毎年この時期になると、野外イベントやカフェテリアの特設会場として、ケンジントン・パーク内に位置するサーペンタイン・ギャラリーに隣接して仮設の「サマー・パビリオン」が建設される。世界的には有名でも、まだ英国に実作がない建築家を招待して、彼らの力量を英国に紹介することも目的の一つだ。
3カ月間の仮設パビリオン
陽気に誘われ公園を訪れる人々に、世界で活躍する一流の建築家やデザイナーの作品を、写真や模型ではなく、実作を通して体験させるというコンセプトのもとに誕生したこの企画。2000年から始まったサマー・パビリオンは今年で9年目を迎え、今ではロンドンの恒例行事となっている。世界で最も注目を集める仮設建築物と言っても過言ではない。
日本からは、仙台メディア・テークや、表参道のショップ「Tod's」で知られる伊東豊雄氏が2002年に抜擢され作品を手掛けた。そして今年披露されるのは、スペイン北部の都市、ビルバオに出現したチタン鋼の曲面が艶かしいグッゲンハイム美術館で一躍その知名度を挙げた米国現代建築の鬼才フランク・ゲーリー(1929年~)による、木とガラスのパビリオンだ。
ゲーリーと言えば、彫刻のような建築物を生み出すことで知られる。幼いころから魚が持つ美しい曲面に魅せられ、そのフォルムを建築で再現しようとしているという。とはいえ、今回のパビリオンにはゲーリー特有の流線型は全く登場していない。わずか6カ月という期間と限られた資金では、グッゲンハイムのミニチュア版を作ることは不可能に近かったのだろう。何しろパビリオン建設は特に予算が組まれているわけではなく、案ができた時点でスポンサーから資金を募るという仕組みなのだから。
さて、今回のデザインには、カリフォルニア州サンタモニカにある自邸のデザイン、つまりゲーリー建築の原点を彷彿とさせるものがある。丸や四角といった整形の幾何学に囚われない自由な形態の集合美とも言えよう。ゲーリーは、レオナルド・ダ・ヴィンチによる精巧な木製のパチンコ(カタパルト)などからヒントを得たと語っている。
落ちこぼれと言われた学生時代
ゲーリーのデザイン事務所では、通常、航空機などの流線型を解析する特殊なコンピューター・ソフトを駆使してデザインしている。面白いのは、コンピューターで形を模索するのではなく、紙や金属を使って好みの模型を作った後、三次元スキャナーで立体を読み取り、面を描き出していることだ。この過程は一般的な設計手法と逆行しており、ゲーリーが造形作家と言われる所以でもある。
各国で公開されたドキュメンタリー映画「スケッチ・オブ・フランク・ゲーリー」の中で、ゲーリーは大学生の頃、指導教授から「君は建築家には向いていない。他の職業を探すべきだ」と酷評されたと回想している。皮肉にも「落ちこぼれ」のレッテルを貼られた学生が、後に21世紀を代表する建築家にのし上がったのだ。公園とギャラリーを繋ぐ、木でできた都市回廊とも言えるこのゲーリーの作品は、10月19日まで一般公開されている。
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