7月末の開幕が迫るロンドン五輪。その主な舞台となる
ロンドン東部ストラトフォード周辺では、開会式が行われる五輪スタジアムや
巨大ショッピング・センターの建設など、着々と準備が進められている。
その様子をもっと知るため、これらの五輪施設を巡るガイド・ツアーに参加した。
その体験記をお楽しみあれ!(取材・ 執筆: 小原祐一)
ロンドン五輪会場見学ツアー
南歩きツアー
Daily Olympic Walk
毎日11:00から約2時間
(火・金には13:30から始まるツアーも)。
集合場所: Bromley-by-Bow駅
北歩きツアー
The Other Extended Olympic Walk
水・土・日の13:45から約2時間
(2月の第3週は毎日開催)。
3月31日まで実施。
集合場所: Leyton駅
大人 | 9ポンド |
15歳以下の子供 | 5ポンド |
65歳以上と学生 | 7ポンド |
日本語ガイドを利用したい場合
www.blue-badge-guides.com にアクセスし、ページ上部の「Find A Guide」をクリック。
地域をLondon、言語をJapaneseとし、興味を「2012 venues」として検索する。
ツアーを担当するのは、「ブルー・バッジ」という公式資格を持つガイドさんたち。養成コースに通って試験に合格後、さらに2年間の実践訓練期間を経て初めてこの資格を得ることができる。
1. 国際放送メディア・センター(IBC / MPC)
The International Broadcast Centre / Main Press Centre
五輪開催中のメディア本部。ケータリング施設に加えて、銀行、旅行代理店、郵便局としての機能をも担う場所となる。昨年7月には既に建設が完了しているのだが、プレハブが並ぶだけの簡素な造りから「ここが放送局なのか?」と思わせるような一角も。
2. ベロドローム
Velodrome
自転車競技場。外観が似ていることから、スナック菓子の「プリングルス(下写真)」が愛称として付けられている。北京五輪にて3冠を達成したクリス・ホイ選手を始めとする英国代表選手に、金メダルの期待がかかる自転車競技種目。競技場を奇抜な形にして、この種目に注目を集めようとした、とはガイドさんの弁。五輪後はやロード・サイクル用のサーキットなどを新たに追加し、複合スポーツ施設として運営される予定だ。
3. リー川
River Lea
元々は流れの激しい川で洪水の危険もあったが、水門が設置されてからは運河となった。また周辺地域が産業用地としても使われた名残で汚染がひどかったものの、五輪開催地となることが決まった後に大規模な浄化作業が2年間かけて実施された。
五輪パークの開発に当たり、景観保持やクリーン・エネルギー利用への移行のため、敷地内にあった送電タワーをすべて撤去し、地下ケーブルに切り替えた。従来であれば10年はかかると言われていたこの工事、たった18カ月で完了したそう。仕事に緩慢なイメージのある英国人も本気になった?
4. ハンドボール・アリーナ
Copper Box
ハンドボールの試合に加えてフェンシングの練習場としても利用される。建設にリサイクルされた銅が用いられたことから、カッパー(銅)・ボックスとも呼ばれる。観客席を移動可能な造りにしたことで、国際選手権のような大イベントから、地域のスポーツ大会のような小さなイベントまで幅広く利用でき、持続可能性を備える。
5. ビュー・チューブ
View Tube
五輪パーク周辺の施設や跡地の利用法について、写真とともに解説している簡易博物館スペース。これまた「環境配慮」から、リサイクルされた配送コンテナで造られている。隣にはカフェや五輪グッズを販売するショップもあるので、ツアー後に休憩のため立ち寄るのも良いだろう。
五輪会場周辺にある数々のアートを堪能するのも、ロンドン五輪を楽しむ方法の一つ。ツアー中には五輪パークを取り囲む外壁のペイント、虹色のフェンス、ショッピング・センターのウェストフィールド内にあるオブジェ、ビュー・チューブの作品群などが楽しめる。
6. 五輪スタジアム
Olympic Stadium
ツアー最大の見所。ツアーでは内部に入ることはできないが、外から眺めるだけで圧巻。環境に配慮して、上部の白い骨組みには建設で余ったガス・パイプが再利用されている。また競技場の屋根は全体の3分の2までしか閉じることができない。これは、陸上競技種目において屋根を完全に閉じてしまうことで室内参考記録扱いされないようにとの配慮から。大会後もこのスタジアムは残されるが、観客席は縮小する計画。上部の観客席5万5000人分のスペースは他施設での転用を検討しているそう。
ガイドさんの話によると、最少の工事で作り上げた最小限のスペースに、より多くの観客を収容する狙いから、五輪スタジアム内には飲食施設が一切設けられていない。会場の敷地面積は4年前に行われた北京五輪の3分の1だが、同じ数の観客を収容することが可能になっている。
7. イートン・マナー
Eton Manor
車椅子テニスの会場。かつてはスポーツ・センターとして利用されていたが、2001年から使用が途絶えていた。内部には2つの大戦における戦没者記念碑が立つ。また敷地内には、選手向けに練習用のプールも併設。大会終了後には、ホッケーなど多種目に対応した複合スポーツ施設として利用される。
