うわべばかりの日本社会に物申したい映画監督飯塚花笑さん インタビュー
これまでマイノリティーの認知や、多様性の意味を問う作品に取り組んできた飯塚花笑監督が、巡回映画上映会に再登場。最新作「世界は僕らに気づかない」にまつわる想いを語っていただいた。
KASHO IIZUKA 映画監督
1990年生まれ、群馬県出身。トランスジェンダーである自らの経験を元に製作した「僕らの未来」で、2011年ぴあフィルムフェスティバル審査員特別賞を受賞。ロンドン・レズビアン&ゲイ映画祭など国外でも高い評価を得た。大学卒業後は「ひとりキャンプで食って寝る」(TV東京)に脚本で参加。2019 年には「トイレ、どっちに入る?」でフィルメックス新人監督賞準グランプリを獲得。2022年には初の劇場公開作品「フタリノセカイ」が話題を呼んだ。
今回上映される「世界は僕らに気づかない」では、日本にさまざまな人種の人たちが定着していることや、その多様性から起こる問題に焦点が当たっています。今、このテーマを取り上げた理由を教えていただけますか。
今日本では、東京オリンピックをきっかけに「多様性」(ダイバーシティー)を押し進めようという言論が目立ちます。しかし、法的にマイノリティーの存在を認める動きはなかなか進みません。そこで、この言葉は実体を伴ったものなのだろうかという疑問が湧き、こんなうわべばかりの日本社会に物申したいという思いから本作を製作しました。近年セクシュアル・マイノリティーをめぐる状況は大きく変わってきたといえますが、やはり人種の多様性に関してはなかなか議題に挙がりにくいと感じています。本作では日本に定住しているフィリピン人女性やフィリピンと日本人のダブルの方々にフォーカスし、日本の中にいる人種的マイノリティーの存在を明るみに出すことで問題提起になると考えました。そして純悟とレイナというキャラクターが誕生しました。
「世界は僕らに気づかない」の主人公はゲイという設定です。ちょうど10年前の作品「僕らの未来」ではトランスジェンダーをテーマにされていましたが、そのころに比べて日本でのLGBTQの認知は進んだと思いますか。
日本国内でLGBTQをめぐる環境は大きく変化しました。渋谷区がパートナーシップ制度を導入したことをきっかけに大きくメディアに「LGBTQ」というワードが取り上げられるようになり、映像や映画、ドラマの中にも多く表現されるようになりました。LGBTQという言葉が浸透すると同時に、差別や偏見は減少傾向にあると感じています。一方で法的な整備はまだ十分とは言えない状況で、根本的な解決はまだされていないと考えています。
英国、特にロンドンは多様性を尊重している街だといわれます。同地で「世界は僕らに気づかない」が上映される際、観客に作品のどんな点を観てもらいたいですか。
日本の現状を「外側からの視点」で観てもらうことはとても重要だと考えています。中にいては気づかないことも外から客観的に見ることで分かってくることがあります。日本国内で人種の多様性に関して語られない度合いは異常と言ってもいいほどだと考えています。観客の皆さまには、日本の社会の一部で起きていることをまず知ってもらい、どう感じたか、その声をぜひ届けていただきたいです。また、純悟とレイナの親子の関係に注意を払って観ていただければと。2人の出す答えにぜひ注目してください。
次回作は決定していますか。また、今後どのような作品を作っていきたいですか。
次回作ではトランスジェンダーの女性を主軸に据えた、日本の史実を基にした映画を製作します。この映画を世界中の方々に観ていただき、また積極的な議論を皆さんと行っていきたいです。今後は、日本国外で映画製作をしたいと思っています。しいて限定するならニッポン・コネクションでうかがったドイツや、映画祭Qシネマの開催国フィリピンなどですが、日本と国外の違いを肌で感じ、誰かと誰かの橋渡しのような存在となれればと願っています。
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