街は光に溢れ、気分も装いも華やぐこの季節。なかでも目を奪われるのが、年に一度の特別な装飾で個性を競っているデパートのクリスマス・ウインドー・ディスプレイだ。そこで今回は、リバティのディスプレイ製作に携わったロンドンのディスプレイ制作会社に勤める日本人デザイナーを指南役に迎え、製作裏話などを伺いながら、各店の例年の傾向と今年の特徴を探ってみた。いつもとは少し違った視点でウインドー・ショッピングを楽しんでみては?(文・写真: 黒澤里吏)
梶谷典子さん
日本でディスプレイ制作会社に6年勤務した後、来英。語学学校に通っている間にElemental Designにパート・タイマーとして採用され、2006年に労働ビザを取得。以来、同社にてディーゼルやラコステ、スワロフスキー、ルイ・ヴィトンなど、有名ブランド店のディスプレイ・デザインを手掛けている。
ディスプレイ・デザイン会社
Elemental Design
ブリクストンにオフィスを構えるディスプレイ制作会社。社長のゲイリーさんほか5人のデザイナーが常駐しているうえ、ワークショップも併設しており、製作まで一貫して行う。主な取引先は主要デパートや、有名ファッション・ブランドを主とした各種小売店。
(右写真:人懐こいマスコット犬のアウディ君)
www.elemental.co.uk
左写真)今年のカルバン・クラインのクリスマス・ディスプレイ用に製作されたプロップ
右写真)欧州最大規模のショッピング・モール、ウエストフィールドのイメージ・デザインも手掛けた。
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リバティ LIBERTY
Great Marlborough Street W1B 5AH
最寄駅: Oxford Circus駅
1920年代のチューダー様式を再現したエレガントで格調高い建物が目を引くリバティ。ショー・ウインドーは決して大きくないが、例年、独自の美意識を反映させたドラマティックなディスプレイを創り上げている。今年は「サーカス&マジック・ショー」をテーマに、アンティーク調の素材を効果的に配して華やかで耽美的なイメージを演出。
ディスプレイ制作の舞台裏
他のデパートと同様、リバティもトータル・デザインは自社で行っているので、私たちのような制作会社では、リバティから依頼されたプロップ(小道具)を製作したり、イメージに適うものを探して提供したりするのが主な仕事になります。例えば背景に使っている紅白幕(写真1)ですが、「古びたアンティーク調の生地で」という依頼に応えるため、まずはこの柄を編集ソフトのイラストレーターで作り、次に古ぼけた趣を出すためにフォトショップで加工。それを100メートルに及ぶキャンバスにプリントして、さらに紅茶で染め上げているんです。ちょっとした生地なんですが、とても手間がかかっているんですよ。しかも、染色を担当した方がデザイン室で丸々一週間、朝から晩まで作業していたんですが、室内に紅茶の匂いが充満し、気分が悪くなったスタッフが出たため、後半は工場に移動してもらいました(笑)。また、既存のアイテムを使うときは、eBayなどもよく利用します。アンティークの家具などを探すにはうってつけなんですね。クリスマス・ディスプレイは各デパートが総力を挙げて臨みますから、企画から制作、搬入までそれこそ一年がかりの仕事になります。各店とも今、既に来年の企画を練っているところだと思いますよ。
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写真1
ブランコに施されたリボンなど、細部まで徹底的にこだわっている
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写真2
「マネキンが鳥かごから出てくるイメージで」という依頼のもと、製作されたもの。
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写真3
マネキンが座っているマジック・ボックスも同社で製作。
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写真4
スケッチ画
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セルフリッジ SELFRIDGES
400 Oxford Street W1A 1AB
最寄駅: Marble Arch / Bond Street駅
近年ファッション寄りのディスプレイが続いたが、押し寄せる不況の波を吹き飛ばし、よりクリスマスらしさを演出するため、なんと40年以上ぶりにサンタクロースがウインドーに登場。とはいえ伝統的なサンタとは程遠く、床屋にいたり、コインランドリーにいたり、入浴中だったり、はたまた地下鉄でプレゼントを運んでいたりと、まるで身近にいる誰かのよう。総勢200人以上のスタッフが関わったというのも納得の傑作だ。