8. バスケットボール・アリーナ
Basketball Arena
選手村とベロドロームとの間に位置する。パラリンピックの際には、12時間以内で車椅子バスケットボール・コートから車椅子ラグビー競技場へと様変わりさせる予定。大会後の解体も決定しており、最も変化の激しい場所かも。
9. オリンピック・パラリンピック選手村
Olympic and Paralympic Village
つい先日、工事が完了したばかりの選手村。1万7000人が利用可能なこの建物群、遠くから見ると何の変哲もない住宅街だ。ガイドさんの説明によると、効率的な建設を目指した結果、この住居施設にはキッチンがないとのこと。部屋のイメージとしては、今や世界中で利用可能な簡易ホテル「ホリデー・イン」の一室に似た造りをしているそうだ。五輪終了後は2800戸の住宅として生まれ変わる予定。
ロンドン五輪における3つの理念: 1つ目は「環境配慮」。会場内で再生エネルギーを利用したり、建築物にリサイクル素材を用いたりなどの取り組みが見られる。2つ目は「地域の再生」。産業用地として利用されてきたロンドン東部ニューアム地区にメイン会場を置くことで、同地域の再生を目指している。3つ目は「持続可能性」。過去の五輪では、巨大施設が後に地域のお荷物的存在になることが珍しくなかった。そこでロンドン五輪では、大会終了後の使用を視野に入れた建設計画を用意。国民の税金で賄う予算の75%が跡地利用関連に費やされるそう。
10. ウェストフィールド
Westfield Stratford City
南歩きツアーのゴール地点。ロンドン五輪計画に合わせて建設された巨大ショッピング・センターであり、その規模は欧州最大級。五輪開催中は、ストラトフォード駅を降りてから会場に到るまでの通路となる。またデパート「ジョン・ルイス」の最上階には、五輪パーク観覧ポイントが設けられている。
11. ストラトフォード駅・ストラトフォード国際駅
Stratford / Stratford International
五輪をきっかけに拡張工事が実施された。ストラトフォード駅にはナショナル・レール、DLR、地下鉄、オーバー・グラウンドが発着、また前者2線の停車駅となるストラトフォード国際駅からは、日立製の高速列車「ジャベリン」が運行する。ジャベリンは、セント・パンクラス駅から片道5ポンドで乗ることが可能。
ガイド・ツアー中、敷地付近を通る車の所持品検査が行われていた。警察犬も待機しており、警備に気を使っていることが分かる。大会中、観客は、ストラトフォード駅を始めとする限られた場所からしか敷地内に入ることはできない。
12. アクアティック・センター
Aquatics Centre
五輪スタジアム近くに位置し、美しいカーブを描いたフォルムが目を引くプール施設。観客席が設置された両脇がウイング状になっている。観客席は五輪終了後に解体されることになっており、施設自体は地域住民などが利用可能なプールとして残る予定だ。(写真左下)
13. 水球アリーナ
Water Polo Arena
水球場。この施設がアクアティック・センターのすぐ隣に位置するのは、省スペース、工事の効率化を意識してのこと。記者席・ケータリング・警備システムなどを両施設で共有している。なお、この施設は大会後に解体されるが、部分的にほかの場所で再利用できないか検討中。(写真右下)
競技場、選手村など五輪パーク内で利用されるエネルギーの20%は、新たに敷地内で建設・運営される専用施設から供給する予定。バイオマス、風力など再生可能エネルギーを中心に生産する。
14. オービット・タワー
Orbit Tower
約115メートルの高さを誇る、五輪を象徴するモニュメント。赤いパイプが入り組んだデザインが印象的だ。中心には銀色のらせん階段があり、上部から五輪パークを見下ろすことができるようになっている。タワー内には最大700人が収容可能で、最上部にレストランを作る計画もあるそう。五輪後は地域のシンボルとして残すという。将来は第2のビッグ・ベン的な存在となるか。
オービット・タワーに1600万ポンド(約20億円)を出資したのは、インド系の鉄鋼企業ミタル・スチール。またデザイナーはロンドン在住の有名な現代美術家アニッシュ・カプーアである。下水システム用のパイプをどうタワーに組み込むかが建設上の課題だったとか。五輪会場のモニュメントへの出資やデザインを他国の企業に任せてしまうところに英国のビジネス風土を感じる。
15. アビー・ミル・ポンピング・ステーション
Abbey Mills Pumping Stations
ツアー中に頭部分だけが見えるこの建物、別名を「下水大聖堂」という。建物の外観は聖堂のようだが、実はロンドンの下水処理を行う施設。過去にはスチーム・エンジンの力で下部の汚水を汲み上げていた。1933年までは大きな2本の煙突が脇に立っていたが、第二次大戦を前に敵の標的とされることを恐れて解体されたとの逸話も。
Photo: ①⑤⑩⑭ Yuichi Ohara / ②④⑥⑦⑧⑨⑪⑫⑬⑮ London 2012