ニュースダイジェストのグリーティング・カード
Mon, 18 November 2024

英国の口福こうふくを探して

「英国料理はまずい」だなんて、言い古された悪評など何のその。おなじみのものから、意外と知られていないメニューまで、英国の伝統料理やお菓子には、舌が悦ぶものが色々あります。ぜひ一度ご賞味を。


No. 72

マッシー・ピーズ
Mushy Peas

Mushy Peas

「野菜だからヘルシーっぽさが加えられる」という思惑と、皿に色味を添える、といった目的のためにあるとしか思えない、まるで刺身のツマのような存在の「マッシー・ピーズ」をご存知でしょうか。そうです、フィッシュ&チップスの付け合せに出てくる、鈍い緑色をした「どろどろになったエンドウ豆の煮物」です。

「名前は知っているけど、食べたことがない」というアナタ、分かります、分かります。レストランで頼んだフィッシュ& チップスに半ば強制的に添えられてきた場合を除いて、テイク・アウェイの店でサイド・オーダーのオプションにこれがあっても、わざわざ頼む日本人は少ないはず。

私自身、1度か2度は口にしたことがあったはずなのに、この液体とも個体とも言えない緑の添え物に関心を持てず、「柔らかめのマッシュポテトとグリーンピースを混ぜたもの」などという勝手な解釈をしていたのです。

ところが、英国料理についてリサーチしていたとき、この思い込みが間違っていたことに気付きました。

イングランド北部が発祥といわれるマッシー・ピーズ。グリーンピースとバターを使ったレシピを紹介している有名シェフが少なくないのですが、本来、調味料を除けば、乾燥したマローファットという豆だけを使って作ります。日本の青エンドウ豆がその正体。

今まで気にもとめていませんでしたが、確かにスーパーで、この豆が売られています。また、缶入りのマッシー・ピーズも棚にずらりと並んでいます。となれば、もちろん、食べ比べをしない訳にはいきません。

買った乾燥豆は、青い箱に入ったバチェラーズというブランドの250g入り。説明書に従い、豆をお湯に一晩浸しておきます。このとき、重曹を加えるのが一般的なレシピなのですが、この商品には重曹と炭酸ナトリウムの混ざった白い錠剤が付いてきます。なので、それをお湯に混ぜて豆を浸します。翌日、ふやけた豆をよく洗い、水を入れて20分ほど煮込むだけ。そして! 調理の途中でマッシー・ピーズの真実が明かされます。というのも、わざわざ押しつぶしたりせずとも、豆が自然に煮崩れ、あのどろどろとした物体が湧き上がってくるのです。木のしゃもじで混ぜていると、童話に出てくる魔女にでもなった気分です。

味付けは塩と少量の砂糖。熱々を口に入れると……、何と、うぐいす豆ではありませんか! 豆は原型をとどめていませんが、砂糖の量を増やせば、紛れもないうぐいす豆です。

缶入りの方はバチュラーズとハリー・ラムズデンという2ブランドを試しましたが、意外にも(?)両者ともに乾燥豆から作ったものと遜色なし。豆のつぶれ具合で言うと前者がこし餡、後者が粒餡といった感じ。こうなったら、英国のマッシー・ピーズを使って、うぐいす餡パンを作るしかなさそうです。

マッシー・ピーズの作り方

材料

  • 乾燥マローファット豆 ... 1箱(250g)
  • 塩 ... 適量
  • 砂糖 ... 適量

作り方

  1. 乾燥マローファット豆を一晩(12~16時間)お湯に浸しておく。本文中でご紹介したブランドのものであれば、中に入っている錠剤をお湯に混ぜて。豆のみで購入した場合には、重曹を加えてください。
  2. 浸水させた豆をよく洗い、鍋に入れ、600mlの水を加えて約20分程煮る。好みで塩、砂糖を加える。
  3. 豆の形が崩れ、よく煮えたら味見をして、足りなければ塩、砂糖を加える。好みの柔らかさになったら出来上がり。
memo

リサーチを兼ねて、先日、フィッシュ&チップスを、マッシー・ピーズにディップして食べました。豆は淡白な味付けなので悪い組み合わせではないのですが、お腹がかなり膨れます。でも、イングランド北部出身のフード・ジャーナリスト、アンドリュー・ウェブさんによれば、かの地ではフィッシュ&チップスにはマッシー・ピーズと食パンが欠かせないとのこと。そのセットを食べ切るのはさすがに勇気が要りそうです。

 

マクギネス真美マクギネス真美
英国在住の編集&ライター。日本での9年半の雑誌編集を経て、2003年渡英。以降、英国を拠点に、ライフスタイル、ガーデニング、食などの取材、執筆を行う。英国料理の師は義母。
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