暖かくなってくると、平日でさえ一直線に近場の公園に向かい、
芝生にごろんと寝転がってランチを楽しんでしまう英国人。
彼らはとにかく日光浴+食事という組み合わせが大好きだ。
そんなお国柄もあってか、英国ではピクニックに適した環境やグッズがとても充実している。
せっかくだから、その素敵な文化に便乗してしまおう!ということで、
今回は、歴史からグッズ、休日をのんびり過ごすのに最適な公園まで、
ピクニックを十二分に楽しむための諸々をご紹介。
お気に入りのグッズを片手に、さわやかな夏の英国を満喫しに出掛けよう。
(取材・文: Shoko Rudquist)
意外と知らない
ピクニックの歴史
ピクニックの起源
単純に外でごはんを頂くのではなく、家族や友人らと集って周りの景色を楽しみながらお弁当を広げるいわゆる「ピクニック」が、いつ頃から人々の生活に定着したのか、ご存知だろうか。実はこの風習、17世紀のフランスで生まれたと言われている。ピクニックに関する記述が確認された最も古い印刷物は、1692年に発刊された「Origines de la Langue Françoise」。フランス語で「pique-nique」と呼ばれた、屋外で食事を楽しむこのスタイルは、時を経て英国にもやってきた。18世紀半ばのことだ。
その文化は、19世紀に入って花開く。19世紀初頭には、当時のロンドン社交界の花形たちによる、ピクニックを楽しむためのサークル「ピクニック・ソサエティー」も誕生した。ちなみに、彼らが出会い、このサークルが誕生するきっかけとなった場所は、当時ロンドン中心部のオックスフォード・ストリートにあった、「ザ・パンテオン」と呼ばれた劇場。今日この跡地に立つのは、老舗スーパーマーケットの「マークス & スペンサー・パンテオン支店(173 Oxford Street W1D 2JR)」だ。
ピクニックを知り尽くしたF&Mの専属歴史家
アンドレアさんにインタビュー
英国でピクニックがどう発展したのかを知るため、英国内で最も古いピクニック・ハンパー販売の歴史を誇る英国王室御用達デパート、「フォートナム & メイソン」(以下、「F&M」)の専属歴史家、アンドレアさん(右写真)にお話を伺った。
まず、この「ハンパー」なる単語、英国に来て初めて耳にしたという人も多いはずだ。ハンパーとは一体、何なのだろう。
「元来はウィッカー(籐など、植物性の繊維)を編んだ籠のことをそう呼んでいました。ですが時間とともに、ピクニック用の食器や食料を詰める籠のことを指すようになったとされています。英国ではもともと、玩具やリネンの収納、また旅行かばんとして使われることが多かったのですが、F&Mでも、やはり当初は顧客の旅行用収納ケースとして売られていました。現在の形のハンパーの販売が開始されたのは、1738年のこと。当時、英国全体で数百家族ほどしかいなかった支配階級の人々を顧客としていた当店に、コーンウォールやバースといった地方の邸宅に向かう顧客から、『食料品などを詰めて持ち運べる籠が必要だ』という声が寄せられたのが始まりでした。ただ、当時はまだ、外で食事をとるという行為は労働者たちが行うこととみなされていて、上流階級の間ではありえないこととされていましたね」。
1848年のピクニックの様子。当時の3D映像とも言える「ステレオスコピック」の手法で撮影され、色づけされている。若干違う角度から撮られた2枚の画像は、専用の特殊なめがねをかけて見ると、画像が浮き上がって立体的に見える
上流階級ではありえなかった外での食事。ところがフランスの影響もあり、19世紀半ばに差し掛かる頃には、にわかにピクニック熱が盛り上がる。ロンドンで「ピクニック・ソサエティー」が活動していたのもこの頃だ。それでは、英国に広がり始めたピクニックとは、どのようなものだったのだろうか。
