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Mon, 23 December 2024

Life at the Royal Ballet バレエの細道 - 小林ひかる

第32回 Behind the camera: カメラの後ろ

21 February 2013 vol.1381

シャッターチャンス!
シャッターチャンス!

幼かったころ、3歳から13歳ごろまで、ファッション・モデルやテレビのCMモデルとして仕事(?)をしていました。子供心に、同じ場所でポーズをとり続けなければならないファッション・モデルの仕事より、大きなスタジオに設えられた毎回設定の異なるセットの中で、自分自身のままでいられるCM収録の方が、解放感があり、楽しんでいたのを覚えています。

一つ笑い話がありまして、CMでは何回か同じ場面を収録する必要があるのですが、そうした収録の際、幼いが故のトラブルを巻き起こしていました。食べ物のCMで、実際に食べるところを収録するときには、本当に食べてしまうと、何回もやっているうちにお腹がいっぱいになってしまい、おいしそうな表情ができなくなってしまいます。そのため、商品を口に入れはするものの、飲み込む前に吐き出させられてしまうのですが、小さかった私は、実際に食べたくて(特にマクドナルド!)、吐き出させられる前に急いで飲み込んではスタッフさんを困らせていました。

ファッション・モデルの仕事も、奇麗な洋服を色々着させてもらえ、結構楽しんでいましたが、解放感はありませんでした。あくまでも主役は商品であり、自分は着せ替え人形的な存在になるからでしょうか。もちろん、幼かったころはこのようなことを考えもしていませんでしたが、最近参加したある出来事により、芸術とファッションの違いに思いを馳せることとなりました。

それは、先日開催された、写真家リック・ゲストによる、ロイヤル・バレエ団のダンサーをモデルとした写真の展示会「Now Is All There Is - Bodies In Motion」でのこと。振付家ジョージ・バランシンの言葉を引用したタイトルが付けられたこの展示会では、写真、ダンス、ファッションという3つの異なる分野が一緒になり、モダン的なバレエの世界を表した作品が並びました。

その展示会の写真のモデルの一人となった私ですが、今回の撮影過程は、昔、日本でファッション・モデルとして行った写真撮影とは全く異なる感覚を覚えるものでした。

撮影のコンセプトは、古典的なバレエからはかけ離れた衣装を身に着けたダンサーが、肉体とその動きを使って、衣装を体の一部として表現するというもの。撮影はバレエのスタジオではなく、写真専用のスタジオで行われましたが、これについては、私たちダンサーを使い慣れた場所から遠ざけるなど、普段、私たちにとってあまりなじみのない要素をわざと入れたと聞いています。

通常私たちは、2000人以上のお客様の前で、バレエ用に作られた弾力性のある床の上で踊っていますが、撮影時に目の前にいるのはたった4人のスタッフで、足元は硬いコンクリートの床。そうした状況の中、バレエの要素を取り入れた動きですべてを表現する必要があるわけです。バレエの舞台では、連続した体の動き、つまり踊りで表現するため、時間に余裕がありますが、写真は動きの一瞬を捉えます。カメラマンのシャッター・タイミングもありますし、自分自身の動きのバランスもあるので、ほんの一秒でカメラマンとともに表現したいものを凝縮するという作業を行うのは、容易いことではありませんでした。

凝縮された一瞬の芸術というのも、難しいものですね。

 

 

 

 

 

 

小林ひかる
東京都出身。3歳でバレエを始める。15歳でパリ、オペラ座バレエ学校に留学。チューリッヒ・バレエ団、オランダ国立バレエ団を経て、2003年から英国ロイヤル・バレエ団に入団。09年ファースト・ソリストに昇進した。
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