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Sun, 22 December 2024

オープンハウス・ロンドン2007

毎年恒例のロンドン・オープン・ハウスの季節がやってきた。9月15、16日の2日間にわたって計660もの建築物が一般に公開される。興味のある建物を気の向くままに訪ね歩くのも一興だが、限られた時間を有効に使うため、エリア毎、テーマ別に訪れる場所を絞り込むのも一つのやり方。多くの有名建築が集積しているシティやウエストミンスターならば、一日で多くの建築を周ることが可能だし、欲張らず郊外の名建築を時間をかけて訪れるというのも悪くない。今回の特集では、ほんの一例としてモデル・コースを紹介する。(建築家: 藍谷鋼一郎)

おすすめコース1

ルネサンスからコンテンポラリーまで
新旧建築様式の対比を楽しむシティ・ルート

金融の中心シティでは、古典建築を範とする石造りの瀟洒な建築の中に、ハイテク建築や全面ガラス張りの現代建築など、新しい時代の息吹が見事に溶け込んでいる。世界をリードし続ける金融界さながら、各々の様式の建築にも潤沢な資本を投入し、名実共に最高のクオリティーを実現している。

モデルプラン 地図
9:30Bank of England
11:3030 St Mary Axe
ランチ
13:30Lloyd's of London
タワー・ブリッジを横断
15:00City Hall
16:00More London-Earnt & Young HQ
再開発地域、バトラーズ・ワーフの複合施設内のレストランでディナー

9.30パルテノン神殿を模した古典主義建築
Bank of England

Bank of England「スレッドニードル通りの老婦人」の愛称で親しまれる連合王国の中央銀行、イングランド銀行。バンクの交差点付近に位置し、通りを挟んで向かい側には、高級ブティックやレストランに様変わりした旧王立証券取引所がある。シティの中心に位置する、まさにロンドンを代表する建造物の一つだ。

住所: Threadneedle Street EC2R 8AH
オープン期間: 15日(土)、16日(日)9:30~16:30(最終入場16:00)
最寄駅: Bank、Liverpool Street

11.00ミサイルか、はたまた巨大なキュウリか!?
30 St Mary Axe "Gherkin"

30 St Mary Axe予約制だが、今年も長蛇の列が予想される「ガーキン」。芸術と科学の融合を目指す大建築家、ノーマン・フォスター卿設計の「キュウリの漬物」ガーキンは、今ではすっかりロンドンのランドマークとして定着した。ロンドンを360度眼下に眺めることが出来る最上階の展望フロアーは、カプセル状の無柱空間になっている。

住所: 30 St Mary Axe EC3A 8EP
オープン期間: 15日(土)、16日(日) 8:00~17:00
* 公式ウェブサイトより要予約
最寄駅: Bank、Aldgate、Liverpool Street

13.30英国ハイテク建築の総本山
Lloyd's of London

Lloyd's of London産業革命と共に、英国が世界に誇るハイテク建築のトップ・スター、リチャード・ロジャース卿の代表作であるロイズ保険本社ビル。配管などの建築設備を外部に露出させた外観は、工場のような印象を与える。パリのポンピドー・センターは、ロジャース卿とハイテク建築の朋友、イタリアのレンゾ・ピアノが共同設計した出世作だ。

住所: One Lime Street EC3M 7HA
オープン期間: 15日(土)10:00~17:00
(先着順。最終入場16:00)
最寄駅: Bank、Monument、Liverpool Street

15:00テムズ河畔に転がるヘルメット
City Hall

City Hall巨匠、ノーマン・フォスター卿設計のロンドン市庁舎。賛否両論はあるが、元々は環境を考慮した建築とされている。例えば「同じ容積ならば、直方体より球面にする方が、表面積が少なくなり断熱効果が高い」といった具合に。だが実際には全面ガラス張りのため、空調負荷が高く、光熱費が高くつくといった批判も起こっている。

住所: The Queen's Walk, More London SE1 2AA
オープン期間: 15日(土)、16日(日)9:30~17:30(最終入場17:00)
最寄駅: Tower Hill、London Bridge

16:00美しい景色を眺めながら働く超近代オフィス・ビル
More London -- Ernst & Young HQ

More London長年にわたり遊閑地だったエリアを床面積の広い近代ビジネス・パークとして再開発した、フォスター設計のガラス張りのオフィス・ビル群。タワー・ブリッジやシティなどの眺望が最高だ。ロンドン・ブリッジ駅から市庁舎まで、敷地内を対角線上に横切るメイン・ストリートが特徴的。