「ちょうどヴィクトリア朝時代に当たるこの時代、ピクニックは特権階級の人々が郊外の邸宅の庭などに集まり、食事を楽しむためのものとなっていました。持ち寄られる食事の内容は、パンにバター、ハムやチキン、ハード・チーズ、サラダ、『ホット・ウォーター・クラスト』と呼ばれる英国ならではのパイ生地を用いたポークやキジのパイ、桃やぶどうなどのフルーツや、乾燥フルーツがぎっしり詰まったケーキ、『スモール・ビアー』と呼ばれたアルコール度の低いビールの一種など。かなり豪勢ですよね。ポート・ワインやシェリー酒といった甘めのお酒も好まれたようです。
当店で扱っていたハンパーは、当時庶民に人気のあった風刺漫画雑誌「PUNCH」の誌面にも登場したことがあります。クーラー・バッグなどない時代ですから、内部に藁を敷き、バターは冷たいレタスの葉に包むなどして温度調節を工夫しました。また、携帯用として最適な竹を使った使い捨てのカトラリー類を開発したり、今ではすっかりおなじみとなった、ひき肉でゆで卵を包み丸い形に整えた「スコッチ・エッグ」を生み出したのも当店なんですよ。
19世紀も終わりに近づくと、競馬やポロといった屋外のスポーツ観戦時にもピクニックが楽しまれるようになりました。20世紀初頭には車の利用も増え、トランクにぴったりはまる仕様のハンパーなども多く生産されるようになったのです」。
F&Mでは現在も様々なハンパーを販売中。
www.fortnumandmason.com
こうして、私たちの生活に浸透していったピクニック。次は理屈抜きに、ピクニックに持って行きたいグッズの数々をご紹介していこう。
これ一つで準備完了!
こだわりの、食事付きハンパーいろいろ
The Goodwood £55
www.britishfinefoods.com
「ベスト・フード・メールオーダー」に選ばれた実績を持つ食品サイトが監修。新登場の「ザ・グッドウッド」には、様々なフード賞に輝いた選りすぐりの食品が詰まっている。
http://london.langhamhotels.co.uk
ピクニック用のラグまで付いた、正統派アフタヌーン・ティー・メニュー。ホテルの宿泊とハンパー、リージェンツ・パーク野外劇場のチケットがセットになったパッケージも。
www.daylesfordorganic.com
オーガニック・カフェを展開する「デイレスフォード」では、電話(0800 083 1233)又は店頭で選んだものを籠に詰めてハンパーにしてくれる。料金は内容によって異なる。
www.carluccios.com
ロンドンに多くの店舗を展開する「カールッチョズ」からは、フォカッチャやパスタ・サラダなどが詰められた、イタリアンなハンパーが登場。キッズ用やベジタリアン用も扱っている。
300 Oxford Street, London W1A 1EX
庶民派デパート「ジョン・ルイス」オックスフォード・ストリート店のフード・ホールでは、店内の「ウェイトローズ」で購入した食品をハンパーにしてもらえる。値段は内容により異なる。
かわいくて便利!
ピクニックをより楽しむためのグッズ紹介
王道ハンパーから屋外用ゲーム、そして雨の多い英国には欠かせない防水グッズまで……。どこへでも、何度でも連れて行きたいピクニック・グッズをテーマ別にご紹介。
Gordon Picnic Hamper
(4人用)£250
これぞ英国のピクニック、シンプルな食器がセットになったクラシックなハンパー。英国にいる間に、一つぐらいは手に入れたい?
www.fortnumandmason.com£99
ハンパーを専門に扱う「オプティマ」社は、レトロな缶の容器に英国らしい花柄の食器が映える、ロマンティックなモデルも展開中。
www.selfridges.com *Tweed Throw
£130
英国でピクニック・ブランケットと言えば、カシミヤの老舗ジョンストン。同ブランドの品はフランス皇帝ナポレオンも愛用していたとか。
www.johnstonscashmere.com(4人用)
£105
ステンレスのカップやまな板まで付いた本格セット。普通のバックパックと変わらぬ見た目も、運ぶ男性にはありがたい!?
