「サンキュー」と笑顔でお礼を言うと、返ってきたのは「オーライ、マイラブ」という言葉。
「マイラブって? ラブって、Loveだよね? どうして他人の私をラブと呼ぶの?」と、渡英後間もないころの私だったら、頭の中に「???」が並んでいたに違いありません。でも、今では笑顔で受け入れている私がいます。そう、この国では、こんな風に道端で初めて会った見ず知らずの人を「ラブ」と呼ぶのは、決して珍しいことではないのです。それどころか、「ラブ」以外にも、「ダーリン」「ディア」など、全く知らない人に向かって、何だかやけに親しげな呼び方をする人、多数。
工事現場の人だけでなく、タクシーの運転手さんでも、スーパーの店員さんでも、あるいは電車の中で座席をゆずった高齢の女性でも、気軽に「ラブ」と呼び掛けてきます。英国の人々は、こうやって愛称で呼び掛けることで、どうやら相手にフレンドリーさを伝えようとしているようです。
男性だと「メイト」という呼び方をし合っているのもよく見かけます。パブのカウンターで、バーマンに向かって「オーライ、メイト?」と注文の前に話し掛けるのはマナーのようなもの。英国では「元気?」などの挨拶では、必ず「How are you,Mami?」と、名前をつけて言うのが習慣ですが、「メイト」などは、名前を知らない人に対して呼び掛けるのにも便利な呼称というわけです。
とはいえ、これらの呼び方は、もちろん親しい同士でも使われます。パートナー間では「ハニー」「ベイビィ(ベイブ)」、子どもや孫に対して「ダーリン」「スウィートハート」と呼ぶのを聞くことは日常的です。実は、夫や義父が時々、子どもたちを「ペット」と呼ぶのには「子どもは犬猫とは違うのに!」と最初は違和感を感じました。でも、ネイティブ・スピーカーにとっては愛情を表す表現と知ってからは、黙って聞いています。
さて、知らない人同士でも親しみが湧く呼び方として重宝するこれらの愛称ですが、病院やケアホームなどでは使用を禁止すべき、という話題が何度かニュースになったことがあります。看護師や介護士さんが、特にご年配の方(自分より年上の方)に対して「ディア」とか「マイラブ」などと呼ぶと、言われた方たちにとっては、見下されているような気がする場合がある、というのがその理由です。これに対して、ポリティカル・コレクトネスの行き過ぎ、という意見もありましたが、やはり、使う相手や場面には気を付けるべきなのかもしれません。