住所: 1 More London Place SE1 2AF
オープン期間: 15日(土)13:00~17:30
(先着順。最終入場16:45)
最寄駅: London Bridge


おすすめコース2

ロンドン開発のトレンドは水辺のアメニティー
テムズ河沿いのウォーターフロント・コース

今や時代の潮流とも言えるウォーターフロント開発。タワー・ブリッジ以東のドックランズは、80年以降衰退した埠頭の再開発が活発な地域として世界的に知られる。テムズ河沿いには、デザイン・ミュージアムやお洒落なレストランが軒を並べる再開発地域、バトラーズ・ワーフを始め、倉庫を再生させたオフィス・ビルや集合住宅が目白押しだ。

モデルプラン 地図
10:00Rogers Stirk Harbour + Partners
人気シェフ、ジェイミー・オリバーが弟子入りしていたイタリアン・キッチン River Caféでゆったりランチ
(River Café : Thames Wharf, Rainville Road W6 9HA)
12:00Foster + Partners Studio
14:00Trinity Buoy Wharf/Container City
15:30Thames Barrier & Information Centre

10.00建築デザインの発信基地を覗いてみよう
Rogers Stirk Harbour + Partners

Rogers Stirk Harbour + Partnersハイテク建築の父、リチャード・ロジャース卿の設計事務所。旧石油精製所をアトリエとして改装している。74歳という高齢を迎えるにあたり、後継者へのバトンタッチとして近年事務所の名前が変わったが、今もロジャースは健在。常に新しいデザインを発信し続けるデザインの現場を見ることができるのも、オープン・ハウスの醍醐味だ。

Thames Wharf Studios,
Rainville Road W6 9HA
オープン期間: 15日(土)10:00~16:00
(先着順。最終入場15:45)
最寄駅: Hammersmith

12.00フォスター王国の本拠地
Foster + Partners Studio

Foster
前述のフォスター事務所の本社ビル兼集合住宅。テムズ河に面した2層吹き抜けのアトリエや、エントランス部の大階段が興味深い。最上階にあるペントハウスはフォスターの自邸。西隣の建物と比べると、同じ設計者が時代の変遷の中で、全く違ったデザインを追求している様子がよく分かる。

住所: Riverside, 22 Hester Road SW11 4AN
オープン期間: 15日(土)10:00~17:00(最終入場16:45)
最寄駅: Sloane Square、South Kensington、Clapham Junction

14.00コンテナを積み重ねても、建物は出来る!
Trinity Buoy Wharf / Container City

Trinity Buoy Wharf / Container City2012年ロンドン・オリンピックの開催地の一つ、リー・バレーの河口にあるコンテナ・シティ。輸送用のコンテナを積み重ね、デザイナーやアーティストのためのスタジオを造っている。人里離れた埠頭という立地上、一見近寄りがたい雰囲気を醸し出しているが、オープン・ハウス中なら堂々と見学することが出来る。

住所: 64 Orchard Place Leamouth, E14 0JW
オープン期間: 15日(土)、16日(日)
10:00~16:00(最終入場15:30)
最寄駅: East India(DLR)、Canning Town(DLR/Rail)

15.30ロンドンを洪水から守る華麗な可動堰
Thames Barrier & Information Centre

Trinity Buoy Wharf / Container Cityテムズ河を航行する船のように優美なフォルムのゲート。普段は川底に隠れている回転式の堰は、一般的に無骨なイメージのある河口堰とは大違いで、英国のインダストリアルな伝統と職人芸を感じさせる構造物だ。隣接するインフォメーション・センターでは、河口堰のメカニズムやテムズ河の生態系などを学ぶことが出来る。

住所: 1 Unity Way, Woolwich SE18 5NJ
オープン期間: 15日(土)、16日(日)
10:30~16:30 (最終入場16:00)
最寄駅: North Greenwich、Charlton(Rail)

彼らを抜きにしてロンドン建築は語れない
リチャード・ロジャースとノーマン・フォスター

英国建築を代表する2大建築家と言えばリチャード・ロジャース卿とノーマン・フォスター卿。イタリアのレンゾ・ピアノと共にハイテク建築の御三家と呼ばれている。

ロマネスク様式やゴシック様式など、大聖堂や教会建築に時代の潮流が現れた中世建築様式以降、時代は王族や大富豪などの宮廷建築、つまりルネサンス様式や華麗なバロック様式に比重が移行した。その後も古典建築寵愛の傾向は19世紀頃まで続いたが、産業革命後、鉄という新しい建築材料の出現により、建築デザインは跳躍的に発展することになる。モダニズムの20世紀、近代建築の到来だ。