www.johnlewis.com£55
飲み物を詰めるとずっしりと重くなってしまうクーラー・バッグは、男子でも文句を言わないデザインのものをセレクト。
www.cathkidston.co.uk(防水)
£25
雨の多い英国では、当日晴れても、前日の雨で芝生が若干湿っているなんていうことも。防水仕様のブランケットなら安心。
www.johnlewis.comFlatpack Picnic Set
£15
ピクニック後は身軽に帰りたいなら、すべてが紙や木でできたハンパーをチョイス。ラブリーな柄付きなら気分も盛り上がる。
www.cathkidston.com(保冷剤付き)
£15
お弁当用のクーラー・バッグは、デザートやドレッシングを冷たいまま持って行きたいときにも大活躍。保冷剤も付いて万全。
16a Neals Yard WC2H 9DP*£39.95
これさえあれば子供が退屈してしまう心配なし!? 数種の屋外用ゲームがセットになったキット。
www.selfridges.com *Bright Ice Cream Bowls with Spoons Set
£8
ハンパーに意外と含まれていないのが、深さのあるボウル。お皿を安定させて食べるのが苦手な子供たちでも、これなら大丈夫そう。
www.selfridges.com *£7.99
使い捨てのコンロがあればバーベキューもできる。ただし芝生の上で使うと、芝生がそこだけ焦げてしまうこともあるので要注意。
www.waitrose.co.uk **が付いているのは、主な販売サイト / ショップ
グッズやお弁当の準備ができたら
お気に入りのピクニック・スポット探し
納得のいくグッズとお弁当の準備が整ったら、後は好みのピクニック・サイトを探すのみ。ロンドンには、趣の違う公園が街中や郊外に点在する。それぞれの特徴を吟味して、お気に入りのスポットを見付けよう。
Kenwood House
ケンウッド・ハウス
Hampstead Lane, London NW3 7JR
020 8348 1286
Archway駅からバス
www.english-heritage.org.uk/
ロンドン北部にある広大な公園ハムステッド・ヒースの、北端にあるエリア。「ケンウッド・ハウス」とは、この小高い丘の上に立つ、素朴ながらも洗練されたカントリー・ハウスのことだ。歴史的な重要建築物として国に登録されており、クリーム色のすっきりとした外観や、テラスに置かれた鉄製ベンチなどが、建てられた17世紀当時の穏やかな暮らしを彷彿させる。
そんな美しい邸宅が佇む優雅な丘は、少し大人びたピクニックにぴったり。読みかけの本と軽食を用意して、のんびりくつろぎに出掛けたい。読書に飽きたらケンウッド・ハウスに入館し、品良くこざっぱりとまとめられた落ち着いた内装や壁の絵画を鑑賞してもいいだろう。建物を出てすぐの広場は、緑に囲まれた屋外型カフェになっており、オーガニックの軽食やスイーツもいただける。地下鉄の駅からバスと、たどり着くには少々根気を要するものの、不便さを差し引いても十分な魅力のあるピクニック・サイトだ。夏の間は、日替わりで様々なゲストが登場する「ピクニック・コンサート」も催される。
The Regent's Park
ザ・リージェンツ・パーク
London NW1 4NR
020 7486 7905
Regent's Park駅より徒歩5分
www.royalparks.gov.uk/
ロンドンの街中で、週末の一日を目いっぱい効率良く楽しみたければこちら。まっすぐに伸びる並木道、その数3万本という色とりどりのバラが咲き乱れるローズ・ガーデン、運河、スポーツ広場、そして見事なイングリッシュ・ガーデンと、様々な要素が詰まった公園だ。広過ぎることもないので、お隣のグループとちょうど良い距離を保ちつつもアクティビティーのエリアは共用するような、和気あいあいとしたピクニックが楽しめる。ゾーン1内に位置し、駅からも徒歩数分。気まぐれなお天気に振り回されがちなロンドンでは、思い立ったらすぐに行けるという利便性もうれしい。