鑑賞ポイント
セルフリッジはシーン構成が独特ですよね。誰もが経験したことのある日常の場面をお洒落に楽しく演出するのが上手。意外とアイデアは繰り返されていて、見せ方を変えているだけだったりもしますが、何にせよ巧みです。ネオン使いも定番ですね。50年代と80年代をミックスしたようなポップ感があるし、キャッチコピーも冴えています。今年のヒットは地下鉄車両のウインドーかな。奇抜で明快、しかもダイナミックで最高ですね。ぜひ細部まで目を凝らして見てください。
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2006年の作品は、緑をふんだんに用いたイメージ先行型 ディスプレイ。神話上の動物や仮面の人物などを配し、 シュールで童話的な世界を再現した。
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ハロッズ HARRODS
87-135 Brompton Road SW1X 7XL
最寄駅: Knightsbridge駅
例年、この季節に開催される注目イベントとのタイアップ作品が、各3.6×2メートルの巨大なウインドーを飾っている。今年は映画「007 慰めの報酬」がテーマ。映画で使用された小道具や衣装の数々は、実際に店内で商品として売られているものも多く、ボンド・カーとして知られるアストンマーチンも展示。ジェームズ・ボンドの持つセクシーなイメージと、ハロッズのラグジュアリー感が絶妙にマッチしたディスプレイだ。
鑑賞ポイント
2年前の「007 カジノ・ロワイヤル」の公開時は当社がディスプ レイを担当し、カジノの華やかさも相まってパーティー感溢れる装飾でしたが、今回はより洗練されたイメージですね。メイン・モチーフの円形オブジェは短期間しか展示されないのが惜しいほど贅沢なつくりです。ハロッズの顧客は富裕層が主ですから、素材の一つひとつまで本当に気を使っているんですね。ゴージャスでセクシーな「007」のイメージにピッタリだと思います。
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Elemental Designが手掛けた2007年のディスプレイ。ロシアン・バレエとのタイアップ作品でテーマは「ロシアン・クリスマス」。白が基調のピュアでエレガントなイメージ。
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フォートナム&メイソン FORTNUM & MASON
181 Piccadilly W1A 1ER
最寄駅: Piccadilly Circus/Green Park駅
児童文学や童話などから着想を得たドラマティックなディスプレイで毎年話題の的。今年はアンデルセン童話「雪の女王」の幻想的な世界を、手仕事による丹念な装飾で見事に描き出している。店内では12月28日までの毎週日曜に子どものための「雪の女王」朗読会を行っているほか、18日までの毎週木曜夜は「雪の女王カクテル」のつくり方が学べるカクテル教室を催すなど、物語にちなんだ各種イベントを開催中(有料)。
鑑賞ポイント
ロンドンで一番凝ったディスプレイと言っても過言ではない、唯一無比の存在だと思います。シアター・セッティングなどを彷彿とさせるもので、職人の技が全面に発揮されている。ディスプレイというより芸術作品に近いですよね。とても西欧的で、日本ではなかなかできないタイプのものです。ちなみにフォートナム&メイソンは伝統的というイメージが強いし、実際にそうだと思うんですが、クリスマス以外では時々、斬新で奇抜なディスプレイを施したりもしていますね。
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「不思議の国のアリス」の世界を再現した2006年のディスプレイ。ハンドメンドの展示品一式は翌年、オークションにかけられ、約7800ポンドで落札されている。
ハーヴェイ・ニコルズ HARVEY NICHOLS
109-125 Knightsbridge SW1X 7RJ
最寄駅: Knightsbridge駅
モードの最先端をいくハーヴェイ・ニコルズだけに、ファッションとアートを融合させた革新的なデザインで毎年話題を呼んでいる。特筆すべきはアイデアが光るユニークなモチーフ使いと空間使いの面白さ。今年はジュエリーをメイン・アイテムに使った、パーティー気分溢れるディスプレイだ。ウインドーごとにテーマ・カラーが設けられているのも特徴で、お勧めのクリスマス・ギフトが色別に見やすく展示されている。
鑑賞ポイント