鉄とガラスとコンクリートというマテリアルを駆使して確立された、これまでとは全く異なるスタイル。しかし工業化の波にもまれ、モダニズムは焦点を失う。単なる四角い箱の建物が世界中に繁殖してしまったのだ。そして各国の建築家たちは、こぞって次の様式を模索し始めた。そんな混沌とした時代にあってガラスや鉄を巧みにデザインしたシャープで機械的な建築が出現する。これがハイテク建築である。

ハイテク建築の御三家はそれぞれ密接に関わりあっている。ロジャースとフォスターは米国イェール大学に学んだ後、チーム4という設計事務所を共同で設立。その後ロジャースは、ピアノとチームを組み、パリのポンピドー・センターの国際コンペを勝ち取った。やがて、3人は各々の設計事務所を開設し、独自の建築スタイルを確立、70歳を迎える今もみな現役で活動中だ。

ロジャースの代表作には、ロイズ・オブ・ロンドンやミレニアム・ドーム(現The O2)があり、フォスターの代表作には、30セント・メリー・アクス、スタンステッド空港などがある。

フォスター卿の代表作の 一つ、スタンステッド空港(右上写真) Photo: www.britainonview.com
ロジャー ス卿とピアノが共同制作 したパリのポンピドー・ センター(下右写真)
Photo: Philippe Migeat, Georges Méguerditchian,
Centre Pompidou

多様化する建築様式を見付け出す
モア・ロンドン・アーキテクチャー

実に様々な建築様式が花開く街、ロンドン。この地では、新しいデザインの潮流を求める現代建築や、ブルータリズムと呼ばれるコンクリートを駆使した暴力的な近代建築、地球環境に優しい省エネ建築など、古典建築も含めて、各時代を代表する建物が当時の最先端の技術・英知を集結した形で実を結んでいる。世界を代表する巨大都市ロンドンの魅力に、さらに迫ってみたい人にはこんな建築物もお勧めだ。

まるでカフェみたいな図書館
Idea Store - Whitechapel

Idea Store今をときめく建築家、デービッド・アジャニの力作。斬新な色ガラスの組み合わせによるファサードは、灰色のイーストエンドに奇妙な光を照らしている。公共図書館のあり方・使い方についての新しい提案が随所に見られる新しい時代の図書館だ。

住所: 321 Whitechapel Road E1 1BU
オープン期間: 15日(土)9:00~17:00、
16日(日) 11:00~17:00(最終入場16:30)
最寄駅: Whitechapel

再生可能資源を活用したゼロ・エネルギー建築
BedZED

Idea Store設計者と環境コンサルタントが手を組んだピーボディ・トラスト社による省エネルギー建築。BedZEDとは、「Beddington Zero Energy Development」の略で、エネルギー消費の少ない持続可能なサステイナブル建築の模範作だ。省エネのアイデアが盛り沢山な100戸の住宅と10のオフィス・スペースから成る。

住所: 24 Helios Road, Wallington SM6 7BZ
オープン期間: 15日(土)、16日(日)
10:00~17:00(最終入場16:30、ツアー開始時間11:00~16:00)
*Eメール( このメールアドレスは、スパムロボットから保護されています。アドレスを確認するにはJavaScriptを有効にしてください )にて要予約。
希望日時を記載のこと。
最寄駅: Hackbridge(Rail)、Mitcham Junction(Rail)

一風変わった宇宙船のような教室
Classroom of the Future - Ingenium

Idea Store未来の建築はどうなるか。その一つの解法として、流線的なフォルムや宇宙船のようなカプセル型の建築を造り続けるデザイン・チーム「フューチャー・システムズ」。王立クリケット場にあるロード・メディア・センターなどを手掛けた彼らが設計したこの教室は、子供に夢を与え、想像力を掻き立ててくれる。

住所: Meadlands Primary School, Broughton Avenue TW10 7TS
オープン期間: 15日(土)10:00~13:00(先着順)
最寄駅: Richmond

レンガの街に舞い降りた白亜の異次元空間
Donnybrook Quarter

Idea Storeレンガ造りの建物が立ち並ぶ都市のコンテクストの中に、一際目に付く白亜の集合住宅。街の景観、あるいは調和を乱す異文化の挿入とも取られかねない冒険的、実験的な開発。プライベートな空間とパブリックなストリートの関係性が豊かに表現されている。