毎年5〜9月にかけては、園内の野外劇場で演劇やオペラが催されることでも有名。ほかにも無料のコンサートや大型イベントが多数、開催され、ピクニックがてら楽しめる。また、19世紀初頭の建築家/都市計画家ジョン・ナッシュが手掛けた建築物も、公園内や周辺に点在。リージェント・ストリートやトラファルガー広場を設計、「外観の建築家」とも呼ばれたナッシュによる優雅な建物をのんびり眺めて回るのも悪くなさそうだ。
Morden Hall Park
モードン・ホール・パーク
Morden Hall Road, London SM4 5JD
020 8545 6850
Morden駅より徒歩5分
www.nationaltrust.org.uk/
広い丘陵がどこまでも続き、小川や湖、静かな木立が続く公園。まるで森のような「モードン・ホール・パーク」は、英国の歴史的建築物を保存・管理する「ナショナル・トラスト」所有の公園の一つだ。ただし手付かずの自然ではなく、小川には白く塗られたアイアン・ワークの麗しい橋が掛かっていたり、レンガ製の水路があったりと、人の気配が感じられる造りになっている。ゾーン4と、都心からは若干離れた地区にあるものの、地下鉄ノーザン線の南の終点モードン駅から徒歩で5分ほどと、公共交通機関ですんなり行くことのできる地の利も、車を持たない人間にとってはありがたい。
実はこちらの公園は、1922年までは嗅ぎタバコ工場があった場所。当時のオーナーの邸宅は、今も園内に佇んでいる。また、その広大な土地を利用したフットパスや乗馬のコースがあるのも特徴だ。事前に申請すれば釣りもできるので、お父さんも喜びそう。ゲート付近にはカフェやガーデン・センターも併設。鉢植えを一つ購入すれば、楽しかった一日の思い出をお持ち帰りしたような気分になれそうだ。
Greenwich Park
グリニッジ・パーク
London SE10 8QY
020 8294 2548
Cutty Sark for Maritime Greenwich駅より徒歩5分
www.royalparks.gov.uk/
ちょっぴりアカデミックなピクニックがお好みなら、こちらの公園へ。言わずと知れた「グリニッジ標準時」における経度0度の地点である「グリニッジ天文台」のある公園だ。歴史に残る天文学者や物理学者たちが行き来したこの場所では、まっすぐに伸びて数学的な模様を描く公園の通り道も、その学術的な背景を思い起こさせる。天文台のある丘から眼下を見れば、厳かな国立海事博物館の建物の背後にロンドンの町並みがどこまでも広がり、気分爽快。天文台には時計や天文学の博物館、プラネタリウムも併設されており、子供たちの知的好奇心をそそりそうだ。
Kensington Gardens
ケンジントン・ガーデンズ
London W2 2UH
020 7262 5484
Lancaster Gate / Queensway駅から徒歩1分
www.royalparks.gov.uk/
ハイド・パークの西に位置する「ケンジントン・ガーデンズ」。ヴィクトリア女王(当時は王女)や故ダイアナ元妃なども居住したケンジントン宮殿を有するだけあり、数ある王立公園の中でも群を抜いてエレガントなことで知られている。19世紀初頭までは、単に園内を散歩するだけでもドレス・コードがあったほどだ。「王室の庭」と呼ぶにふさわしい園内は、隅々まで手入れの行き届いた見事な芝や植木、瀟洒な噴水が配置された、絵に描いたような中世の佇まいを今も保っている。ここでは、クラシックな正統派ピクニックを楽しみたい。
Alexandra Palace
アレクサンドラ宮殿
London N22 7AY
020 8365 2121
Alexandra Palace駅より徒歩5分
www.alexandrapalace.com
使える車があるのなら、都心から少々離れた、こんな宮殿の庭でのピクニックはどうだろう。1873年に起こった火災の後、市民のレクリエーション・センターとして再建されたアレクサンドラ宮殿は、今日も、アンティーク・フェアなど大型イベントの会場として利用されている。高台にある広大な敷地内には、ボートが楽しめる湖、鹿を観察できるミニ動物園などもあり、事前に予約すればゴルフも可能。また、ロンドンでは珍しい、一年中滑れるアイス・スケートのリンクも。ピクニックのついでに様々なアクティビティーを楽しみたい、欲張りさんに。