トード・イン・ザ・ホール
Toad in the Hole
「イートン・メス」「ウェルシュ・レアビット」「バブル&スクイーク」。これまでこのコラムで紹介してきた料理の名前を見ると、英国人のネーミングのセンスに感心します。どれも、どんな食べ物かすぐにイメージできません。でも、その分、想像力がかき立てられ、食べる楽しみ(不安?)も膨らみます。
そして、今回のテーマである「トード・イン・ザ・ホール」は「穴の中のヒキガエル」。フランスや中国を始め、いくら世界中にカエルを食する文化があるといっても、この名前は衝撃的です。初めて食べるのには勇気が要ります。と言っても、ご心配なく。ウェルシュ・レアビットにウサギが入っていないように、この料理にヒキガエルは入っていません。出てくるのは、ヨークシャー・プディングのベッドに横たわる英国名物のむちむちソーセージ。「The Diner's Dictionary: Word Origins of Food and Drink」という書物によれば、18~19世紀にはソーセージではなく、様々な肉の切り身(食べ残し部分)が使われていたそうですが、今ではこの料理にはソーセージを用いる、というのが一般的です。さて、考えてみればヨークシャー・プディングも英国ソーセージも、日本ではほとんどお目にかかれない、いわば究極の英国フード。ヨークシャー・プディングは、ロースト・ディナーの付け合わせに欠かせない、シュークリームの皮のようなもの。そしてソーセージは、日本で人気のあらびきウインナーとは似ても似つかぬ、太くてコシのないふにょふにょタイプ。しかし、この2つがオーブンの中で出合って出来た料理は、まさに「口福」と呼ぶにふさわしいコンフォート・フードです。じゅわり、とソーセージから出てくる肉汁を、さくっとした生地が受け止め、その両者にオニオン・グレービーがからみついたひと口。それは、普段よりも5回ほど咀嚼回数を増やしてから飲み込まないともったいないような、しみじみとした味わいです。
グレービーを別にすれば、材料はソーセージと小麦粉、卵、塩、ミルクのみ。料理法はオーブンに入れて待つだけ。これまた英国料理お得意のシンプルなレシピです。注意すべきは、調理皿には十分な量の油をひき、熱々にすること。でないとヨークシャー・プディングがうまく膨らまない上、器にくっついて、取り分ける際、ぐちゃぐちゃになるという悲劇に見舞われます。また、ソーセージはチポラータと呼ばれる細めのものではなく、普通サイズ(英国基準)を使用しましょう。細いと火が通りすぎてパサパサしてしまいます。そして、出来上がったら即座に食べるべし。熱々を食べるのがおいしいというのはもちろんですが、もたもたしていると、膨らんだはずのヨークシャー・プディングがへたり気味に。穴の中というより、地面の上のヒキガエルになってしまいます。
トード・イン・ザ・ホール ー お手軽バージョン
(2〜3人分)
材料
- ソーセージ ... 6本
- 卵 ... 2個
- 小麦粉 ... 120g
- 塩 ... ひとつまみ
- 牛乳 ... 300ml
- サラダ油 ... 大さじ3
作り方
- オーブンを220℃に予熱する。
- ボウルにふるった小麦粉と塩を入れて混ぜ、そこに解きほぐした卵を加えてさらに混ぜる。
- ❷に牛乳を少しずつ加えながらよく混ぜる(ダマができないように注意)。
- 耐熱容器にサラダ油をひき、ソーセージを並べてオーブンで10分加熱する。
- ❹に❸で出来たヨークシャー・プディングの生地を流し入れ、オーブンで30分ほど焼く。
memo
玉ねぎ、赤ワイン、ビーフストックと塩・胡椒で作るオニオン・グレービーを合わせるのがお勧めですが、そのままでも、チャツネを添えて食べてもおいしいです。