住所: Junction of Parnell Road and Old Ford Road E3 2JD
オープン期間: 15日(土)12:00~16:00(最終入場15:30)
最寄駅: Bow Road、Bow Church(DLR)

モダニズム・ブルータリズムの象徴
Trellick Tower, Balfron Tower

Idea Store作家イアン・フレミングにより映画「007」シリーズで希代の悪役に名前を使われた建築家ゴールドフィンガー。これら2つの建造物は、1950年代に起こったコンクリートの打ち放しのラフな表面、暴力的・威圧的な外観が特徴的なブルータリズム建築の記念碑的建物である。

Trellick Tower
住所: 5 Golborne Road W10 5UT
オープン期間: 16日(日)
10:30~16:30(最終入場16:30)
* オープン・ハウス事務局を通じて要予約。
最寄駅: Westbourne Park

Balfron Tower
住所: St Leonard's Road, Poplar E14 0QT
オープン期間: 15日(土)、16日(日)
10:00~17:00 (先着順。最終入場16:30)
最寄駅: Stratford(DLR、Rail)、Canning Town 、All Saints(Rail)

オープン・ハウス事務局インタビュー

今や世界の各都市から熱い視線を送られる都市イベント、オープン・ハウス・ロンドン。創設ディレクター、ヴィクトリア女史により考案された「建築文化の啓蒙活動」は、行政や民間、はては多くの市民の支持を得て今回、開設15周年を迎える。写真や映像では伝えきれない空間芸術である建築を、オープン・ハウスという形で支えるオープン・ハウス事務局。華やかな世界を舞台裏で支える事務局のジェニ・ホスキンさんと佐々木博美さんに話をうかがった。

Open House London事務局
毎年9月の週末に開催される都市イベント、オープン・ハウス・ロンドンを始め、講演会や学校でのイベントなどを通し、市民の建築への興味を深めることを目的とした建築教育機関。
Address: Open House, 4th Floor, 297 Euston Road London NW1 3AQ
Tel: 020 7383 2131
www.openhouse.org.uk

Q: オープン・ハウスに選ばれる建物はどうやって決めているのでしょうか。選考基準はあるのですか。

A: 国内外での受賞経験のある、デザインの質の高い建築リストなどを参考に、我々がリストアップを行っています。また英国建築家協会(RIBA)などから、情報提供を受けることもあります。逆に建物の所有者から、一般公開したいという希望を受けることも。その場合は、事務局のスタッフが現地を訪れ、建築の質が基準に達しているか判断します。

Q: 事務局で働くフル・タイムのスタッフは何人くらいいるのですか。また、イベント開催時に出動するスタッフの総数は。

佐々木博美さん
佐々木博美さん

A: ディレクターを含め13人の正社員がいますが、オープン・ハウスのイベントに携わっているのは我々2人だけなのです。加えて10人の契約社員、20人のボランティア・スタッフの協力によって、日々の情報集め、各イベントの運営を行っています。それとは別にオープン・ハウスの開催時には、2日間で約4000~5000人のボランティアの人たちがビジターを安全に誘導する警備係や、実際にお客様を案内するツアー・ガイドを担当してくれます。ボランティアなので無償ですが、開催期間中、公開建築に入場する際に行列をスキップすることが出来るという特典があります。

Q: 運営費はどのように捻出しているのですか。また建物の公開に協力してくれた人たちへの謝礼はどのようになっているのでしょう。

A: 1回のイベントで約25万ポンド(約5840万円)の費用が必要になりますが、ロンドンにある32の自治体(Borough)や、ロンドン交通局(TfL)などの公的機関、建設業者や設計事務所の支援を得て運営されています。この事務所スペースもAllgoodという建材メーカーのスペースを貸してもらっているんですよ。建物を公開してくださる企業や個人の方々にも、無償でご協力頂いています。

Q: 今後のオープン・ハウスの目標を教えてください。

ジェニ・ホスキンさん
ジェニ・ホスキンさん

A: もともとオープン・ハウスは、一般の人に建築という文化を知ってもらいたい、身近に感じてほしいという啓蒙思想の下に始まった活動です。ですからオープン・ハウスの2日間以外にも、幼稚園や小学校などに出向いて、模型を作ったりする教育活動も行っています。素晴らしい建築を実際に訪れ、空間を体験することは、建築という文化に対する理解を深める上で、かけがえのない経験となります。専門家を育てるためではなく、一般の人たちの建築教育の場を、今後も拡大していきたいと考えています。

 

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