ファッション・コンシャスな若者客をターゲットにしているだけに、抽象的なイメージ寄りのディスプレイです。場所柄、バスの中から見ている人も多いので、レイヤーを生かし、遠目からの視線も意識したつくりですね。大胆な構図やドラマティックなマネキン使いも特徴的。マネキンのメイクは通常、専門のアーティストがスプレーなどで施しますが、ハーヴェイ・ニコルズのものは特にカッコいいので、チェックしてみてください。
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2006年のディスプレイ。「Rejoice and Recycle」がテーマだけに、小道具の多くはリサイクル品。普段見慣れている素材を思いもよらない方法で使っていて、まさにアイデア勝ち。
ハウス・オブ・フレイザー HOUSE OF FRASER
318 Oxford Street W1C 1HF
最寄駅: Oxford Circus / Bond Street駅
真っ赤な電飾に雪の結晶で描いたツリーの光がオックスフォード・ストリートでひときわ目を引く本店。ウインドー には同色使いのギフトボックスをランダムに配し、さらにミラーを用いることで奥行き感を出した、高級感漂うディスプレイだ。
鑑賞ポイント
スタイリッシュなOLからファミリーまで、お洒落にそれなりに気を使っている一般客がメインなので、流行を意識してはいますが、マネキンにはメイクを施さず、客層を限定しすぎないように配慮しています。また、ミラー+グロス・ブラック+ゴールドの素材使いは、ディスプレイ業界の秋冬の流行ど真ん中。非常に今年らしいデザインですね。
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デベナムズ DEBENHAMS
334-348 Oxford Street W1C 1JG
最寄駅: Bond Street駅
「英国民に最も愛されるデパート」とも言われる1813年創業の老舗店。今年のウインドーには愛嬌たっぷりのトナカイたちが登場し、ドレッサー、ダイニング、クラビング、家族でのお出掛けなど、クリスマスのさまざまなシーンを楽しく演 出している。
鑑賞ポイント
コンサバ系のデパートだけに、比較的いつも控えめというか、オーソドックスなディスプレイが多いんですが、今年はなかなか遊んでいますね。メイン・キャラクターのトナカイも可愛いし、シチュエーション設定もいろいろなターゲット層に訴えるよう工夫されています。外観のゴールドの電飾もとても奇麗で、存在感抜群ですね。
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マークス&スペンサー MARKS & SPENCER
458 Oxford Street W1C 1AP
最寄駅: Marble Arch / Bond Street駅
今年のクリスマス向けテレビCMではリリー・コールやテイク・ザット、ツイギーなどの有名人を起用しているマーク ス&スペンサー。赤を基調としたウインドー全体に流れるリボンのモチーフが、シンプルなディスプレイに表情を添えている。
鑑賞ポイント
何と言っても家族向けですから、商品がメインで分かりやすい。ある意味、教科書的なディスプレイです。「3 for 2」を大きくアピールしているのも正解ですよね(笑)。とはいえ、一定の高級感を保っていますし、オックスフォード・ストリート店の外観ディスプレイはいつも目を引くつくりです。今年もとてもクリスマスっぽくて素敵ですね。
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コベント・ガーデン・クリスマス・ライト 「コンステレーション」
COVENT GARDEN CHRISTMAS LIGHTS “Constellation”
The Market, Covent Garden WC2
最寄駅: Covent Garden駅
マッシヴ・アタックやU2のステージを始め、ライブ・パフォーマンスにおける視覚効果や建築インスタレーションなど、世界的に幅広い活動を行っている英国のアーティスト集団、UNITED VISUAL ARTISTSが贈る新感覚のインスタレーション。LEDライトが収められた金属製のチューブが天井いっぱいに等間隔で吊られており、星降る夜空のような印象的な光を放っている。また、サウス・ホールの手前に備わったスクリーン・パネルは、金属製チューブのコントローラーになっており、パネルをタッチすることで思い思いに光を操作できる という、画期的な仕組み。このインタラクティブなアトラクションは毎日15:00 / 16:30 / 18:00 / 19:30の計4セッション(各30分間)行っており、誰でも体験可能。ぜひ足を運んでみて。
www.coventgardenlondonuk.com
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